韓国がグソミア終了を表明したことで、ネット内も騒がしくなっている。グソミアは、かんたんに言えば、韓国と日本が軍事機密を交換し合う協定だ。
⇒:GSOMIA破棄 韓国の新聞も大きく報道(NHK)
報道のしかたが比較的まともなNHK↑を引用したのだが、『ハンギョレ新聞』だけを「革新系」にして、ほかのメディアをみな「保守系」にしてしまっているのは納得できない。中道的な『中央日報』まで「保守系」にしてしまっている。
しかし、これは保守・革新で割り切れる問題ではない。
それと、もうひとつ大切なことがある。
「文在寅大統領が今月15日の演説で諸問題の外交的解決に努力を見せたにもかかわらず、日本政府の態度に変化がなかったことが決定的な要因となった」
という現実認識は、革新系だけのものではない。事実の認識としては、韓国では保守・革新を問わず共通認識になっているようだ。
そのうえで、それでもがまんしてグソミアを継続すべきだったのか、それとも終了してよかったのか――について、意見が分かれているのだ。『中央日報』から引用すると:
「青瓦台によると、内部的にも先月末までは『未来の韓日関係』を念頭に置いてGSOMIAを維持すべきだという流れが強かったという。先月初め、日本の戦略物資輸出制限措置があり、当時鄭義溶(チョン・ウィヨン)室長など当局者がGSOMIA再検討の可能性を示唆したが、言葉どおり『カード』的な性格を持つのみだった。しかし、2日、日本が韓国をホワイト国から除外して雰囲気が変わったという。特使を二度送るなど、地道に交渉の可能性を打診したが、日本が無対応で一貫した点がGSOMIA終了の直接的な理由になったというのが青瓦台の話だ。特に、文大統領が光復節(解放記念日)の祝辞で『対話に出れば喜んで手を握る』とし、前向きな対日メッセージを出したが、日本からは何の反応もなかったという。……
この日午後、NSC常任委が開かれる直前までもGSOMIA延長について結論が出なかったという。青瓦台関係者が『難しい時は原則が重要だと考える。それで原則通り決めた』とし『国家利益ということは名分も重要で実利も重要だが、国民の自尊感を守るのも重要だ』と発言したのと脈を同じにする。」中央日報
(『ニューヨーク・タイムズ』は)「笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員の『(日本の対韓国輸出規制は)慎重さを欠いた失敗だ。今の韓国政府や文在寅(ムン・ジェイン)大統領の心情を全く考慮しなかった』という言葉を引用した。」中央日報
『笹川財団』は、右翼の総元締めだった故・笹川良一氏(1899-1995)の「『人類みな兄弟』の精神を体現する」として設立された財団だが、日韓の有識者シンポジウムを開催するなど、韓国との関係では熱心に活動してきた。『ニューヨーク・タイムズ』が引用した↑上の意見は、傾聴に値するだろう。
これに対して、野田元首相(消費税にも固執しているが)と立憲民主党は、わざわざ声明を発表して、韓国のグソミア破棄を非難している。これまで、安倍政権の“韓国いじめ”に対しては、ほとんど沈黙を守って来た、この人たちがだ。支持率を上げることしか考えられない“腰抜け”―――と言われてもしかたないのではないか。
右翼 - 左翼という区別が役に立たないのは、日本も同じらしい。
2国のあいだの約束事が“終了”した。価値の程度について意見が分かれるとしても、一定の価値ある約束事であることは、共通認識になっている。それは、日本の軍備を容認するのかどうかとは別の問題だろう。
2国双方に一定の価値ある約束事が終了したことについて、双方のやりとりの中でそれが起きた以上、どちらにも責任があると考えるのが常識ではないだろうか。その場合、野党がまず追求すべきは、相手国の責任ではなく、自国の政権の責任ではないのか?! なにもかも他の国の責任にして、自国政府の不正に眼をつむるのは、与党だけで沢山だ。そんな野党なら無いほうがましではないか!
