中国・米国・日本の人権⇒:『密接な関係にある他国から』
バイデン政権の外交・安保政策は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」「孤立主義」からは大きく脱却するものの、中国に対しては、「多国間主義」による圧迫を強めるとの予想が多く唱えられています。「同盟」の仲間を集めて“中国包囲網”を形成し、中国を軍事的にも経済的にも圧迫する政策をとる、という予想です。
そこから、日本、韓国などの同盟国に対しては、“包囲網”に参加せよとの強い圧力――、韓国に対してはTHAAD追加配備、GSOMIA延長、日本に対しては軍拡、派兵、QUAD――がかかるという憂慮も出ています。
しかし、バイデン氏の対中国基調については、硬・軟両極の見たてがあり、硬軟のカードを取り混ぜて行使するだろうと予想する向きもあります。軍事覇権、人権問題、知的所有権と経済摩擦、それぞれで異なったカードを取り出すことも考えられるわけです。
また、米中のあいだで、南シナ海と香港・台湾を焦点とするか、北朝鮮の《非核化》を焦点とするかによって、衝突の緊迫と危険度は、相当に違ってくると思われます。
韓国で、国際関係の専門家を集めて行われた討論の記事を見ておきたいと思います。
『財団法人「韓半島平和作り」は、8日午前、緊急シンポジウムを開いて「米国大統領選挙以降の情勢展望」という主題で、バイデン政府執権以降の米中戦略競争の行方を予測し、韓半島問題に対する代案を考える場を用意した。シンポジウムには高麗大学〔慶応大学に比せられる私立大学〕の金聖翰教授、韓半島フォーラムの朴英鎬委員長、北朝鮮大学院大学〔北朝鮮を批判的に研究する韓国の大学。北朝鮮政府とは無関係〕の安豪栄総長、魏聖洛・元駐ロシア大使、尹永寛・元外交部長官が出席し、中央日報論説委員兼コンテンツ製作エディターのキム・スジョン氏の司会で討論が行われた。
--トランプ政府の遺産(レガシー)と今回の大統領選挙の意味は。
安豪栄氏「最近、米国の人々が口々に言うのは『トランプが負けてもトランピズムは残っている』ということだ。米国の孤立主義の伝統は非常に強い。トランピズムと米国の伝統的孤立主義が結合した状況だが、このような状況でバイデン氏は難しい課題に取り組むことになった」
--バイデン氏の優先課題、次期政府に対する期待は。
魏聖洛氏「まず新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)への対応が喫緊の課題だ。また、経済をどのように復興させるかだ。
最後に『和合』が最も主要な課題になるのではないだろうか。バイデン氏が僅差で選挙に勝ったが、東北部と西部を中心とした『自由主義・国際主義的米国』があり、中部と南部を中心にした『米国第一(アメリカファースト)主義』に基盤を置く孤立主義的米国がある。この勢力はほぼ拮抗している。彼らを和合させることが最も急がれる」
--米中葛藤状況で、バイデン氏はどのように中国を扱うだろうか。
尹永寛氏「基本的にトランプ氏が国際政治でのリーダーシップを放棄して『力の空白』ができ、そこに別のアクター(中国)が力を使って新しいルールを作った。バイデン氏はこのような状況が決して米国に利益にならないと考えているようだ。これに対する米国の基本戦略は多国間主義だ。他の民主主義国家と共に、中国・ロシア・北朝鮮などに対して圧迫を加えて国際政治秩序の回復を図る考えのようだ」
金聖翰氏「多国間主義と多国間協力を区分し、中国を政治・軍事的に圧迫するために同盟国との多国間主義的連合を図るだろう。反面、気候変動など人類の普遍的福祉に影響を与えることができる衛生・安全保障問題では中国と協力するものとみられる。経済的側面では、根本的に中国を世界貿易機関(WTO)などの国際体制から排除することは自制する見通しだ。核心キーワードは『技術覇権』だが、この問題と伝統問題を分離し、特に5GやAIなどの技術で徹底して中国を排除する戦略を駆使するだろう」
