一年に一度の祭から一夜が明けた。漫才師のオリンピック、お笑いの祭典、「M-1グランプリ」。2001年から10年間、2015年に復活してから5年間、開催されている最も大きなお笑いの賞レース。そして年末に全国放送されている大人気番組だ。

 

もちろん第一回から欠かさずに見ている。実家の寝室で見たM-1の衝撃は今も忘れられない(開始当初はまだ世間の認知も低かったのか居間では他の番組を見ていて追いやられた)。当時はコント番組が主流で、お笑いといえばコントのイメージが強く、漫才というものをしっかり見る機会も少なかったに違いない。ダウンタウン、とんねるず、ウッチャンナンチャンの番組とナインティナインで育った身である。正月のお笑い番組なんかで漫才はやっていたのだろうか、記憶も定かではない。そんな時代の中で、突如始まった漫才アスリートたちの祭典は、僕の心に強い衝撃を与えた。漫才の面白さはもちろんの事、M-1独特のあの緊張感。バラエティ番組ではない、明らかに命をかけた決闘試合がそこにはあった。

 

最初の10年間はイチお笑いファンとして番組を見続けた。敗者復活戦がネットで配信されれば、パソコンにかぶりついて見た。すべての漫才師の生き様を見逃すまいと、トイレに行く間も惜しんで漫才を見続けた。真冬の野外で寒さに震えなから、残された決勝の座を奪うべく奮闘する漫才師たちの姿は、とてもかっこよく見えた。そしてゴールデンタイム、全国のお茶の間へ放送される決勝の華やかなステージで爆笑を取りまくる歴代の漫才師たちの姿は、とんでもなく輝いて見えた。

 

一度は終わったM-1グランプリも。その5年後、復活した。ただのお笑いファンであった僕も、気づけば一応は芸人という肩書きになっていた。コンビで活動していた頃や、先輩と即席のコンビを組んで、出場したこともある。あのM-1グランプリだ。テレビの画面越しに目を輝かせながら見ていたあの大会に、自分も足を踏み入れることになるとは思いもしなかった。自分はというと二回戦にすら進出したこともない。ただただ参加したというだけだ。プロアマ問わずに参加できる大会であるがゆえに、誰でもが手に入れることのできる経歴。後に残るのは出場時に胸元につけるエントリーナンバーの印刷されたステッカーだけだ。そんなのただの参加賞だった。

 

それでも長年この世界に足を浸けているとM-1に対しての関係度も変わってくる。一緒に過ごした仲間や知り合いが、準決勝、そして決勝まで進出してくるようになるのだ。今まで、ほぼ第三者として見ていた漫才師たちのネタを、身内の感覚で見るようになるのは大きな違いがあった。面白いかどうかだけでなく、ウケろ!頑張れ!と応援する気持ちになるのだ。本当ならばここでライバルは蹴落とすくらいの気持ちが必要なのだろうが、自分なんかライバルのラの字どころかRの文字すら発音されていない。かろうじてRを発音する前の巻き舌の寸前の所の芸人だ。「ル」のような音がかすかに感じてもらえればありがたい。

 

何を言いたいのか分からなくなる所だったが、時を戻すと。

 

とにかくM-1グランプリは、お笑いに携わるものにとって一番の祭なのである。

 

昨日も、昼間の敗者復活戦からテレビにかぶりつき、全てを目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

同期の「くらげ」の漫才を祈りながら見る。楽屋中継での喋りもドキドキしながら見た。普通の人からしたらネタ以外での喋りなんて簡単そうに思えるかもしれないが、そんなことは全くない。あの一瞬の会話こそ、とんでもなく難しいのだ。(誰が言っている)

 

 

 

 

決勝への敗者復活は果たせなかったものの、くらげは漫才も喋りも視聴者投票の結果もきちんと力を出し切って見えた。これからもっと仕事も増えるだろうし、また応援していく奴らが増えたと思った。

 

そしてついに決勝。お笑いレジェンドである審査員たちの前での漫才。わずか10組しか踏むことのできないステージ。例年とんでもない緊張感の中で行われる決勝戦。今年はとんでもなく盛り上がったし、とんでもなく波乱だったし、とにかく全組がとんでもなく面白かった。

 

 

 

 

 

 

同期である「オズワルド」が、あの憧れのM-1の決勝戦に出ている。テレビの中で日本全国数多もの人が見ている中、堂々と漫才をしている。それだけに感動したし、胸が熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優勝はできなかったが、オズワルドはめちゃめちゃ面白い漫才をした。あのとんでもないネタ順の中で、きちんとオズワルドの漫才をぶちかました。見ていてカッコよかった。そして漫才後も、めちゃくちゃ痕跡を残した。さすがだぜ伊藤ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M-1グランプリという奴との付き合いは、付き合い方がこれからも変わっていくに違いない。だけどこれからもずっと付き合っていきたいと思わせる奴だ。

 

M-1グランプリは、祭であって、オリンピックであって、そしてとんでもない怪物だ。