昨年(2020年)3月11日午後、ソウル新村のある家の前に置かれた造花が
美しいと言って立ち止まったピョンさんを、本紙記者が撮影した。
//ハンギョレ新聞社
https://japanese.joins.com/JArticle/276159
今月3日、トランス・ジェンダーとして性別適合手術を受けたために韓国陸軍から除隊に追い込まれ、軍務に復帰したいとして訴訟を起こしていた ピョン・ヒス元下士(「下士」は韓国軍の階級)が、忠清北道清州(チョンジュ)市の自宅で遺体となって発見された。遺書は見つかっていないが、自殺と見られる。裁判所での口頭弁論が、ようやく開かれることとなった矢先のことだった。
軍は、性転換手術をしたピョンさんの身体変化に対して医務調査を行い「心身障害3級判定」を下し、昨年1月22日に強制転役[現役から予備役に移すこと。すなわち除隊]を決めた。ピョンさん自身は、性転換手術を受けたあとは、「うつ病もなくなり、すべてが正常になった」と言っていたのに、国防省と軍は、ピョンさんの身体の変化(性転換)じたいを「心身障害」と認定し、転役処分を決定したのだ。本人の意志にも実態にも反する決定だった。
ピョンさんは、翌2月に陸軍本部に再審査の人事訴願を起こしたが、受け入れられなかった。ピョンさんは人事訴願棄却後の昨年8月、大田(テジョン)地方裁判所に転役処分取消行政訴訟を提起し、今年4月に1回目の弁論を控えていた。
ピョンさんは、転役審査2日前の昨年(2020年)1月20日、国家人権委員会に対し、陳情と、転役審査の中止を要請する緊急救済申請を提起した。国家人権委員会は、翌21日に緊急救済決定を下して陸軍本部に転役審査委員会の開催を3ヵ月延期するよう勧告したが、陸軍は転役審査を強行し、強制転役を決めたのだった。
人権委は昨年12月14日、陸軍参謀総長に対し、ピョンさんの転役処分を取り消すよう勧告した。国防部長官には、同じ被害事例が再発しないよう関連制度を整備するよう勧告した。
国家人権委員会は、この勧告決定文で、「陸軍が明確な法律的根拠もなく、恣意的に性転換手術を『心身障害』要件と解釈して被害者を転役処分した」とし、「ピョンさんの健康状態が『現役で服務することに適合しない場合』とみなす根拠も見いだせない。」と指摘している。
『時事ドットコム』によると、ピョンさんは 2017年に志願して入隊。2019年にタイで性別適合手術を受けた。
韓国国防省は、男性器がなくなったことを「精神的または身体的な障害」と判断し、軍の審査委員会が昨年1月に除隊処分を決定した。
ピョンさんは同月、当初伏せていた実名を公表して軍服で記者会見に臨んだ。集まった報道陣を前に敬礼し、「私は大韓民国の兵士です」と涙ながらに語り、軍人になるのが子どもの頃からの夢だったと明かした。
さらに、「私もこの国を守る優秀な兵士の一人になれるのだということをみんなに証明したい」と涙をこらえながら話し、「どうか私にそのチャンスをください」と訴えた。
↓韓国の日刊紙・保守系『中央日報』および進歩系『ハンギョレ』の記事から。
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トランスジェンダーのピョン・ヒス元下士が、2020年1月、
ソウル麻浦区の軍人権センターで記者会見を開き、
「軍への服務を続けたい」という意向を表明している。
=キム・ギョンホ先任記者。//ハンギョレ新聞社
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/39327.html
『 「差別なき世界」 トランスジェンダー兵士の
夢は叶えられるだろうか
ピョン・ヒス様、あなたは本当に堂々としていて勇敢でした。男性から女性への性別適合手術を受けたことを理由として、昨年1月に軍を追われたあなたに、インタビューを要請しましたよね。心身ともに疲れているので、当分は誰とも会わないという話を伝え聞いて、あなたが人前に出るのを恐れているのだと思いました。私たちの社会にまん延している性的マイノリティーに対する嫌悪と差別を考えれば、十分理解できました。だから、あなたが会わないという選択をしたとしても尊重するという旨を伝えて、諦めていました。でもあなたは、1カ月後に疲れが取れたと言って連絡して来ました。昨年3月11日にソウル麻浦区新村(マポグ・シンチョン)にある軍人権センターで会ったので、ちょうど1年前です。
あの日のインタビュー(2020年3月21日付ハンギョレ土曜版カバーストーリー、「機甲の突破力でそんな差別はなくしてしまえます。ハハ」)であなたはこう言っていましたよね。「最後まで闘うつもりです。性的マイノリティーの人権と自由を勝ち取り、差別のない軍を作るために、機甲部隊のモットーである『機甲先鋒』らしく、先鋒となって戦うつもりです」って。戦車の操縦が好きなあなたらしい答えでした。あなたは「軍人年金の対象ではないので、早く稼がなければならない」、「ゲームしたりショッピングしたり、普通に過ごしている」と言っていました。「私は家の外にはあまり出ないインドア派です。パソコンと任天堂さえあれば一人でもよく遊びます。ウェブ漫画も好きです」。23歳の青年の明るく愉快な生活ぶりが頭に浮かんで笑ってしまいましたが、平凡な日常こそ自信と勇気の表れでもあるということを知っているので安心したものです。