魏聖洛氏「バイデン氏も今の対中けん制政策を維持するのではないだろうか。トランプ政策に対しては賛否両論あるが、中国政策だけは大規模な支持を得た。そのため全体的な基調は維持されるものとみられる。ただし、指導者の間の関係を見ると、バイデン氏と習近平中国国家主席は、オバマ政府時代の米中関係に対して互いに直接額を突き合わせて扱ったことがある。その時に蓄積されたものがあるため、リーダーシップ次元での介入があれば妥協点を探る可能性が残っていると予想する」』
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『--米中葛藤の中で韓国が取るべき立場は。
尹永寛氏「米中関係が対決的な方向に向かう状況で、韓国のポジションを考えるとき、2つのことを念頭に置かなければならない。一つ目は韓国だけがそのような位置に陥ったわけではないこと、二つ目はタイミングが重要だということだ。今すぐに米中のうち一つを選択してどちらかにつかなければならない時ではない。
バイデン政府になれば、1年以内に民主主義首脳会議を開催するものとみられる。そこに参加して、米国と連携する姿を見せながらも、韓米同盟のターゲットを中国などではなく韓半島に限定する方向に持っていかなくてはならない」
魏聖洛氏「バイデン氏は中国問題を優先的に扱い、同盟である韓国に立場表明を明瞭にするよう求める圧迫が相当あるはずだ。それなら日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)およびクリーンネットワークなど、米中戦略競争状況に対するわれわれの立場を決めておくべきではないだろうか」
--バイデン時代、南北関係はどのように解決を図るべきか。
金聖翰氏「北核問題に対して、バイデン氏とトランプ氏の違いは、ボトムアップ式かトップダウン式かのアプローチ方法の違いだ。バイデン氏の周辺には基本的に素晴らしい専門家が多くいるため、ボトムアップ式を選ぶだろう。ところが金正恩(キム・ジョンウン)氏はハノイ首脳会談以降、自身の立場(部分的非核化と5つの国連決議解除の交換)を変える意思が全くない。その点では、バイデン政府も[トランプ政府と]同じような立場[CVID非核化の先行]を堅持するものとみられる」
尹永寛氏「北朝鮮問題がバイデン政府で後回しになれば、北朝鮮の挑発の可能性が相当ある。おそらくバイデン政府は北朝鮮核問題に対して二国間ではなく多国間的に接近するだろう。もし、北朝鮮と二国間交渉をして結果が出ても、北朝鮮がこれを守らなければ、米国の立場が難しくなり、米国に対する信頼度が落ちるだけだからだ」
魏聖洛氏「米朝関係が、バイデン就任後、相当期間これといったことが起きない公算が大きい反面、北朝鮮は対南断絶状態に対しては態度を変える可能性がある。米国を挑発しながらも、韓国側に対しては接触を広げようとする動きがあるかもしれない。
韓米同盟に関連し、防衛費分担金を除き、他のイシューはやや難しくなると考える。世間ではバイデン氏が執権すれば在韓米軍縮小問題がなくなるように考えているが、米国がグローバル次元で軍事力を再配備するということは誰も否定できない。それは政権とは関係なく進められる国防総省の教理だ」
--韓日関係にはどのような影響があるだろうか。
魏聖洛氏「韓日関係に関連し、バイデン氏が上院議員時代に話したことを伝えながら韓国のほうが有利なように一部メディアが報道しているが、これは大きな間違いだ。今回の大統領選挙でバイデン氏がトランプ氏を攻撃するときも『韓日関係を放置した』と言って攻撃した。バイデン氏は今後は放置せずに介入すると考えられるが、おそらくわれわれ韓国を圧迫するだろう。われわれが先に徴用問題に対して解決法を出して先制的に解決していくことが技術的・戦略的によい。それでこそ『日本との関係も解決した。第三者(中国)を責めるのは良くない』と、言うべきことも言えるようになる。日本との関係をそのままにしておけば、われわれが身動きできる幅が狭まる」
金聖翰氏「韓日協力は米国にとって超党派的イシューだ。中国や北朝鮮問題に対処するために韓日米共助が必要だという立場だ。同盟国の連合と民主主義の連合を強調するバイデン氏の立場では、〔互いに〕戦う可能性がある同盟国は韓国と日本だとみている。韓国政府が解決策を先制的に出さなければならない」』
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バイデン政権は、北朝鮮に対しても「多国間主義」による解決をはかるだろう、との予想が出ています。
