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志賀直哉と里見弴―――
―――同性の愛慾と葛藤(1)
里見弴が4歳年上の志賀直哉との恋愛を
告白した私小説『君と私』は 1913年、同人誌『白樺』に
連載されましたが、里見による私事の描き方に
堪えられなくなった志賀の批判文と里見の反論も
同誌上に掲載されるにおよび、続載原稿が印刷所に
とどかず紛失したのは、志賀が手をまわしたためだと
里見が疑うなど、モデル小説の制作と発表じたいが
二人のあいだの波乱・葛藤の一齣となりました。
第1回の今回は、当時、明治・大正期の男子同性愛に
現れた大きな変化が、まさに志賀直哉と里見弴が学生生活を
送っていた 1900年前後‥世紀転換期に生じている
ことに注目します。
志賀は、古い明治期の「硬派」的同性愛および
性行為習俗の影響を多分に受けており、これにたいして
里見は、大正期以後の同性「恋愛」の新しい世代に属して
いました。二人のあいだの葛藤は、世代的
価値観の変化と無関係ではないのです。
以上の歴史的文脈をざっと予察したあと、本論に入り
12歳の里見弴が、りりしいスポーツ少年であった志賀直哉
を見染め、“あこがれ”を抱いた経緯をたどります。
二人のあいだには、里見の兄が一足先に
志賀と同性愛関係をむすんで親しくしているという
弴にとっての障碍がありました。
この障碍を乗り越えて二人が近づいてゆく過程は
次回以降に見ることとなります。