立憲民主党には、たいへん失望したことを、このさい告白しておきたい。
あのね。。。 自民党の石破さんのほうが、まだしもまともな発言をしてますよ。排外主義を煽ってるのは誰なんでしょうね? 立憲民主党が安倍菅といっしょになってガナるから、マスコミも安心して追随するんじゃないんですかね? ⇒:GSOMIA破棄で自民・石破茂氏「日本が戦争責任と向き合わなかったことが問題の根底」
ところで、私たちが考えるべきことは、今回の“終了”から、どんな教訓を引き出すかということだ。国家間の付き合いは、人と人との付き合いとは違う。ある意味で非情であり非人間的、それが現在のところは現実だと思う。山本太郎氏も言っていたが、国の場所を変えることはできないのだ。すぐ隣にある国を説得できなければ、それは「失敗」なのだ。
8月15日の光復節演説で、文大統領が、「日本が対話と協力の道に出てくるなら、我々は喜んで手を握る」と言って私たちに手を差し伸べた時、日本の政権とメディアは、韓国が“軟化した”と思ったのではないか? これなら、グソミア破棄などする勇気はなかろうと、タカをくくったのではなかったか?
しかし、光復節演説でも、“原則”はしっかりと保持されていた。私たちは、まずそのことを見るべきだったし、安倍一味もメディアも、無視してはならなかったのだ。たとえ意見を異にしても、交渉相手の姿勢は正確に把握しなければならないし、それができなければ「失敗」して打撃を受ける。それが外交というものだろう。
革新である必要もない。韓国の知識人のベースに儒教があることを念頭においていれば、まちがえることではなかった。文大統領が手を差し伸べたのは、儒教の「仁」(まごころ)の発露であったろう。“原則”を棄てた妥協でも擦り寄りでもなかった。それが見えなかった人たちは、保守でも右翼でもない。ただの馬鹿である。
日本のメディアには、グソミアがなくなっても日本は困らない。好きにしろ……といった“やせがまん”意見が出ているので言っておきたい。グソミアは,一方的に日本を利する協定だったということを↓
「中央日報によると、5月以降に北朝鮮が飛翔体を発射した全8回のうち7回で日韓は情報をやりとりした。ミサイルが日本列島を越えた場合などは、韓国軍のレーダーでは詳細を捕捉しきれず、日本の情報が必須となる。」日本経済新聞
「ミサイルが日本列島を越えた場合……、日本の情報が必須となる。」と言うが、日本列島を越えたあとのミサイルの動きに、一体どれだけの情報価値があるやら疑わしい。この部分は、『中央日報』の元記事に無い『日経』記者の憶測である。
『日経』は隠して報道しないが、『中央日報』の元記事によると、7回とも、日本が韓国に情報提供を求めているのだ。それは当然だろう。情報を持っているのはもっぱら韓国なのだから。日本が提供できる情報といったら、ミサイルが日本列島を越えたあと、どこの海に落ちただのという、まったくどうでもいい情報だけなのだ。
この点、“終了”報道の当初は、韓国メディアも正確に把握してはいなかったようだ。25日になると、↓つぎのように、グソミアは、まったく韓米にとっては何の役にも立たない、日本が“棚からボタモチ”を頂戴するための協定だったことが暴露された。
「青瓦台も聯合ニュースとのインタビューで『文在寅(ムン・ジェイン)政権になってから日本から北朝鮮のミサイル発射に関する情報を得て分析に活用したことは1度もない。北朝鮮のミサイル発射と関連して日本が提供した情報はただの1件も意味あるものがなかった』と言い切った。
実際に韓国は地球曲率により北朝鮮のミサイル発射時刻など初期段階で日本よりはるかに正確な情報を確保しているという。この時イージス艦の弾道弾探知レーダーとグリーンパイン級弾道弾早期警報レーダーがその役割をする。また、韓国軍は米国軍当局とやりとりし、発射距離と高度、諸元などに対する分析をある程度進めた後に確認された情報を公開する。」中央日報
つまり、北朝鮮ミサイルに関しては、韓国軍と在日・在韓米軍が情報源なのであり、自衛隊は何の役にも立っていないのである。考えてみれば、至極当然な話であった。
