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湊かなえ「境遇」を読んだ。
湊さんとの出会いは「告白」そんな人が多いだろう。僕もそうだ。確か映画化されたタイミングで文庫本で読んだのを覚えている。ある朝起きたら、白目がぶよぶよに膨れ上がっていて眼科に行った時も、休日の患者で混雑する待合室で読んでいた記憶が鮮明。あれこそセンセーショナルな記憶、中学生の時に「バトルロワイヤル」を一気読みした時のような気分で読み進めた。それから5年以上経ち、僕にとっての2冊目の湊かなえ作品になった。

この本に出てくるのは、2人の女性。共に幼いころ親に捨てられ児童養護施設で育った過去を持つ2人。同じ境遇で育った2人は親友になり、そして十数年後にある事件に巻き込まれていくという話。

同じ境遇の人との繋がりは、きっと強いものになりやすい。自分と同じ境遇の人と出会うというのは、それで一気に距離感が縮まる。分かりやすい例で言うと、同郷だと分かると一気に親近感が湧くアレだ。同郷ということで、同じ場所で育ったり同じものを見てきたことから話が盛り上がる。故郷だけでもそうなるのだから、自分の置かれた環境、境遇が同じ人というのは共通の思いや共感が多く、考えが似ていたりして、「この人は私のことを分かってくれる」という安心感が湧くのかもしれない。一緒にいた時間はなくても、別々の場所で同じような時間を過ごしてきた過去があると、そこで同じ時間を共有してきたように感じる。

境遇。僕は、これといった不幸なこともなく、そこそこ貧乏ではあるが、それなりに暮らしていけるごく普通に幸せな一般家庭で育った。両親も2人共、完璧な人間ではないかもしれないが、とても尊敬をしている。才能がある人が、とても恵まれた環境(親がアーティスト、親が金持ち)にあったり、とても残酷な環境(それはもう壮絶な過去)にあったりして、優秀な影響や英才教育や、地獄のような経験からの逆境をバネにして才能を開花させるというのに憧れがあった。そんなもののない、ごくごく普通の田舎の家庭。両親2人共、少しヤンチャしていた程度の元ヤンなぐらい。確か2人共、ちゃんとした高校に行っていない、あれそれ考えたら、そこまで一般的な普通のではないのかな。でもそれでもこうやって立派じゃないが子供たちをちゃんと4人も育て上げてきたのは凄いな。やはり尊敬できる。

この本には、親が殺人事件の加害者や被害者というとても残酷な境遇にある人が出てくる。残酷という言葉があっているのか分からないけど。壮絶かな。
そんな境遇であることは、ごく稀だとしても、何らかの問題があって、親を嫌いだったり憎んでしまっていたりしている人もいると思う。まだ自身が若い時はそれがさらに強いと思う。
親を選んで生まれてくることは出来ないし、親がいないということはとても悲しいことだけど、いるけれど憎んでしまうような状況というのは、辛いものがあると思う。本人もそんな状況をのぞんではいないと思うし、幸せな家庭に憧れがあるに違いない。

自分の人生は自分のものだ。その人の人生で何をやったっていいと思う。他人に迷惑をかけることがなければ何だってしてもいい。
でも人生は自分のものだけど、その人の身体というのは実は自分ひとりのものではない。その身体は親のものでもあるかもしれない。自分のものでもあり、親から授かった大事な身体は親のものでもある。
だから人生は、何をやってもいい。でも身体というのは自分だけのものではないので、身体だけは大切にしなければいけない。身体や命を無駄にしてはいけない。

作者の湊さんは「人は生まれた環境でその後の人生が決まるのではなく、人生は自分で作っていけるものだというメッセージを込めたい」とあとがきで書かれていた。
境遇というのは自分では選べないものかもしれないが、その人の人生は自分で作っていけるものということだ。