あなたはそのような堂々とした態度だけでなく、他人に対する思いやりと共同体生活についての理解も深かったですよね。「軍に不意打ちをくらいましたからね」と言って軍の高位幹部に裏切られたという思いを抱きながらも、同僚や後輩の戦車兵のために「ぜひとも頼みたいことは、戦車にエアコンをつけてほしいということです」と言って、軍と政府に装備の改善を訴えました。中学生の時、日本の独島領有権主張に抗議して、故郷の忠清北道清州(チョンジュ)で、日本の旭日昇天旗(旧海軍旗)を路上に敷き、市民に踏ませたことなどについて「今思えば、あまりにも国粋主義的な活動」だったと反省していたことも印象深い出来事でした。「多数派だと思っている人たちも、明らかにマイノリティー的な側面があり得ます。その人が労働組合員だとか、何かの少数宗教だとか、そういう部分もあり得ますからね。でもこういう時、自分が多数派だと思うことでマイノリティー差別に目をつぶれば、自分たちがマイノリティーとして迫害を受けた時、結局は助けてくれる人が誰もいなくなるでしょう」という話もまた、どれほど核心をつく言葉なのでしょう。
しっかりしていて思慮深いあなたの闘いに連帯したくて、記事が出た後もたまに電話をしたりショートメッセージを送ったりしましたよね。あなたを応援する内容の文章や記事があれば送ったり。国家人権委員会が陸軍と国防部に、あなたの退役処分を取り消せという勧告をしたことが伝えられた先月初めが最後でした。私が送った記事のリンクに、あなたはいつものように「あっ… はいはい元気です!! ありがとうございます!」と明るく答えてくれました。
そんなあなたが戻って来られない場所に行ってしまったという突然の悲報に、まだ頭がぼうっとしています。腰をかがめて野良猫に近づいていって交感し、新村(シンチョン)の路地のある家の門の前に置いてあった花のことを、造花だと知りながら、足を止めて綺麗だと言っていたあなたに、もう会えないなんて。あの日、メールだけでなく、電話して近況を聞いていたら、少しは力になれたのだろうかと考えて、もっと前から、もっと積極的な連帯をなぜ表明できなかったのか、後悔が頭をめぐります。
「挫折しはしない」と言っていたあなたが、結局は倒れてしまったことを考えると、怒りもこみ上げてきます。人権委の相次ぐ勧告すら頑として無視する陸軍、ろうそく革命で誕生したのに軍の差別的態度から一歩も前に進み出ない文在寅(ムン・ジェイン)政権、174議席という多数の議席を確保しているにもかかわらず、差別禁止法を国会常任委に上程すらしていない「共に民主党」(進歩派与党)、「そのようなもの(クィアパレード)を拒否する権利も尊重されるべき」(安哲秀[アン・チョルス:次期大統領候補,中道。2018年大統領選で文在寅,沈サンジョン[正義党候補]と,軍の性的マイノリティをめぐって論争した])などの、性的マイノリティー嫌悪を吐き出す政治家。匿名の嫌悪勢力よりも罪の重い加害者です。
ピョン・ヒス様、そしてその1週間前にこの世を去ったキム・ギホン様(済州クィア文化祭共同組織委員長)。あなたたちが寂しい思いをすることは、もはやないでしょう。ヒスさんが住んでいた家の玄関前に置かれていた一瓶の酒と一封の香典袋を見たでしょう? あのような小さな意思が集まり、差別と嫌悪の壁を必ず突き崩して行くことでしょう。安らかにお眠りください。
執筆: キム・ジョンチョル先任記者』
「軍務を続けたくて性別適合手術を受けたんです。手術後に
うつ病がなくなるなど、すべてが正常になったんです」。
ピョン・ヒスさんが昨年3月、ソウル麻浦区の
京義線森の道公園での本紙とのインタビューで、
明るい表情を浮かべている=資料写真。//ハンギョレ新聞社
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https://japanese.joins.com/JArticle/276261
『 「性転換軍人」哀悼した韓国宗教界…
「ピョンさんの死は社会的他殺」
宗教界、市民団体、政党などからは、ピョンさんの死を哀悼しながら、「ピョンさんの死は自殺ではなく社会的な他殺」という自省の声が出ている。
大韓仏教曹渓宗(チョゲジョン,韓国仏教の最大宗派)社会労働委員会はこの日、「キム・ギホン済州クィア文化祝祭共同組織委員長とピョンさんの死は自殺というよりは性的マイノリティに息をする空間まで拒否する社会的他殺。政府と国会は国会の屋根の上だけで行き来している差別禁止法をすぐに制定しなければならない」と促した。
大韓聖公会[イギリス国教会系]正義平和司祭団とナヌムの家協議会も声明を出し、「私たちは神が創造された世界が画一化ではなく多様性で構成されていると信じる。私たちの神が先に見せられた歓待と恩寵、連帯と愛でキリスト人となり教会の名で生きる私たちが嫌悪と差別、排除を選択するのは神の愛に対する積極的な背信」と規定した。これとともに文在寅政権と「共に民主党」は一刻も早く「包括的差別禁止法制定」で先に立つべきとし、「差別禁止法制定は命を守る第一歩」と促した。
正義党のキム・ウンミ院内代表は、この日の非常対策会議で「共に民主党」と「国民の力」(韓国の最大保守野党)に向け「ピョンさんを別の世界の痛み程度として埋めてしまうのでなく、包括的差別禁止法制定でこたえてほしい」とし、差別禁止法を発議したチャン・ヘヨン議員は「この日から『差別禁止法の制定必要性に共感する超党派の会』を始める。韓国社会の普遍価値に共感するすべての議員に積極的な参加を要請する」と述べた。
軍人権センターなど市民社会団体で構成される「トランスジェンダー軍人ピョン・ヒスの復職に向けた共同対策委員会」はこの日、「軍がビョン・ヒスさんに伝えるべきことは哀悼ではなく謝罪」として軍当局を批判した。』
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