Hans von Schrötter (1891-1965)
黒の騎士
わたしは黙して試合場を去る、
わたしはすべての勝利の名を持して、
露台(バルコン)の婦人方のまえ恭(うやうや) しく
跪いたけれど、合図を返す女(ひと)もなければ。
わたしは琴(リラ)の音(ね)に合わせて歌う、
わたしのリラから立ち昇る底深き響き。
満場のリラ弾きは耳傾けて沈黙すれど、
麗しき淑女らは退散して影もなし。
わたしの紋章の黒い地(じ)に
掲げられたる百の桂冠は、
百の勝利の燦然たるしるし、されど
そこに愛の栄冠はない。
わたしの柩(ひつぎ) に頭(こうべ)傾けて
騎士ら詩人(うたびと)らは月桂樹の枝
淡色(あわいろ)の茉莉花(ジャスミン)もて覆えども、
紅き薔薇の花が飾られることなからん。
今回も、ちょっとマニアック。ヴィヴァルディの協奏曲のなかで、フルートとリコーダーが中心の協奏曲ばかり聴いてみます。
ヴィヴァルディといえば、ヴェネチアの女子修道院で、少女のファゴット合奏団を指導するのが本業だったそうで、ファッゴット――あの大ぶりな木管楽器をかかえた少女たちを指揮する姿を想像すると、ユーモラスな笑いに誘われます。
好んで、いつも真っ赤な服を着ていたので、「赤の司祭」というあだ名がついていたとか。とにかく風変わりな人だったようです。
ヴィヴァルディ「フラウティーノ協奏曲 ハ長調」RV444 から
第1楽章 アレグロ
カメラータ・ケルン
ヴィヴァルディが「フラウティーノ」と呼んでいたのは、現在の「ソプラニーノ・リコーダー」にあたる木管楽器。リコーダー族(縦笛)のなかで、2番目に高い音域を担当します。
「 リコーダー
リコーダーは木管楽器の一種で、リードを使わないエアリード(無簧)式の縦笛である。
リコーダーという名称については、古英語の to record に小鳥のように歌うという意味があり、これを語源とする説が有力であるが、名称の由来について確かなことはわかっていない。ただ、バロック時代には、小鳥に歌を教えるための『バードフラジョレット』と呼ばれる小型の管楽器が考案されていることから、関連があるといわれている。
リコーダーのような構造をもつ管楽器は、古くからヨーロッパ各地で演奏されていた。バロック期までは、一般的にはリコーダーでなくフルート(フラウト)と呼ばれており、現在のフルートの原型である横笛は、フラウト・トラヴェルソ(横向きのフルート)と呼ばれていた。
しかし、音量が小さいこと、音の強弱がそのままピッチに影響し、補正に高度の技能が必要なこと、発音が容易であることの裏返しとして音色の表情をつけにくいことなどから、バロック期後半の18世紀頃からは、次第に表現力に優れたフラウト・トラヴェルソに主流の座を奪われ、古典派音楽に至っては、全く顧みられなくなった。
こうしていったんは忘れ去られたリコーダーであるが、20世紀初頭になって、古楽復興運動の中でイギリスのアーノルド・ドルメッチが復元し、フランス・ブリュッヘンらによって過去の奏法が研究された。吹奏楽や、古典派以降のオーケストラで使用されることはほとんどないが、古楽では欠かせない楽器であるだけでなく、現代音楽での使用も多い。
リコーダーは音域ごとに異なる種類のものが存在し大きくなるほど音域は低くなる。
リコーダーの管には、メープル、洋梨、つげなど比較的柔らかいものから、紫檀や黒檀のような堅いものまでさまざまな木材が用いられている。
ソプラニーノ・リコーダー
ソプラニーノ・リコーダーは、現代のリコーダー属で、2番目に小さいリコーダーである。17世紀以前には、最も小さいものだった。
現代のソプラニーノ・リコーダーは、F5 を最低音程とし、長さ 20cm。多くの場合、ヨーロッパの柔らかい木、または熱帯の堅い木でつくられる。
アントニオ・ヴィヴァルディは、『フラウティーノ』すなわちソプラニーノ・リコーダーのために、少なくとも3つの協奏曲を書いている。議論があるのは、彼の楽譜が、F2 を最低音とするリコーダーのために書かれているのか、それとも、G2 を最低音とするリコーダー用なのかということである。〔どちらなのかによって、曲の音程と調性が異なることになる。じっさい、現在では、楽団と演奏者ごとに異なる音程で演奏されている〕」
Wiki:「リコーダー」 Wiki(eng):「recorder」 Wiki(deu):「Blockflöte」
ヴィヴァルディ「フラウティーノ協奏曲 ハ長調」RV443 から
第2楽章 ラルゴ
ジョヴァンニ・アントニーニ/指揮,フラウティーノ
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
独自の古楽器と古い演奏法の研究から編み出した「がちゃがちゃ」演奏でデヴュー、保守的な古楽ファンの度肝を抜いたイル・ジャルディーノ・アルモニコでしたが、最近では彼らの音楽にも深みが増してきました。↑この緩楽章など、一流のクラシック室内楽団と並べてもひけをとらないでしょう。
上で引用したウィキペディアにもありましたが、バロック時代に「フルート」といえば、現在のリコーダー(縦笛)のこと。当時、横笛のほうは「フラウト・トラヴェルソ(横向きのフルート)」と呼ばれていました。
現代のフルートが、金属でできているのとは違って、「フラウト・トラヴェルソ」は、リコーダーと同じく木でできています。
クラシック(古典派)音楽に馴れた耳には、第1楽章の最初の和音が異様に聞こえるかもしれませんが、中世、ルネサンスまでは、こういう和音が主体でした。中国風な感じがしますか? べつに中国だけでなく、むかしは世界中の音楽が、こうだったんです。
ヴィヴァルディ「フルート,弦楽器と通奏低音のための協奏曲 ニ長調“ごしきひわ”」RV428
第1楽章 アレグロ・マ・ノン・タント
第2楽章 ラルゴ・カンタービレ
第3楽章 アレグロ
イェト・ヴェンツ/フルート
ムジカ・アド・レヌム
↓最後の曲は、ちょっと知られたメロディー。聞いたことありませんかね? リコーダー用の協奏曲のなかでは、いちばんの名曲ではないでしょうか。
ヴィヴァルディ「リコーダー協奏曲 ヘ長調」RV434
第1楽章 アレグロ・マ・ノン・タント
マリオン・フェルブリュッヘン/リコーダー
フィルハーモニア・バロック・オーケストラ
秋の樹木
みどりの衣服をまだ奪(と)られまいとして
冷たい十月の夜と望みのない格闘をつづけるのは
わたしの樹木だ。お気に入りの衣装が悔やまれる、
楽しかった数か月着ていた服なのだ、
できることなら手ばなしたくはない。
そしてまた一夜、そしてまた
荒涼たる一日。樹(き)は憔悴し
抵抗をやめ、手足の力を解き放ち
その未知の意志に身を任す、
完全に征服されてしまう。
それでも彼はいま黄金(きん)色に火照って笑う
青い空のした心底から幸せそうだ。
疲れて死に身を差し出した彼に
秋は、穏やかな秋は新しい煌(きら)びやかな
装いを与えてくれたのだ。
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