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 紫波(しわ)山塊と言っても知らない人が多いだろう。

 

『山はぼんやり

 岩頸だつて岩鐘だつて

 みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ』

宮澤賢治「雲の信号」より  

 

 ↑この詩で分かったら立派なケンジストだ。「岩手山」「小岩井農場」「七ツ森」など――国指定の名勝《イーハトーブの風景地》と並ぶメルヘン・スポットのひとつ‥‥と言えば、イメージが湧くだろうか。

 

 

 


 箱ヶ森南昌山東根山を結ぶ「志波(しわ)三山」縦走路が整備され、手ごたえのあるトレランのコースになりつつある。標高900メートルにも満たない低山帯だが、賢治が「岩頸」「岩鐘」と呼んだだけあって、とがって険しい峰が多い。ここを走る人は、なかなかの強者ではないか。ほとんど全山が、ブナ、カエデなどの自然林におおわれる → ∴ 展望は無い。

 

 一度に回るのはきついので、独自のショートカットも加え、2日に分けてコースを立ててみた↑。

 

 なじみのない人が多いと思うので、まずは麓から見た図を並べてみよう。

 

 

 

 

 盛岡城・天守閣跡から↑。やはり冬は、くっきりとよく見える。

 

 ↓初夏の写真も。こちらは盛岡市内の中央公園から。


 

 

 

 東北本線の車窓から↓。真東から見る角度になる。


 

 


 初秋の南昌山↓。尖った・つりがね形の山体。にょきにょき生えてるかんじだ。

 

 

 


 毒ヶ森は、他の山の向うに隠れていて見えないが、裏(北)側からならば見える。「七ツ森」の生森(おおもり)・山頂から↓。これまた、にょきにょきと生え出ている。左端は南昌山

 

 

 


 にょきにょき峰が多いのは、地中で固まったマグマが露出しているのだそうだ。ここは古い火山で、火口の下の火道に溜まったマグマが冷えて固まると、そこだけ硬いので、まわりが侵食されると尖峰になって残るのだという。

 

 1日目↓。矢巾(やはば)温泉の先から「北ノ沢林道」を詰めて、「三山縦走路」の途中にひょっこりと出る。長大な縦走路のうち、まず毒ヶ森南昌山の部分だけ片付けようという計画。行ってみると、これが意外にきつかった。

 

 

 



 

 矢巾温泉前の広場。つゆ時とは思えない空だ。


 


 

 

 

 栗の花も満開↑。

 

 幣懸(ぬさが)けの滝↓。マタギが山に入る時に、ヌサを懸けて祈ったそうだ。

 

 

 

 

 ↓ここから「北ノ沢林道」に入る。

 

 

 

 

 「南昌山神社」があるはずだが、鳥居も何も見あたらない。この看板だけがあった。

 

 

 

 

 ここは、南昌山へ直登するルートの登り口になっている。「前倉コース登山口」とある。今回は敬遠して通過。

 

 

 

 

 「北ノ沢林道」を行く。車も人もまったく来ない。自然林の中の気持いい道だ。

 

 

 

 

 ケヤマハンノキ↓。特徴のある葉の形だ。

 

 

 

 

 ↓まん丸い葉。ハクウンボクらしい。いまごろ白い花が咲くはずなのに、どうして咲いてないのかは不明。

 

 

 

 

 ハンノキ↓。これがプレーンの「はんのき」。漢字だと「赤楊」。

 

『雲は羊毛とちぢれ

 黒緑赤楊(こくりょくはん)のモザイツク

 またなかぞらには氷片の雲がうかび
 すすきはきらつと光つて過ぎる』

宮澤賢治「雲とはんのき」より  

 

 小型の葉に、きれいな平行脈。ギザギザしたイメージ。紅葉前、陰翳をおびたハンノキを「黒緑はん」というのは、なんとなくわかる。

 

 

 


 ↓ブナ。北国はオオバブナ(ブナの亜種)だと思ったのに、ここのブナは葉が小さくて硬い。関西のブナを思い出したくらいだ。とにかく、自然は教科書通りではない。

 

 

 

 

 

 ↓県道281号・南昌大橋の下をくぐる

 

 

 

 

 イタヤカエデ。やはり東北の森は違う。関東のイタヤカエデは、もっと小さくて形もいびつ。エンコウカエデと云う。こちらのは、大きくて立派な、ほんもののイタヤカエデだ

 

 

 

 

 ヤマグワ。養蚕に使う栽培種の桑とは近種で、これもカイコの餌にすることはできるそうだ。栽培桑と違って、切れ込みのない葉が多い。

 

 

 

 

 いったん県道に出る。

 

 

 

 

 右手に赤林山が見える。まもなく、「南昌第1トンネル」の手前で、また林道に入る。

 

 


 


 「ヒバツル沢」出合い↓。「北ノ沢」に流れ込む支流を越えるのだが、なんと‥‥ここで道が終っている!!

 

 

 

 


 国土地理院地図では、まだ「北ノ沢林道」が続いているのに、じっさいには、ここで行き止まり↑。ここから先は、人も車も入らなくなったので、自然に還ってしまったのだろう。

 

 このヤブの中へ入って行くしかない。

 

 踏み込んでみると、かろうじて人の踏んだ跡らしきものが、あったり、消えたり。何か月にいっぺんか、何年にいっぺんか、私のような物好きが入りこんでいるらしい。

 

 「先人」の踏み跡を見つけるのと、藪を漕ぐのとで、写真など撮しているヒマはない←

 

 「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る」などという呑気な詩を書いた御仁は、藪を漕いだことなどないのだろう。そういえば、高村山荘は、この近くだった。

 

 

 

 

 藪の中で、ブナの実生が、すくすくと育っている↑。やはり、人間が来なければ自然は生き返るのだ。感動したので、ここだけはカメラを取りだした。

 

 藪を漕ぐこと 40分。めざす地点に出た。

 


 


 

 北ノ沢はドンヅマリになって右へ曲がってゆく。左から支沢の谷――かりに「毒ヶ森・東沢」と呼んでおこう――が入ってくる。左の谷へ遡行してゆく計画だ。ここからはもう、地図上の路も、踏み跡もない。何もないところを、地形図とGPSで進んでいこうというのだ。




 

 

 水の流れがあった。「毒ヶ森・東沢」だ!


 

 

 

 

 

タイムレコード 20230619 [無印は気圧高度]
 「矢巾温泉」バス停[244mGPS]925 - 936「幣懸けの滝」[259m]  - 946滝上の車道[285m] - 951「北ノ沢林道」入口[305mGPS]954 - 958「南昌山神社」[301m]  - 1026「南昌大橋」下[374m]1032 - 1043県道出合い[420m]1048 - 1115「南昌第1トンネル」手前・県道岐れ[473m] - 1122「ヒバツル沢」出合い[526m]1127 - 1208「毒ヶ森・東沢」出合い[571m] - (2)につづく。