9月のエレジー
雨の短調な歌がおごそかに薄暗い樹々をわたる、
森の頂(いただき)を越えて寒々とした褐色が吹きよせてくる。
友らよ、秋は近い、そいつが森の中でこっちを窺っている;
畑もからっぽになって立ちつくす、鳥のほかは誰も来ない。
南向きの斜面ではそれでも葡萄の房が青く熟している、
その豊穣なふところに熾火(おきび)と密(ひそ)やかな慰めとをやどす。
きょうの日には樹液とさんざめく緑と立つものも
やがてみな白く凍えて消えてゆく、霧と雪に死ぬ;
熱をそそぐワインとテーブルで笑う苹果(りんご)の実だけが
夏と陽射しの日々に輝き赤く染まることだろう。
われらの心もおなじこと、老いて臆病な冬に見舞われれば
熱をそそぐ熾火に感謝して、回想のワインを嘗めつくす、
流れ去った日々に羽ばたく祭りと歓びのつばさ
その幸せな影、沈黙の踊りが心に明滅する。
秋の夜長。
チャイコフスキーの交響曲から、あえて地味な楽章を選んでみたいと思います。
チャイコフスキー『交響曲 第4番 ヘ短調』から
第2楽章 アンダンティノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ‐ピュ・モッソ
ダニエル・バレンボイム/指揮
シカゴ交響楽団
「小さい秋 小さい秋 小さい秋 みつけた
お部屋は北向き 曇りの硝子
虚ろな眼の色 溶かしたミルク
わずかな隙から 秋の風
…………………
昔の昔の 風見の鶏の
ぼやけた鶏冠に 櫨の葉ひとつ
櫨の葉 赤くて 入り日色
小さい秋 小さい秋 小さい秋 みつけた」
チャイコフスキー『交響曲 第2番 ハ短調“小ロシア”』から
第3楽章 スケルツォ:アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ
ヘルベルト・フォン・カラヤン/指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
「小ロシア」とは、現在のウクライナ。“ロシア”が最初に興ったのは、この地なのですが、黒土地帯の豊かな穀倉をめぐって、有史以来さまざまな民族の争奪の地となってきました。
1930年代から第2次大戦にかけて、戦時食糧を懸命に確保しようとするスターリン・ロシアによって、穀物の強制的な徴発・没収が行なわれ、そのため餓死したウクライナ農民の数、400万人とも、1500万人とも言われます(⇒:ホロドモール)。その忌まわしい記憶は、今日の紛争の遠因とされる。
私たちにとっても、けっして人ごとではありませんね‥
チャイコフスキーの2番は、ウクライナ民謡の旋律を取り入れているので、「小ロシア」の名があります。第3楽章には、民謡の旋律そのものはありませんが、やはり全体の調子は、ウクライナ民謡風です。
ところで、秋ともなれば、↓この曲を無視するわけにはいきますまい。ともかく、サワリだけ:
ヴィヴァルディ『ヴァイオリン協奏曲“四季”』から
「秋」RV293
第2楽章 アダージオ・モルト
西崎崇子/ヴァイオリン
スティーヴン・ガンゼンハウザー/指揮
カペラ・イストロポリターナ
人間ができることには限りがあります。どんなに努力しても、建てられない家は、建てられない。守りえない町は、守りえない。
それでも、諦めるには及ばない。
あらゆる努力が虚しいと感じたときには、何もかも投げうって、眠ればよいのです。眠りは、天から与えられた恵みなのですから。。。
「 《詩篇》第127章
第1節 主が家を建てられるのでなければ、建てる者の勤労はむなしい。主が町を守られるのでなければ、守る者のさめているのはむなしい。
第2節 あなたがたが早く起き、おそく休み、辛苦のかてを食べることは、むなしいことである。
主はその愛する者に、眠っている時にも、なくてならぬものを与えられるからである。
第3節 見よ、子供たちは神から賜わった嗣業であり、胎の実は報いの賜物である。
第4節 壮年の時の子供は勇士の手にある矢のようだ。
第5節 矢の満ちた矢筒を持つ人はさいわいである。彼は門で敵と物言うとき恥じることはない。」
ヴィヴァルディ『Nisi Dominus(主が家を建てられるのでなければ)』から
第4曲「Cum Dederit(主は愛する者に眠りを与えたもう)」RV608
サンドリーヌ・ピオ/ソプラノ
さいごに、チャイコフスキーのシンフォニーを、もう1曲。2番はウクライナでしたが、3番はポーランド風(ポロネーズ)。
ちょっと古いですが、スヴェトラーノフの指揮はやはり捨てがたい。フィナーレの爆演は、“赤軍突撃隊長”に限りますねw
チャイコフスキー『交響曲 第3番“ポロネーズ”』から
第5楽章 フィナーレ
エヴゲニー・スヴェトラーノフ/指揮
USSR交響楽団
花の枝
いつも行ったり来たり
風に逆らって花枝が揺れる、
いつも上がったり下がったり
ぼくの心は子供のようにゆらぐ
明るい、暗い日々のあいだ、
野望と諦めのあいだ。
やがて花は散り終えて
枝はたわわの実を乗せる、
子供の世界に心は満腹し、
やすらいを得て
告白する:楽しかったし無駄ではなかった
憩いなき生の戯れではあったけれど。
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