ナスィーロル・モルク・モスク。イラン、ファールス州、シーラーズ市内。
Nasir al-Mulk Mosque. ©decorate-my-trip.com
この記事は、フィクションでも陰謀論でもありません。
2025年6月21日の対イラン攻撃で、イスラエルと米国は、「核施設を攻撃してはならない」という国際的タブーを破棄してしまった。そのことを、EU諸国も、IAEAも、国連も、世界のマスメディアも、非難する発言をまったくしていない。主要国で非難を口に出したのは、日本の石破首相(まもなく事実上撤回してしまったが)と、中国・ロシアの外務省だけ(プーチンも習近平も沈黙 ‼)。
ついに「核戦争」はタブーでなくなったのです。
まず、↓こちらの youtube を見てほしい。時間のある方は、講義の最初から最後まで聞いてほしい。何が起きたのかが分かります。
高橋和夫氏は元放送大学教授で、在職当時の氏の論調はきわめてイスラエル・米国よりでした。私はその点に異和感を感じつつも、氏の豊富な専門知識に魅せられて視聴していました。
いま、数年ぶりに youtube を視聴してみると、論調が大きく変ったことに驚かずにいられません。放送大学では、大学当局に言論を規制されていたな、と思いました。
ぜひ↑直接聞いてほしいのですが、
イラン・フォルドゥの核施設団地を撮影した衛星写真。6月24日の様子。
米国は 21-22日の作戦で、フォルドゥには、バンカーバスター14発
のうち12発を撃ち込み、その後24日までにイスラエルが追加爆撃した。
↑写真では 8つ以上の穴が確認できるが、すでに復旧作業が開始されて
いる様子もわかり、また、地下の核濃縮施設の損傷は小さかった
との評価が多い。 ©ロイター=聯合ニュース
時間がない人のために、講義の結論部分からいくつか、↓箇条書きで示しておきます:
〇 「米情報機関の報告書によると、イランの核施設は、数ヶ月で修復できる程度の被害しか受けていない」との CNN と NYT の報道は、トランプ政権が「偽情報だ」と言って本気で怒っていることから見て、事実だろう。IAEA のコメント、WP が伝えるイラン要人の盗聴情報によっても、被害が軽微だったことが裏づけられる。
〇 議論のない明白な事実は、〈アメリカとイスラエルがイランの核施設を攻撃したこと〉。ところが、ドイツなど EU 諸国は、イスラエルの攻撃を歓迎するかの発言をし、IAEA も非難声明を出していない。先進工業諸国で、〈核施設攻撃〉を非難する発言をしたのは、日本の石破総理が唯一だ。
〇 今回の〈核施設攻撃〉で放射能が漏れたとの報道はないが、その危険は常にある。
〇 〈核関連施設を攻撃してはいけない〉というタブーがあったのに、今回のイスラエル・米のイラン攻撃で、タブーが壊れてしまった。
〇 タブーが壊れた大きな背景として、ウクライナ戦争で、ロシアがウクライナの原発〔チェルノブイリおよびザポリージャ〕に攻撃・占領をしたことがある。ただし、その時には欧米諸国はロシアを非難する声明を出した。ところが今回は、非難声明が出なかった。つまり、タブーが壊れた。
〇 タブーが壊れ始めたのは、ウクライナ戦争ではなく、それより前〔2007-11年〕に、イランの核施設に米・イスラエルがサイバー攻撃をかけたことによる。ブッシュ大統領が始めたイラク戦争の末期から、アメリカとイスラエルが、このサイバー攻撃を始めた。オバマ大統領が引き継いで行なった。マルウェア「スタクスネット」をナタンズの核施設に送り込んで、1000台以上のウラン濃縮遠心分離装置を破壊した。今回のミサイル等攻撃は、その延長線上にある。
〇 アメリカは核兵器大国。イスラエルは、「核不拡散条約」に加入しない核保有国で、IAEA(国際原子力機関)の査察も受けていない。この2国が、核兵器を持っておらず・国際原子力機関の査察を受けているイランの核関連施設を爆撃した、ということ〔→世界全体にとって、非常に危険な構図。まともな核兵器非保有国ほど被害を受けやすい、ということになる〕。ところが、この危機的な事態に対して、国際社会はほとんど反応していない。
〇 この危険性を・はじめは指摘した石破総理も、イス・米を支持する NATO声明に署名することで腰砕けになってしまった。が、日本は今後・この事態に対し、「許容できない」と、くりかえし非難の声を挙げる必要がある。ノーベル平和賞受賞団体である「被団協」の声明は、心強い限りだ。
