御岳山から鋸山、御前山(ごぜんやま)をへて三頭山(みとうざん)までの多摩川南岸の縦走路は、戦前から首都圏の行楽客が多く、よく踏み馴らされている。現在では、登山スポットとしては、北岸の雲取山・石尾根縦走路、また今上陛下も踏まれた長沢尾根に地位を譲り、南岸は、もっぱら山岳ランナーの練習場となっている。
しかし、初心者にも危険のない南岸の整備の良さは、気軽な足馴らしには好適だ。
じつは、私の主要な関心事は、御前山から南へ延びる湯久保(ゆくぼ)尾根の末端部に、忘れられたようにある――地図からも⛩の記号が消されてしまった――無人の祠にある。ここは、御岳山、三峰山のみならず、甲州、伊那から遠く飛騨にかけての古い民俗と深くかかわっている。
そのことは後ほどふれるとして、まずは、三頭山中腹の「檜原(ひのはら)都民の森」からはじめたい。
「都民の森・駐車場」から歩道トンネルを抜け、「炭焼き窯」↓のところで、「里山の道」外周路へ分岐する。高度計は 1075m を指している。
雑木林の中を、砥山 1302m へ一気に昇る。樹種は、下から上へ、サワグルミ、イタヤカエデ、ホオノキ、ミズキ、ツガ、モミ、リョウブ、ミズナラ、アカシデ、ウリカエデ、ハウチワカエデ、ハリギリ、ヤマザクラ、ヤマボウシ、アセビ、クリ、シラカバ、イヌブナ、メイゲツカエデ(コハウチワカエデ)などだ。ヒノキの植林もある。
あいにくの曇天で、鳥の声はしないが、人間の子供の元気な声が森の奥から響いてくる。
↓ウリカエデ。3本ツノの形が特徴的。1本ツノの葉もある。かわいい形のカエデだが、まだ紅葉していない。
↓ヤマウルシらしい。ハゼ、ウルシの仲間はみな真っ赤な紅葉だと思っていたが、日蔭では黄色くなることもあるそうだ。
アントシアニン(赤い色素。下記参照)の生成は、太陽光が関係するようだ。春先に紅葉するカエデやブナ(幼葉のみ)があるが、強い日差しを避けるためだという。
ヤマボウシ↓。まん丸い葉と葉脈に特徴がある。名前の由来、誰かに聞いたが忘れてしまった。「山法師」と、どういう関係があるんだっけ。まだ紅葉していない。
リョウブ↓。「御岳・サルギ尾根」でも出したが、樹皮がよく写っていなかったので、ここで再度登場。
よく似た“まだら”の樹皮に、ヒメシャラなどがある。ヒメシャラは、このあと(次回分)「御前山」で出てくるので、そこで詳しい話をしよう(造園会社からの引用だが)。
ハウチワカエデ↓。発色すると、あざやかな黄色になるが、まだまだ先のことだろう。手のひらよりも小さい大きさだが、それはここが関東だからだ。北海道で見たエゾハウチワカエデの葉は驚くほど大きかった。まさに、天狗のハウチワだ。
ハリギリ↓。写真で見ると、ハウチワカエデに似ているが、実物を見ればまちがえない。こちらは柄が長くて、放射状に叢生している。カエデよりヤツデのふんいきだ。もちろんカエデの仲間ではない。カエデではない証拠は、その次の写真で、はっきりするだろう。
ハリギリの紅葉↓。黒褐色に発色する。
植物の紅葉は、赤、黄、褐色、白の4色。それぞれ色素がちがうそうだ。
赤 アントシアニン
黄 カロティン
褐色 タンニン
白色 色素なし
葉の葉緑素が分解・回収されたあとで、これらの色素が残っていると、それぞれの色になるとのこと。ハリギリはタンニンの紅葉だ。
左の枯葉は、クリとブナ。ブナとイヌブナは葉脈の数で見分ける。11本以上ならイヌブナ。
右は、ヤブデマリのようだ。初夏、アジサイに似た白い花を咲かせる森の低木。
「砥山」1302m に到着↓。
御前山方面への縦走路は、「砥山」からそのまま「里山の道」外周路を下ると、まもなく分岐点がある。↓案内立て札の右から下りて来て、左へ分岐する。
ウリハダカエデの紅葉がはじまっている。ここは、砥山の北側斜面なので、紅葉が早いようだ。
ホオノキの紅葉というか“黒葉”。ホオノキも、タンニンだ。
浅間(せんげん)尾根分岐点↓。浅間尾根へ向かう右の道は、はっきりしているのに、左の御前山縦走路は、あいまいに広がっている。ところが、登山地図(昭文社)では、右は点線、左は実線。
これには、わけがある。浅間尾根方面は、まもなく「奥多摩周遊道路」の切通しとぶつかるので、急崖を下らなければならない。そこは、かなり危険だ。(転落すると、打撲するだけでなく、とばして来る車に轢かれる)。だから、点線で表示している。
「奥多摩周遊道路」が開通してから、このあたりの山路は、至るところで寸断されてしまった。
路にイガクリが落ちている。ここから御前山まで、縦走路はあちこちで、こういう状態だ。人間がクリを拾わなくなったので、クリを食糧にする猿や熊も駆除されてしまったので、自然は誰に恵みを与えたらよいかわからず、困惑している。
ところどころ、イガが自然に割れて、実がこぼれている。畑の栗とはちがって実は小粒だが、天津甘栗くらいの大きさのもある。この大盤振る舞いのオードブルは、誰を待っているのだろう?
風張峠。私の高度計は 1177m。
ここで「奥多摩周遊道路」に出て、しばらく車道歩きになる。自動車もオートバイも、下り坂を最高速で飛ばして来るので、すれちがうたびに命が縮まる。自転車専用道にしてほしい。(単車は走ってもいいかもしれない。オートバイはうるさいが、排気ガスの量ははるかに少ない。バイクは植物にやさしい)
ヒノキのあいだから、浅間尾根が見えた。きょう唯一の展望だ。
【つづく】
タイムレコード 20201004
都民の森駐車場0920 - 0924炭焼き窯 - 1035砥山1100 - 1102里山外周路からの分岐点1105 - 1135風張峠 - 1145ふるさと村方面分岐点1150 - 1209月夜見山1212 - (2)に続く。