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       春

 森の袖に樹の芽は涙ぐむ、
 黄色い花が力無い緑のなかで光る、
 鳥たちの愛のさえずり
 酔っぱらって明るい樹々をふらついている、
 そして子供たちは野原の向うへ
 桜草
(プリムラ)を摘みに行こうとして迷子になり、
 これからの生の
 混乱した痛ましい予感を回らぬ舌で唄う。
 しかし私たち大人は一心に
 山の端
(は)に耳を澄ます、
 その向うでは遠い砲撃の火が
 弱く鈍くまるで瀕死の鼓動のように唸っている。

 いつか平和が来るだろう!
 いつか私たちは子供らと
 花飾りを携え真摯な祭事に向かうだろう、
 花飾りを忘れえぬ墓所の数々に、
 花飾りを彼らの帰郷に、
 死によって日焼けた額を鎮められた人々に。
 花飾りを私たちは捧げる
 そして平和が来るだろう
 賑わしい鐘の音とともに
 いつか――いつか――、静まりかえった幾千の人々に
 慈悲深く微笑んで
 眼を落としつつ
 永遠の母が身をかがめて降りたまうことだろう。




 

シベリウス『ヴァイオリンと弦楽のための組曲』作品117 から
第2曲 春の夕べ
ヤリ・ヴァロ/ヴァイオリン
オストロボスニア室内管弦楽団

 


 シベリウスの歌曲『ルオンノタル』↓は、短い作品ですが、叙事詩『カレヴァラ』の一部に作曲したもので、フォンランドの天地創造神話を扱っています。「ルオンノタル(Luonnotar)」は、空気の精とされる少女。最高神である雷(いかづち)の神「ウッコ(Ukko)」を呼び出して天地を創造します。

 ルオンノタルはもちろん女性で、ウッコも、呼び出されて出てくると雌鳥の姿をしているんですね。その卵から宇宙が誕生します。

 つまり、フィンランド民族の天地創造は、女性2人で完結する。男性は、まったく出て来ないんです。男性の神様がひとりで天地を創造する『旧約聖書』とか、男女が交わって「国生み」をする日本の神話とは、すごく違います。オトコなんかイラナイって…w



『ルオンノタル』(Luonnotar)作品70 は、ジャン・シベリウスが1913年に作曲したソプラノと管弦楽のための交響詩。

 本作はフィンランドの神話に基づいており、詞は叙事詩『カレワラ』のはじめの部分から採られている。『カレワラ』のその内容は、世界の創造に関するものである。ルオンノタル、またはイルマタルは、大自然の精霊であり、海の母である」

Wiki:「ルオンノタル」
 


 そこで、まず、歌詞を日本語訳付きで出しておきます。フィンランド語の発音は、ほぼローマ字読みでいいんです。「ä」も「エ」ではなく「ア」。「y」は「ユ」。アクセントは、先頭から第1,3,5,…奇数番音節にあります。


「Olipa impi, ilman tyttö,  ひとりの娘がいた、空の少女、 

 kave Luonnotar korea,  ほっそりした美しい自然の精だ。 

 ouostui elämätään,  少女は、はてしない虚空に

 aina yksin ollessansa,  いつも一人でいる

 avaroilla autioilla.  自分の生活は奇妙だと感じた。 

 Laskeusi lainehille, 少女は波に身を投げ

 aalto impeä ajeli,  波は彼女を呑みこんだ。 

 vuotta seitsemän sataa  700年のあいだ 

 vieri impi veen emona,  少女は水の母となって回りつづけた。 

 uipi luotehet, etelät,  彼女は北西へ泳ぎ、南へ泳ぎ、 

 uipi kaikki ilman rannat.  空の地平線をめぐりめぐった。 

 Tuli suuri tuulen puuska,  大きな突風が吹いて 

 meren kuohuille kohotti.  海に高波を起こした。 

 “Voi, poloinen, päiviäni!  『ヴォイ、私の日々は、なんと惨めなことでしょう! 