〇 このタブーの放棄は、国際正義に反するだけではない。日本の国益の観点でも重要だ。〈核関連施設を攻撃してもよい〉という先例ができてしまうと、多数の原発を持つ日本の安全保障は脅かされる。
〇 今回の事態で唯一の救いは、イランが、イスラエルの核施設を報復攻撃しなかったこと。イスラエルの核兵器関連施設は、リモナという砂漠中にあり、以前から知られている。しかもイランは今回、イスラエル国防省や情報機関モサドの施設を正確に攻撃しており、核施設をピンポイント攻撃する能力があるのに、あえて攻撃しなかった。
〇 今回の事態で重要なのは、双方の被害以上に、〈タブーが破られた〉こと、しかも、アメリカ・イスラエルはもはやタブーに縛られず、攻撃を受けた側のイランだけが縛られていたこと。
〇 アメリカ・イスラエルも、NATO も IAEA も、もはや正気ではない。「正気なのはイランだけ」という印象を受けた。
〇 オバマ政権時に「スタクスネット」が発覚した時に、核関連施設への攻撃として強く非難したのはロシアだった。当時は、ロシアは、〈核施設を攻撃しない〉タブーに関しては、まともだった。
イランの最高指導者、ハメネイ師。 ©AFP=聯合ニュース
高橋氏が、「タブーが壊れ始めた最初」の事件として指摘している「スタクスネット事件」について調べてみましたが、「キャノン」と「笹川平和財団」しか出て来ないのには驚きました。反核・社会運動サイドでの取り組みが遅れています。
「笹川平和財団」の記事↓は至極まともで、この記事はお薦めしたい。が、なにぶん内容が細かくて、ITオタクでない者には専門的すぎます。参考までに、リンクと、内容の一部を貼り付けておきましょう。
2025年6月24日に衛星撮影したイランのイスファハン核研究センター。
米国は、「あまりに地下深すぎて破壊できない」のでバンカーバスター
爆撃を断念したと説明。 ©ロイター=聯合ニュース
■ AI情報
グーグル検索のAIが、よくまとまっていて分かりやすいので、まず出しておきます↓。ただし、ここには誤情報が無いとは限りません。
『スタックスネット事件は、2010年に発生した高度なマルウェア「Stuxnet」によるサイバー攻撃事件です。この事件は、特にイランの核施設を標的としたことで知られ、産業用制御システムを攻撃対象とする初の事例として、世界に衝撃を与えました。
スタックスネットは、Windowsの脆弱性を利用して拡散し、シーメンス社の産業用制御システムを標的にしました。具体的には、イランのウラン濃縮施設で使われている遠心分離機の制御システムに侵入し、その動作を異常な状態にすることで、遠心分離機の破壊を試みました。
この事件は、単なるマルウェア感染に留まらず、国家間のサイバー戦争の可能性を示唆するものでした。従来のサイバー攻撃が主に情報窃取やシステム破壊を目的としていたのに対し、スタックスネットは物理的な破壊活動を伴う可能性を示し、インフラに対するサイバー攻撃の脅威を浮き彫りにしました。 スタックスネット事件以降、産業用制御システムや社会インフラに対するサイバー攻撃の脅威は増大し、セキュリティ対策の重要性が改めて認識されるようになりました。
事件の概要: マルウェア:Stuxnet (スタックスネット)
標的: イランの核施設
攻撃対象: シーメンス社の産業用制御システム (特に遠心分離機の制御システム)
攻撃手法: Windowsの脆弱性を利用、USBメモリ経由での感染、制御システムの改ざん
特徴: 産業用制御システムを標的とした初の事例、物理的な破壊活動を伴う可能性
教訓:
サイバー攻撃は情報窃取だけでなく、物理的な破壊活動にも発展する可能性がある。
インターネットに接続されていないシステムも、USBメモリなどを介して感染する可能性がある。
産業用制御システムや社会インフラに対するサイバー攻撃の脅威が増大している。
セキュリティ対策の強化が不可欠である。』
テヘランの橋に掲げられている・イスラエルの空爆でタヒ亡した
軍将軍と核科学者の肖像画。 ©AFP=聯合ニュース
■ スタクスネット関連年表
2005年 開発に着手か。当時イランは、ウラン濃縮施設を建設中だった。
