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Wilhelm von Gloeden

 



       晩秋の歩行

 秋霖が森のなかを掻き回した、
 朝風にあおられ冷たく谷に降り注ぐ、
 栗の樹
(き)から堅い果実が落ちる、
 弾
(はじ)けて褐色の湿った哄笑をもらす。

 わたしの生を秋が掘り返した、
 葉を風がずたずたに裂いて奪い去る、
 枝から枝へ揺さぶりつくす―果実はどこにある?

 わたしは愛を花咲かせ、悲嘆の実を受けた、
 わたしは信仰を花咲かせ、憎悪の実を受けた。
 わたしの痩せこけた大枝を風が千切って過ぎる、
 わたしは笑いとばす、嵐になど屈しはしない。

 わたしにとって果実とは何? 目標とは何なのか! ―わたしは花開いた、
 花開くことが目標だった。いまわたしは枯れる、
 枯れることがわたしの目標で、それ以外にない、
 ひとことで言って、心が目標と定めるものが目標だ。

 神がわたしのなかで生き、神がわたしのなかで死に、神が
 わたしの胸のなかで苦しむこと、目標はそれだけで十分だ。
 道なのか迷い道なのか、花かそれとも実りか、
 すべてはひとつ、名前のちがいでしかない。

 朝風にあおられた冷たい雨が谷に注ぐ、
 栗の樹から落ちた堅い果実が
 褐色の湿った笑いをもらす。わたしもいっしょに笑う。



 

リヒャルト・シュトラウス『アルプス交響曲』から
暴風雨、下山
ヘルベルト・フォン・カラヤン/指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 


 さて、嵐の曲はもう、ほとんど出し終えてしまいましたから、今夜は“河”特集にしたいと思います。

 しかし、“河”の曲も、有名なのはもう残ってないんですよね。ヴォルガ川は済んだし、ドン川―――ショーロホフ原作の映画『静かなドン』1957年版の主題歌を、ぜひ聞いてほしいと思ったんですが、こんな名曲が、なぜかユーチューブに見あたらない。そもそも、この曲に触れているサイトがインターネットに皆無なのは、一体どうしてなんでしょう?

 ドナウ川は、のちほど出ます。ライン川―――いまさら『ローレライ』でもないでしょうから、↓こんなのは、いかがでしょう?


 

『ラインの守り』
マックス・シュネッケンブルガー/作詞
カール・ヴィルヘルム/作曲

 


ラインの守り(ドイツ語:Die Wacht am Rhein)は、ドイツの軍歌・愛国歌としての要素が強い民謡。

 愛国的歌詞が多く含まれたこの曲は、ドイツ帝国がまだ無かった19世紀前半のフランスとの国境紛争時に作曲され、普仏戦争を経て第一次世界大戦に到るまでドイツ人に広く愛された民謡である。

 ハリウッド映画『カサブランカ』で、この歌が登場する場面がある。そのシーンでは、ドイツ軍将校たちが酒場でこの歌を合唱するが、レジスタンスのリーダーが客たちと歌うフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』にかき消されてしまう。

    歴 史

 1840年のライン危機において、フランスは自国が掲げる国境概念である自然国境説に基づいて、ライン川をフランスとドイツ諸邦との国境にすべきと主張し、ドイツ側に、ライン川以西の割譲を要求した。この地は三十年戦争の時代から、フランスとドイツ諸邦とのあいだで領土紛争が繰り返されてきており、ほんの数十年前のナポレオン戦争時にもフランスに占領されていた土地である。 このような状況で、Nikolaus Beckerという人物が、『ライン河の歌』という曲を発表し、ライン河を守るよう、ドイツ諸邦に広く訴えた。シュヴァーベン出身のマックス・シュネッケンブルガーは、この曲の、ドイツ人の勇気を鼓舞する歌詞に感銘した。彼がベッカーの曲に自ら作詞したものが、『ラインの守り』の原曲である。」

Wiki:「ラインの守り」
 

「雷鳴のような叫びがとどろく、
 かち合う剣(つるぎ)、砕ける波濤のように:
 ラインへ、ラインへ、ドイツのラインへ、
 河の守り人たらんとする者は誰?

