大学生の頃、山口県の田舎に住んでいた。家と学校と田んぼと山、スーパーと本屋とレンタルショップ。遊びに行くとしたら、カラオケかボーリングしかないような、そんな町だ。

 

そんな町でも音楽は激しく鳴っていた。

 

中学、高校と、音楽にのめり込んでいくも、憧れのバンド活動は高校の文化祭での演奏程度。音楽への思いと裏腹にうまくバンドをやれていなかった私は、大学でバンドサークルの門を叩くことになる。

当たり前ではあるが、そこにはバンド好き音楽好きな奴らがたくさんいて、自分が知らなかったバンドや音楽にたくさん触れるようになった。

 

そのサークルに、極端に短髪でがっしりとした体つきの男がいた。雰囲気や喋り方からも妙に落ち着いた印象だったこの男こそ、のちに一緒にバンドを組むことになる、ケンサクである。(バンドを組んでからは何故かケンサクのことが大好きになり、スタジオの度にケンサクの写真を撮っていた程だった。)

同じ新入生であるが一つ年上であったケンサクは、テレキャスターとジャズマスターという2本のギターを持つギタリストだった。そんなケンサクが好きだったバンドが、NUMBER GIRLだ。(ケンサクの2本のギターは、なんとNUMBER GIRLのギタリスト2人がそれぞれ弾いているギターだったのだ!)

 

 

NUMBER GIRL

通称、ナンバガ。

 

 

ナンバガはバンド界隈で知らない人はいないくらいの大人気であったが、2002年に解散をしてしまう。

あの星野源も、高校卒業して、バイトしながら将来が見えずお先真っ暗だったとき、鼓膜破れんばかりの爆音で聴いていたというナンバーガール。アーティストのファンも多い。

そして17年の歳月を経て、衝撃的な再結成を果たした。

 

中心人物であるボーカルギターの向井秀徳が、その時に出したコメントも素晴らしい。

 

2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。

またヤツらとナンバーガールをライジングでヤりてえ、と。

あと、稼ぎてえ、とも考えた。俺は酔っぱらっていた。

俺は電話をした。久方ぶりに、ヤツらに。

そして、ヤることになった。

できれば何発かヤりたい。

 

向井秀徳

 

ちゃんと稼ぎたいところが良い。

 

 

 

そんなこって、またしても動き出したナンバーガール。

去年のフェス出演やツアーを経て、今回もツアー「逆噴射バンド」で全国を回っていた。

3/1、追加公演をやる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため公演を延期。

無観客状態でライブを決行、映画館での生中継と、YouTubeでの配信となった。

 

パソコンの画面ごしに見る、ナンバーガール。

実はちゃんとライブを見るのが初めてだということに気づく。

 

なんだこのかっこよさは、みんなもう今はいい歳したおじさんたちなのに、めっちゃカッコイイのだ。

インターネットで見る当時のナンバーガールも若く儚い危うさに痺れるが、今のナンバーガールは歳を重ねたヤバさがすごい。本物のヤバさ。ヤバいの語彙力のなさに辟易しそうになるがそれを凌駕するほどのヤバさだ。ヤバイさらにやばい、バリヤバ。

 

とんでもない余談ではあるが。

This is 向井秀徳は独特のMCをする。MCというより語りだ。

それが落語のようにも見えてきて、向井秀徳がもはや(立川)談志に見えてきた。

いい歳の取り方も相俟って、落語家のよう。とんでもない落語家だけど。

博多弁で話す独特の語り、それも好きだ。

 

 

無観客のライブハウスで、その空間を切り裂くように爆音のドラムとギターとギターとベースが絡み合う。

照明やカメラワークや演出も全て含めて、とんでもない作品を見ているなって実感があった。誰もいない客席のフロアに突如現れたマスク姿の男が躍り狂い(そのダンサーは森山未來であった)、何本ものくわえたタバコに火をつけた向井秀徳はカメラに向かって拳銃を乱射する。今回の収録用に向井さんが特別に考えた演出もあるらしいが、本番中の数々のアドリブにきっちり対応していたカメラクルーも素晴らしかった。これはDVD化するしかねぇだよ。作品として素晴らしすぎる。

 

とんでもないものを見てしまった。

ZAZEN BOYS(向井がナンバガ解散後に結成したバンド)の緻密に構成された難解さと美しさと即興性も好きだが、このNUMBER GIRLの刹那さと激しさと焦燥感もなかなか良いものだ。

 

 

 

あの頃から、幾年。

ケンサクも配信、見てたかな。

当時のOMOIDEから距離も年月も越えて、2020年のTOKYOで私の心臓をまた突き破ったよ。