2007年11月 イランの核プログラムが「スタクスネット」の一亜種による攻撃を受ける。
2009年6月22日 最初のバージョン(Stuxnet.a)。名称、ドメイン名、IPアドレスなど、侵入したマシンの履歴をマルウェア本体に保存するため、そこから、イランの重工業向けオートメーションシステム製造会社Foolad Technic Engineering Co (FIECO) が被害に遭ったと推定される。搭載のスパイウェアモジュールによるイラン原子力産業のデータ収集が目的か。FIECOは、2010年にも、第三のバージョンによって再攻撃される。
2009年7月7日 禁止物質のイランへの不法輸入を米司法省に疑われていた、産業オートメーション企業Neda Industrial Groupが感染。同じくイランの産業オートメーション企業Control-Gostar Jahed Companyで、感染が止まる。
2009年11月~2010年1月 イランのイスファハン州ナタンズのウラン濃縮施設で1,000台(全体の10%)の遠心分離機が破壊される。
2010年1月 イランの核科学者でテヘラン大学物理学教授が、爆弾テロの標的となり、死亡。
2010年3月 作成者が拡散の遅さに業を煮やしたのか、根本的に改善された第二バージョン(Stuxnet.b)が作成される。核爆弾部品のイラン側受け取り手との疑いもある、産業オートメーション会社Behpajooh Co. Elec & Comp. Engineeringが、2009年6月の旧バージョンによる攻撃に続いて、このバージョンの攻撃を受ける。同社は、5月にも再攻撃される。
2010年4月24日 イランの大手金属加工企業Mobarakeh Steel Companyが被害に遭う。
2010年4月 マイナーチェンジを受けた第三のバージョン。製造年月日、2010年2月3日付。
2010年5月11日 イランのウランプログラムの大黒柱の一つ、IR-1ウラン濃縮用遠心分離機の大手開発元Kalaye Electric Coが攻撃される。
2010年6月17日 ベラルーシの情報セキュリティ会社VirusBlokAda社が、スタクスネットの存在を初めて報告。アップデートのプログラミングエラーという偶発的事故のせいで、本来とどまっているはずのワームが、遠心分離器に接続したナタンズのエンジニアのPCへと渡り、彼がそれを自宅でインターネットにつないだため、ワームが当初の標的の外に出て、拡散したのである。
2010年7月15日 ジャーナリストのブライアン・クレブス氏がスタクスネットについてブログに書く。これは、このワームについて最初に広く読まれた記事となった。同日、スタクスネットが関わっているとみられるDoS攻撃が、産業システムセキュリティの2大メーリングリストのサーバーに対して実行され、発電所や工場の重要な情報源が遮断された。
2010年9月 イランの専門家たちが、遠心分離機のパフォーマンス前年比30%減はスタクスネットによる意図的攻撃のせいだ、との確信を強める。
2010年11月29日 当時のイラン大統領マフムード・アフマディーネジャード氏が、ナタンズのウラン濃縮用遠心分離機の制御装置がコンピューター・ウイルスの被害を受けたことを、初めて公式に認める。同日、テヘランで同時多発爆弾テロがあり、標的となったイランの量子物理学研究者が死亡し、イラン国防省高官の核科学者が大けがを負った。
2011年9月1日 スタクスネットから派生した「Duqu」が発見される。2007年に開発されたTildedプラットフォームを共有しているが、目的は、キーストロークやシステムの情報取得にあり、それらの情報を将来のスタクスネット式サイバー攻撃に使うため、と分析された。
2012年1月11日 ナタンズのウラン濃縮施設責任者が、2010年の殺人と全く同様の爆弾テロで死亡。
2012年5月 スタクスネットから派生した「Flame」が発見される。初期バージョンのスタクスネットが持つUSBメモリー経由で感染を伝播させるコードが、Flameとほぼ同一。
2012年6月24日 侵入したスタクスネットが標的を見つけられずに休眠状態になった場合、この日付で自己消去するようプログラムされていた。
トランプとネタニヤフ。2025年4月7日、米ホワイトハウスで首脳会談後。