 (くりかえし)
 愛する祖国よ、平安であれ、
 愛する祖国よ、平安であれ、
 守りは堅固かつ忠実に立っている、ラインの守りは!
 守りは堅固かつ忠実に立っている、ラインの守りは!」

 


 2番以降は省略しますが、わるくない歌詞ですよね? 専守防衛みたいなもんです。「ラ・マルセイエーズ」よりいいかもw

 


 

 


 上で引用したウィキに出てましたが、「ラインの守り」と「ラ・マルセイエーズ」がケンカする『カサブランカ』の名場面。ちょっと見ておきましょうか。

 

映画『カサブランカ』から
『ラインの守り』と『ラ・マルセイエーズ』
ハンフリー・ボガート
イングリッド・バーグマン
マイケル・カーティス/監督

 


 バーグマンが眼に涙をためながら歌っている『ラ・マルセイエーズ』のリフレインは、↓こういう歌詞なんですから:

「武器をもて 市民よ
 隊列を組め
 向かおう 向かおう!
 けがれた血が
 私たちの田畑をうるおすまで!」


 いやはや、そんなに敵の血が欲しいんですかね?

 私はドイツ軍に同情を禁じ得ませんでしたw

 そういえば、音楽の混戦――似たような場面が、ギュンター・グラス原作の映画『ブリキの太鼓』にもありました。


【あらすじ】 第2次大戦に至る時期のダンツィヒ自由市が舞台。ダンツィヒ(グダニスク)は、ヴェルサイユ条約の結果、ドイツにもポーランドにも属さない国際連盟保護下の都市とされたが、不安定な状況がナチスの浸透を招くことになる。

 オスカルは、自分の意志で成長をコントロールする能力を備えていた(と彼は主張する。)が、大人の社会への嫌悪から、3歳の時に成長を止めた。オスカルの父アルフレートはドイツ人でナチス党員、母アグネスはカシュバイ人(ポーランドの少数民族)だが、オスカルの本当の父は、アグネスの従兄で情夫のヤンかもしれない。

 〔2:18-〕ナチス党は、ダンツィヒの少年少女を動員して政治集会を開く。オスカルは自分の「太鼓」を持って演壇の下に侵入する。マーチに合わせて、弁士のナチス党幹部が行進して来ると、オスカルは3拍子を打って、演奏の鼓笛隊を混乱させる。やがて、鼓笛隊はオスカルにつられてワルツの演奏を始めてしまい、整列していた少年少女は踊り始め、弁士は演壇に行くことができない。折りからの驟雨で、集会は台無しになる。

 さて【クイズです】 オスカルの太鼓につられて楽隊が奏しはじめたのは、ある“河”に関係のあるワルツ。その“河”の名は? ‥‥↓聴いていただけば、わかるはず。


 

映画『ブリキの太鼓』から
ナチス党集会シーン
ダーフィト・ベンネント/オスカル(主演)
フォルカー・シュレンドルフ/監督

 


 きょうの締めは、アジアの河にしましょう。クワイ河マーチ?‥有名すぎますな。思いきって、↓こんなのはどうでせう?

 

『黄河大合唱』から
第7楽章 黄河を保衛せよ
光未然/作詞
冼星海/作曲

 


「(朗诵词)               (セリフ)
但是,中华民族的儿女啊,   しかし、中華民族の子女よ、
谁愿意像猪羊一般,任人宰割? いったい誰が豚や羊のように、

                    切り刻まれるままになっていようか?
我们抱定必胜的决心,      我々は必勝の決心を抱いて、
保卫黄河!保卫华北!     黄河を守ろう! 華北を守ろう!
保卫全中国!            全中国を守ろう!

(多声部合唱)              (混声合唱)
风在吼,马在叫!         風が吼えている、馬が叫んでいる!
黄河在咆哮,黄河在咆哮!   黄河が咆哮している、

                     黄河が咆哮している!
河西山冈万丈高           河西の高原は万丈の高さ
河东河北高粱熟了         河東・河北のコーリャンは熟した
万山丛中,抗日英雄真不少!  万山の衆中に、抗日英雄は

                      決して少なくない!

青纱帐里,游击健儿逞英豪!  青紗のとばりに身を隠し、

                      遊撃の健児は逞ましく英豪! 

端起了土枪洋枪            土地の槍と西洋の槍を突き上げ

挥动着大刀长矛           大刀・長矛を振るいつつ

保卫家乡!保卫黄河!保卫华北! 家郷を守れ! 黄河を守れ!

                      華北を守れ!

保卫全中国!             全中国を守れ!」
 





      夜の山々

 湖は光をなくした、
 沼地は黒く眠り、
 夢のなかで囁
(ささや)いている。
 巨大なすがたで大地に延びあがり
 四囲を圧する山々のつらなり。
 休んではいない、
 かれらは深く呼吸している、たがいに密に
 ならんで圧
(お)しあっている、
 深く息を吸い、
 重苦しい力で充たされて、
 救いなく情慾の焔に身を焦がす。



 

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