愛鷹山(あしたかやま)は、東海道線から富士山を眺めていると手前にある「お邪魔な山」として有名だ。富士山を隠す山‥ということなら、箱根だって同じなのに、箱根のほうは誰もが行きたがるダントツの観光地。愛鷹山のほうが富士山に近いし、上に登れば箱根よりも富士山がよく見えるのに、温泉と湖のある山にはかなわないのか?
その不遇な愛鷹連峰に、やつがれ実は何度も登っていまして、今回で地図にある登山道ほぼ全部を踏破したことになる。ん?もの好き? 嫌いでできるか←
ふつうに「愛鷹山」と言うけれど、↑上の地図にあるように、6つの主な峰からなる連峰で、全体が富士山よりも古い火山体らしい。箱根火山と同じころ活動を始めた。中央火口は、↑上の地図の大岳と位牌岳のあいだに小さく「愛鷹山」と書いてある場所にあったという。
いまでも、大岳の山頂近くには噴気孔があるらしい。「らしい」というのは、無雪期に行ってもわからないが、雪山に登った人によると、いつ行っても雪が融けて地肌の現れている場所が、あるのだそうだ。「一富士、二鷹、三なすび」の「二鷹」は愛鷹山のことだという説もある。しかし、この初夢説ができた江戸時代には、「愛鷹山」ではなく「足高山」だったから、違うのかもしれない。謎の多い山ではある。
連峰のなかで最高峰は越前岳 1504メートル。愛鷹山 1187.5m は、いちばん南にあるから麓から目立つが、最高峰ではない。
「愛鷹山」1187.5m。縦走路から。
愛鷹連峰への登山道は、富士山側のリゾート地「十里木」、東側の「須山」、西側の「勢子辻」、南側の「長泉町」と「沼津市」からあるが、最近はマイカーで来る人が大部分なので、いきおい、駐車場の完備した周回コースに集中してしまう。その結果、ほかのコースには人が来なくなって、廃道化しつつある。さびしい気もするが、自然に還るのだから、山にとっては良いことだろう。
西側の「勢子辻」からは2本の登山道があるが、どちらも今は廃道化の運命。1本は直に「越前岳」に登る路。もう1本は、ひとつ南の尾根から「高場所(たかばしょ)」経由で「呼子岳(よびこだけ)」の肩まで上がってから、向きを変えて「越前岳」に達する二段構えのルート(↑上図参照)。今回は、直登コースを行く。
シルエットは行程の標高(左の目盛り)。折れ線は歩行ペース(右の目盛り)。標準の速さを 100% として、区間平均速度で表している。横軸は、歩行距離。
↓勢子辻。バス停のハス向かいに、登山道へ入ってゆく道がある。もう、奥に越前岳の頂きが見えている。
道の角に石碑がたくさん並んでいる。上田五千石(ごせんごく)という俳人の句碑らしい。句からは、この地で暮らして植林にも尽くした人のように見える。が、それだけではなく、句界ではよく知られた現代俳人なのだそうだ。⇒:俳人ファイル 上田五千石(冨田拓也)
↓Y字路になる。左は「越前岳」。右は「高場所」経由で「呼子岳」。左へ行く。
草原の向こうに、「高場所」の尾根が見えている。正面には「越前岳」が聳える↓。
↑奥のほうの頂きが越前岳。手前のは、とちゅうのピークが独立した山のように見えている。まぶしい。ヒバリが鳴いている。
↓車止めのゲートを越える。
↓ここから山路に入る。
暗いヒノキ林の登りがつづく。いったん車道に出るが、すぐにまたヒノキ林に入って急斜面の直登になる。日は射さないが湿気が多くてむしむしする。ヒグラシの合唱。やかましいほどだが、気休めにはなる。
やがて、ヒノキ林はモミ林に変わり、アセビ、ハリギリ、カエデほか自然樹がふえてきた。
山路に入ってから標高差で 300メートルあまり登ったあたり、テラス状の裸地に出た。標高 1160~70メートル圏。溶岩の塊と火山礫が散らばっている。やはりこの山は火山なのだ。「岩礫テラス」と命名する。
向かいに「高場所」の尾根が見える。
下界のけしきが見える。麓のゴルフ場と、その向こうは富士市近郊の市街地か。
左のほうには、「高場所」の向こうに「大岳」が覗いている。
「大岳」。裏から見ると、↓こういう山。この下の谷間が、5万年前の爆裂火口だという。山体の大部分が吹き飛ばされて火砕流が麓を覆い、千本浜の遠浅海岸を造り、いまある愛鷹連峰の形になった。⇒:愛鷹山をよく知ろう
「位牌岳」付近から「大岳」を望む。
この「岩礫テラス」のあたりから、自然樹は背が低くなって矮樹化している。そのせいで、森の中が明るくなった。森林限界の高さではないが、「富士颪」の強風のために成長が抑えられるのだろう。モミは風衝樹の形をしている。
モミ林の下にダケブキの群落↓。秘密の花園?
標高 1260m付近。 森の中の小さな広場に出る↓。もとは、ここも展望所だったのだろう。いまは樹が成長して展望はない。
アセビ、ブナ、ミツバカエデ、リョウブ、ミズナラ、みな細くて灌木サイズ。名前のわからない広葉樹も多い。
明るい矮樹の森がつづく。やや太いブナも眼につく。
1308mピーク↓。平坦な頂上部を過ぎる。麓から、独立した “前山” のように見えていたのは、ここだろう。
タイムレコード 20220730 [無印は気圧高度]
「勢子辻」バス停[765m]955 - 957「高場所」分岐 - 1005車止めゲート[780mGPS] - 1027林道交差[892mGPS]1040 - 1118「岩礫テラス」[1159m 1169mGPS]1205 - 1220小広場[1258m 1267mGPS]1223 - 1233「1308メートル・ピーク」[1290m] - (2)につづく。