©ロイター=聯合ニュース。
■ 「笹川平和財団」の記事
(1) イラン核施設の爆破
2021年4月、イラン・ナタンズの核施設で爆発が起こり、大きなダメージを与えた。施設の電源設備は完全に破壊され、中心的な設備である遠心分離機への電源供給が止まった。その結果、これら機器の多くが破損したとされている。爆発は小さかったとイラン政府は発表しているが、爆破の被害を見ようとしたイラン原子力庁(AEOI)のスポークスマンが7メートル落下し、大怪我を負っている。実際には、相当な大穴が空いているということなのかもしれない。
この爆破工作を、イスラエルによるものだとして、イランは非難している。事件当時にイスラエルの情報機関モサド長官を務めていたヨッシ・コーヘン(Yossi Cohen)は、事件の二カ月後に退任しているが、これが最後の大仕事だったのだろうか。退任後のテレビインタビューで「かつて遠心分離機が回転していた」ナタンズは様変わりしていることだろうと発言している。モサドの関与を明言こそしなかったが、爆破による遠心分離機へのダメージが相当なものだったと示唆した形である。具体的な被害規模は明かされていないが、数千基の旧式の機体が破損したとの報道も見られる。〔以下略〕
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【追記1】 ■ ザポリージャ原発の送電線に攻撃か?
7月4日、ウクライナのザポリージャ原発(ロシアが占領中。ウクライナ側が管理)で、一時、全・外部電源が失われ危険な状態となったが、3時間後に復旧。ウクライナは、(これまでの8回と同様に)ロシア軍が送電線を攻撃したと主張。
核関連施設への直接の攻撃ではないが、仮にロシア軍によるものであった場合、〈タブー崩壊〉事態を受けて、国際社会の反応を見るためにしたとも考えられる。「そろそろ核兵器を使ってもだいじょうぶかな?」
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BRICS関連会合に出席したブラジルのルラ大統領(中央)。
2025年2月、ブラジリア。 ©ゲッティ=共同
【追記2】 ■ BRICS「リオデジャネイロ宣言」
米・イスラエルのイラン攻撃を非難。
7月6日、主要新興国で構成する「BRICS」はブラジル南東部リオデジャネイロで首脳会議を開き、多国間主義の尊重などを掲げた「リオデジャネイロ宣言」を採択した。ブラジルのルラ大統領は冒頭の演説で、米国第一主義を掲げるトランプ米政権を念頭に、「多国間主義が攻撃を受けており、われわれの自主性も脅威にさらされている」と訴え、BRICS加盟国の結束の重要性を強調した。
宣言は、「イランに対する軍事攻撃が国際法違反であることを非難し、中東の安全保障情勢の緊迫化に強い懸念を表明する」と加盟国イランに対する攻撃を非難し、国連安全保障理事会で問題に対処するよう求めたが、米国とイスラエルへの名指しは避けた。
イランメディアによると、同国のアラグチ外相は会議で「イスラエルと米国が犯した行為は前例のない国際平和の侵害だ」と批判した。ブラジルメディアによると、宣言を巡る政府高官の事前協議で、イランは厳しい表現で米国とイスラエルを批判することを求めた。その一方で、欧米との対立を嫌って強い表現を避けたい加盟国もあり、取りまとめは難航したという。
宣言はまた、米国の関税強化を念頭に「貿易をゆがめ、世界貿易機関(WTO)のルールに整合しない一方的な関税措置に深い懸念を表明する」と強調した。
「BRICS」は、2024年から今年にかけてイラン,インドネシアなどが新たに加盟し、準加盟国に相当する「パートナー国」も多く加わる一方、従来主要国とされてきた中国・ロシアの影響の低下が見られる。 今回のリオデジャネイロ会議には、習近平主席は 2013年の国家主席就任後初めて欠席、プーチン大統領はオンラインで参加した。
《私見》 世界の “非欧米” 諸国が多く集まる「BRICS」でイラン攻撃を非難する決議が採択された意義は大きいが、〈核関連施設への攻撃〉であることを指摘しての非難ではないようであり、日本など・〈核〉に対する意識の高い諸国が参加していないことが悔やまれる。今後、国連(安保理よりも総会のほうが期待できる)での問題提起と真摯な討論を望みたい。