その昔、高校生たちが施設に宿泊してひたすら勉強する勉強合宿というものがあった。
まぁ、どこの高校にもあるかもしれないね。
そこでの食事に、牛丼が出た日があったんだ。
その時、同じクラスだったO君が言った言葉に、僕らは我が耳を疑った。

「牛丼こわい。」

え?牛丼こわい?
その当時は、言葉の意味が分からず、「こいつ何言ってんだ(笑)あはははー。」ぐらいだったのだが。

今なら、ちゃんと彼の言葉の意味を分かってあげられる。
彼が何をしたかったのか。

お笑いというものを語る上で、最も外すことの出来ない伝統的な話芸、「落語」。
その中に「まんじゅうこわい」という演目がある。

若者達がたまって怖いものを言い合ってるときに、「俺こわいものなんてねーしー」とイキっている奴がいた。そいつを何度も問い詰めると、「へっ、しつけーなー。分かったよー。言うよ、言うったら、言うよ。俺さ・・・、じゅーまん。まんじゅうこわいんだ」と言って、「あーもー、ヤベーよ。まんじゅうの話してたら下げポヨだわ」と言って隣の部屋でふて寝してしまう。
そこで皆は「あいつムカつくからまんじゅう攻めにしてビビらせてやろうっちゃ」と、金を出し合いまんじゅうをたくさん買い込んで、隣の部屋に投げ込んだ。すると目覚めた男は怖がりながらも「あー、怖えー、怖えー。こんな怖い奴、食べちまって無くしちゃえ☆」「まいうーすぎてわいこー」などと言ってまんじゅうをむしゃむしゃたいらげて全部食べてしまった。
どうも様子がおかしいと思った連中は、一杯食わされたことに気づく。ブチ切れた皆が「ぶっちゃけマジのおめーの怖いもの何だよ!」と聞くと今度は「このへんで濃いお茶が一杯怖い」


なるほど。あの時、彼は本当は牛丼をたくさん、たくさん食べたかったんだな。
申し訳ないことをした。
彼の思いに気づいてあげることも出来ず。
唯一の夕食のメニューである牛丼を食べずに、白米だけを哀しそうに食べる彼を見てあざけ笑うことしか出来なかった。
まさか君が噺家さんだったなんて。
どこ一門だったんだろう?亭号は?
吉野家、すき家、松屋?、なか卯?、東京チカラメシ?

そういえば「牛丼こわい」と言った時、彼は手ぬぐいと扇子を手に持っていたかもしれない。
その話をする前に、現代の時事問題を面白おかしく笑いにしながらまくらを話し、本題に入る前に上着をさらりと脱いでいたのかもしれない。
何で気づいてやれなかったんだ。バカバカ、もうアタシったら、おバカっ。


あれ!?
でも、もしかしたら、彼は単純に牛丼が嫌いだっただけかもしれないぞ。
でもその真意は、彼が有名になり食わず嫌い王決定戦に出るまでは闇の中だ。
それまで首を長くして、待つしかないか。


それはそうと今日は土用の丑の日でもあった。
たまには精をつけようと、僕もうなぎを食べました。

でもやはり最近は値段が高騰していて、小さいものしか食べれなかったのが残念。
ああぁ、もっと食べたかった。

最後になりましたが実は僕、怖いものがあるんです。
うなぎこわい。


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