雨に沈んだ無敗馬(2010年皐月賞) | 競馬ロマン主義

雨に沈んだ無敗馬(2010年皐月賞)

この年のクラシックは西のギヤテク・レースホーシングチームの独壇場。「栗東四天王」と呼ばれる有力牡馬四頭を抱え、実際三冠戦は全てこの四頭の争いとなったのである。

中でも筆頭格はギヤテクバリスであった。ヒヨシマルの初年度産駒で、母はアンジェリークにエリ女で競り勝ったメイジブラボー。父同様の栗毛だが、戦術は先行タイプの父に対し、鋭い差し脚を武器とした。神通力があるかのごとき伸び脚を誇り、「神童」と謳われた。3歳戦では順調に新馬戦・野路菊S・京成杯3歳Sと勝ち上がり、朝日杯3歳Sでは同門ビクトリームサシに1・1/4馬身つけて見事な1・2フィニッシュ。さらにたんぱ3歳Sでもビクトリームサシを2馬身半差で下して5連勝で3歳戦を終え、文句なしの父子二代の3歳チャンピオンに輝いた。

4歳になっても勢いはとどまらず、京成杯を6馬身差の圧勝、通信杯4歳Sではビクトリームサシに今度は5馬身差の勝利。ただ弥生賞ではシンザン記念の覇者同門マッドサージに3/4差の辛勝だった。ともかくギヤテクバリスはデビューから8連勝の無敗、万全の体制で皐月賞に臨んでいったのである。

皐月賞には4歳になってからバイオレットS・アーリントンC・スプリングSと3連勝して頭角を現してきたやはり同門のマッドストンパーも参加してきた。ビクトリームサシも若葉Sを勝って臨んでくる。もうお気付きと思うが、このギヤテクバリス・ビクトリームサシ・マッドサージ・マッドストンパーの四頭が、即ち「栗東四天王」である。

皐月賞本番はあいにくの雨、不良馬場の戦いとなった。最後の直線、いち早くギヤテクバリスが抜け出す。しかし、その伸び脚は止まってしまう。彼は重が得意ではなかったのだ。これまで鋭い差し脚で8連勝してきた彼であったが、雨でその武器を殺されてしまった。もがき苦しむギヤテクバリスを、重巧者のマッドサージ、ビクトリームサシが相次いで交わす。無敗馬は雨に沈んだ。チェリーバトル産駒のマッドサージが勝ったことで、ヒヨシマルの初年度産駒の三冠制覇は阻止されたのである。


2010年皐月賞 不良馬場

1 マッドサージ 2.02.06 3番人気 江賀騎手・差し

2 ビクトリームサシ クビ 4番人気 小野・追込

3 ギヤテクバリス クビ 1番人気 岸田・差し

6 マッドストンパー 2.03.05 2番人気 藤島・差し


マッドサージ…馬名の由来は北斗の拳の悪党。父はチェリーバトル、母はケイコクチョウセン。鬼軍曹のその名に似合わず気性の良い扱いやすい馬であり、道中中段待機して安定した差し脚を使うことができた。四天王の中でも、早熟のギヤテクバリス、気性難のビクトリームサシらより安定感のある息の長い活躍を見せ、皐月賞の他、天皇賞秋・ジャパンC・有馬記念を勝ち、引退レースの有馬記念でも2着した。ベオウルフ以前のチェリーバトルの最高傑作。種牡馬としてもミリオンパワーを出して成功した。


ビクトリームサシ…馬名の由来はファイプロのアントニオ猪木モデルのキャラ。ギヤテクバリスと同じくヒヨシマルの初年度産駒で、母はアンジェリーク。血統的にもギヤテクバリスと因縁深い。この後、菊花賞でギヤテクバリスに6馬身差の圧勝。年末の有馬記念では、半兄シデンカイとウエストテンマの前世代ライバルをまとめて豪快に差しきり、大逆転で年度代表馬に輝いた。GIは計6勝で、四天王中最多。ただ気性難で追込一辺倒、パワフルアクトほど気性難がプラスに働いていないこととGI勝利数から、「パワフルアクト二分の一」などという妙なニックネームで呼ばれることもあった。実際、底力は№1なのだが、気性難が両刃の剣的に働いていたようだ。


マッドストンパー…馬名の由来はウィザードリィVのNPC。スプリングSやNHK杯を勝ったが本番ではダービー3着までという典型的なトライアルホース。GI勝利はついになかった。実力等から「四天王の末席」というニックネームが付けられた。戦術は当初差しだったが、後に先行型に転換。5歳の夏にその先行策でGⅡ最高峰の高松宮杯を勝ち、「四天王は末席でも強い!」と一時もてはやされたが、結局それが最高勝ち鞍に終わった。


ギヤテクバリス…この後、ダービーでは思いきった単騎逃げの戦法がハマって、マッドサージに7馬身差の圧勝を飾った。だが菊花賞ではビクトリームサシに完敗。神通力があるかのような鋭い差し脚は次第に影を潜め、早熟がささやかれた。「神童」のニックネームが皮肉にハマる。翌年暮れ有馬記念を勝つが、「復活」と言われたほど。一時往年の力を取り戻したが、次第に見る影もなくなっていった。それでも7歳まで現役を続け、種牡馬入り。自身は早熟だったが血統のせいか産駒はオクテ。さほど人気はなく不遇をかこつかと思われたが、突如「ヒヨシマル三世」と言われた超大物・ギヤテクハリスを輩出し、大逆転で父の嫡流筋をつないだのである。