  Parempi olisi ollut   空の娘として生きたほうが 

  ilman impenä elää.   よかったわ。 

  Oi, Ukko, ylijumala!   オイ、ウッコ、神々の神よ! 

  Käy tänne kutsuttaissa!”   私が呼び出したら、ここに来てください!』 

 Tuli sotka, suora lintu,  するとアヒルがやってきた、めだたない鳥が。 

 lenti kaikki ilman rannat,  アヒルは空のすべての岸辺をめぐり泳いだ。 

 lenti luotehet, etelät,  北西へ泳ぎ、南へ泳いだが、 

 ei löyä pesän sioa.  巣を作る場所はどこにもなかった。 

 Ei! Ei! Ei!  ない!ない!ない! 

 “Teenkö tuulehen tupani,  『風の上に家を建てようか、 

  aalloillen asuinsiani,   それとも波の上に住まいを作ろうか? 

  tuuli kaatavi,   風は家をひっくり返してしまう、 

  aalto viepi asuinsiani.”   波は私の住まいを壊してしまう!』 

 Niin silloin veen emonen,  そのとき、水の母が 

 nosti polvea lainehesta,  波の上に膝を出し、 

 siihen sorsa laativi pesänsä,  アヒルはそこに巣を作った。 

 alkoi hautoa.  アヒルは巣で卵を温め始めた。 

 Impi tuntevi tulistuvaksi.  空の娘は熱さのあまり 

 Järkytti jäsenehensä.  脚を引っこめた。 

 Pesä vierähti vetehen,  アヒルの巣は水中に落ちて 

 katkieli kappaleiksi.  ばらばらに分解してしまったが、 

 Muuttuivat munat kaunoisiksi.  卵はみな姿を変え、美しくなっていった。

 Munasen yläinen puoli  卵の上半分が 

 yläiseksi taivahaksi,  舞いあがって天穹となり、 

 yläpuoli valkeaista,  白身の上半分が 

 kuuksi kumottamahan,  輝く月となった。 

 mi kirjavaista,  まだらの部分は 

 tähiksi taivaalle,  天の星となった。 

 ne tähiksi taivaalle.  それらは天の星となった。」

 

シベリウス『ルオンノタル』作品70
フィリス・ブライン=ジャウソン/ソプラノ
アレクサンダー・ギブソン/指揮
スコットランド国立管弦楽団

 

 



ルオンノタルと宇宙の孵卵       
 



 後半は、ラフマニノフを聴いてみたいと思います。ラフマニノフというと、…なんというか、熱っぽいというか、大げさぶりっこというか、思わせぶりと言うか、そこまで言ったらファンに怒られるというか。。。(^^;)っ

 ラフマニノフ本人のピアノ演奏で、まずは聴いてみませう:


 

ラフマニノフ『エレジー』作品3の1
セルゲイ・ラフマニノフ/ピアノ

 


 はじめっからドドーンッと来ないんですね。最初は何だか、ああでもない、こうでもない、あいまいで、しばらく聞いてるとようやく主題のメロディーが聞き取れる‥‥そういう曲が多くないですか? ラフマニノフわ。

 ハイまず第1主題、ハイ、第2主題、ハイ、展開部、ハイ、再現部‥‥と、お行儀よく並んで整列乗車!、みたいな古典派を聴きなれてると、どーも、こーゆーのは気持よくない、いらいらしてしまふw

 ↓これも、おなじみのメロディーは 1:33 あたりから。


 

ラフマニノフ『パガニーニの主題によるラプソディー』から
 

 



      頑(かたく)ななひとびと

 なんと非情なおまえたちの眼つきだろう、
 何もかも石にしてしまおうとする、
 ほんの小さな夢のかけらもない、
 そこにあるのは冷たい現在だけ。

 おまえたちの心には
 日の光も射さないのか?
 おまえたちは泣くこともないのか、
 子供だったことがないかのように?



 

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