「死んだ?母さんが?なんで?買い物に行っていたはずじゃあ…」

頭が痛くなってきた。何で俺は女になってるんだ?何で母さんが死んだんだ?俺は生きているのだろうか?一体…なにが……どうなって……

「あった、あった」

男が戻ってきた。

「どれどれ……ふぅん…。三日前の一時頃、二丁目の交差点で乗っていた乗用車のタイヤに不都合が起きて……母親は即死か……」

「違う!俺は突っ込んできたトラックにぶつかって…」

男が変な顔をした。

「それって昨日の事故だよね。でも可哀想だよね。家の中にいた男の子、君が目を覚ます少し前に亡くなったみたいだよ。さっきニュースでやってた。確か…森 良平君だっけ」

金づちで頭を殴られたみたいだった。俺が死んだ?じゃあ、ここにいる俺は…

「あ、そうそう。君、お母さんと二人暮らしだったよね。今、従兄弟の人達が来てるよ。病室教えといたから」

男がそう言った時、見たこともない女の子と女の人が一人、男の人が一人入ってきた。

「空姉ちゃん。久しぶり」

女の子が言った。いや、久しぶりもなにも会ったことないよ?

「空ちゃん、大変だったねぇ。これからどうするの?もし、よければ…」

女の人が
いつの間にか、俺の横たわっていたベッドの横に白衣を着た男が立っていた。

「誰……?」

「あれ?忘れちゃった?まぁ、今はそれどころじゃないか…」

男は不意にポケットから注射器をとりだし、俺の首筋に注射した。不思議と心臓の痛みが退き、吐血も治まった。

「君、本当に僕の事覚えてない?自分の名前言ってみな」

「俺とお前は初対面だろ?あと、俺は森 良平。心臓が弱いなんて聞いたこともないぞ」

「あれ?しゃべり方変わった?前は『私』とか言ってたのに。それに君の名前は霧嶋 空。のはずだよね」

「だから、違うって……あれ?」

声が少し高くなっているような…

「じゃあ鏡、見てみなよ」

男は近くにあった鏡台を俺の前に持ってきた。鏡に映ったのは、色白の美少女。なんで?

「女?」

「うーん…記憶障害かなあ?お母さんも亡くなってるし、確認のしようがない」

母さんが……死んだ?

「ちょっとカルテ見てこようかな」

そう言って男は出ていった。
ボフッ!

俺は干し終わったばかりの布団の山に飛び込んだ。太陽の光を浴びた布団が優しく俺を包み込む。

「きっもちいいー!」

いつもなら怒鳴る母さんが今は買い物に行っていて家にいない。この家には俺と母さんの二人しかいないから母さんがいない今、この家は完全に俺の支配下だ。窓からは暑い夏の日差しが射し込んでいるけど、冷房をかけたこの部屋は日頃の疲れを癒すのには申し分なかった。『鬼のいぬ間の洗濯』というやつだ。俺が布団と戯れていると、耳をふさぎたくなるブレーキの音と、甲高い悲鳴が聞こえた。

「何だ……?」

次の瞬間。バリリリッという音を発てて家の壁が崩れ落ちた。目の前には大きなトラック。突然の事に頭が回らない。俺は成す術もなく吹き飛ばされた。そんで、目の前が真っ暗になった……。





ピーッピーッという音で、俺は目が覚めた。目の前には清潔そうな白い壁が広がっていた。ふと、横に目をやると、点滴の袋が見えた。しばらく考えて、ここは病院なんだな…と分かると、ボンヤリしていた意識がハッキリしてきた。俺は慌て上体を起こした。

「そうだ…、俺、トラックに吹き飛ばされて……」

そこまで考えた時、いきなり心臓が破裂