トランプ時代には、アメリカが北朝鮮へのアプローチを、もっぱら米朝「二国間」で、しかも首脳間の個人的信頼関係に依拠して進めようとした結果、韓国の南北交流が阻害され、米朝間の失敗が南北融和を窒息させる結果になったことは否定できないでしょう。日朝間の接触がまったく進まないのも、――日本の敵視政策に主因があるとはいえ――“米朝ファースト”の余波をかぶっていると言ってよいと思います。
バイデン政権の「多国間主義」が、この状況をどう克服してゆくかは注目されるところですが‥、韓国では、むしろトランプの前轍を踏ませないためには、韓国が率先して、南北間をふくむ「多国間主義」による解決のヴィジョンを立案し、米国に示してゆかなければならない、という議論がおきているわけです。
同じことは「日韓」についても議論されていて、日韓摩擦の根底にある「強制動員」「慰安婦」などの過去問題について、米国の第三者的立場でも支持することができ、日本に圧力をかけることのできるような解決策を提示する必要がある、と述べられています。
たとえば、歴史問題については、被害を隠蔽せず明らかにする教育と記念施設の建設、再発防止の施策を厳格に約束し実行する一方、被害者への補償問題については、1965年「請求権協定」による賠償放棄規定も考慮して、日韓両政府それぞれが分担を取り決めて行なう(※)、という解決も考えられます。問題として浮上しているのは、原告被害者と被告企業の間の案件ですが、訴訟で原告になっているのは被害者のごく一部であり、それ以外の全被害者が補償される施策が実行されなければ、最終的な解決はありえません。それが行われるなかで、原告被害者と企業との問題も、和解的解決が展望できるようになります。
※ それでは、どんな割合で分担するのが公平なのか? 私は、日韓国交正常化の1965年、最初の訴訟が日本で提起された1991年、そして2020年では、この問題の本質は異なってきていると思う。現在は、対等な実力を持つ両国民の税金の使われ方の問題にほかならない。だとすれば、両政府の間で、まさに政治的に決せられるのがよい。当局者の外交手腕と首脳の実力次第になるが、それでよいのだと考える。
韓国でも、「正義連(挺対協)」に対する元慰安婦・李容洙さんの批判をきっかけに、“永遠の糾弾”から、反省と和解と教育を基調とする運動への転換を求める議論が起きています。韓国の現政権と与党が、この新しい基調を受け入れて、従来の「運動圏」盲従の態度を改めるかどうかが、解決の最初の関門でしょう。
また、韓国との間で、このような合理的解決が成立した時には、北朝鮮の対日姿勢も大きく変化すると思われます。北朝鮮も、補償されるべき被害者がおり、解決されるべき歴史問題があることは、韓国と少しも変わらないからです。「日本人拉致問題」の進展は、その時にはじめて期待することができます。
「日本人拉致問題」は、原爆被害とは異なります。日本は「拉致」「連行」の唯一の被害国でもなければ、北朝鮮による「拉致」の唯一の被害国でもありません。世界の他の被害者をまったく無視したエゴだけの主張をつづけるかぎり、この問題は、解決に向けて1ミリでも動くことはありえません。
【追記】 ところで、まだ思いつきですが‥、「日韓摩擦」は「軍拡圧力」を食い止めるブレーキになるのかな? という感想を持ちました。バイデン時代のアメリカが「軍拡圧力」をかけてくるとしても、それはトランプのように兵器を売って儲けたいからではなく、軍事同盟国の“中国包囲網”を固めたいから。軍拡させると、同盟国間の不和を増長するおそれがあるのなら、兵器を売らないでしょう。いまの自民党政府は「軍拡圧力」を歓迎しますが、自民党が軍拡志向のとき(今!)は、過去問題でも強硬になり、「日韓摩擦」はやまないから、アメリカは「軍拡圧力」をためらうことになる。→“自動ブレーキ”がかかる。‥‥だとすると、中国の“反日”は日本の軍拡を促すが、同盟国である韓国の“反日”は軍拡のブレーキになる。。。 そんな単純に言えるかわかりませんが、検討してみたい視角ではないでしょうか。
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