ホゾをかむようにしてグソミア破棄を悔しがっているのは、安倍一味なのだ。……といっても、“カヤの外”のモニターが、インカムをはずされて“ツンボ桟敷”に移っただけのことである。
グソミア終了を、軍事同盟の亀裂のように考えるのは大げさすぎる。情報交換に関しても、2016年締結より前の状態に戻るにすぎない。軍事情報の疎通は、依然として可能なのだ:
「金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長は……『安保に関連した軍事情報交流不足問題に対して懸念があるかもしれないが、これについては2014年12月に締結された韓米日3国間情報共有約定(TISA)を通じて米国を媒介とした3国間の情報共有チャネルを積極的に活用していく』と説明した。」中央日報
※ ―― ※
【私がグソミア終了を心から祝福する理由】
24日付の『中央日報』は、韓国政府がグソミア終了に踏み切った理由を4項目にまとめて掲載しました。同紙は、社説でも、政府のグソミア終了決定を強く批判しているのですが、政府の主張する根拠についてもきちんと整理して報道しています。読者本位の姿勢ですねえ。。。 爪の垢を煎じて、日本のジャーナリストに飲ませたいものですw ⇒:青瓦台がGSOMIA終了を決めた4つの理由
第1の理由は、「情報の非対称性」です。締結以後に交わされた情報交換は、もっぱら韓国が日本に貴重な情報をタダで提供し、日本からはほとんど情報の供給がなかったのだといいます。とくに、最近の北朝鮮短距離ミサイルに関しては、すべて日本側からの要請に基き、日本の情報需要をみたす提供が行われたのだと。そのため、日本政府による「ホワイト国排除」などがなくとも、グソミア見直しの機運が高まっていた。(記事は、これに対する民間の反対意見も載せているので、関心のある方は、↑リンク先の記事をどうぞ。以下、各項目同じ)
第2に、グソミア以前に 2014年締結の日米韓情報共有取り決めがあるので、グソミアよりも、2014年体制で行くほうが良いという判断。グソミアも 2014年取り決めも、2級機密まで扱える点は同じで、ただ、2014年取り決めでは、韓国が提供した情報を日本にも流すかどうか、米国が決める点に違いがある。(米国――大統領でも国防省でもなく国務省が、グソミア終了に苦りきっているのは、今後は日本にせっつかれて判断しなければならないのが煩わしいからでしょう。)
第3に、民意の動向です。終了決定までの間、政府はほとんど毎日世論調査を行なって、グソミアに関する世論の把握に努めた結果、終了を求める意見が多数で、終了を求める「支持層が結集する」動向もあったといいます。継続を決定すると反対運動が巻き起こる兆候もあったということなのでしょう。
「中央日報の調査研究チームの緊急世論調査で、韓国政府が22日、韓日軍事情報保護包括協定(GSOMIA)を終わらせることにしたことに関しては、『国益のために下した妥当な決定』という回答が全体の51%だった。『韓日米安保協力を脅かしかねない間違った決定』(38.5%)より多かった。」中央日報 26日
第4に、外交の自主性の確保。韓国としてはいろいろな問題性を感じているにもかかわらず、一方的な継続を是認してしまうと、グソミアはもはや外交上のカードとして使えなくなってしまうという憂慮があった。ただし、アメリカに対しては、誤解を招かないように、事前に十分に説明をしたと言います。ということは、察するに、「自主性」とは、おもに日本に対する自主性、および米日韓関係における自主性ということだと思います。
そして、条件付きで延長する案(韓国のメディアでは有力案として報道されていた)を採らなかった理由は、それを採ると、継続したけれども情報提供を拒む、ということになり、例によって日本の政権は「国際法違反だ」などと不当な言いがかりをつけてきて、紛争が激化することが懸念されたためです。これはたしかに、私たちにもよくわかります。安倍政権は、ヤクザと同じですから、中途半端にスキを見せれば、かならずそこに食らいついたことでしょう。
ところで、「第3の理由」に民意の動向がありましたが、これに関して想起されるのは、2016年にグソミアが締結された当時、米日が朴槿惠政権を圧迫して無理やり締結した経緯から、韓国内では反対の世論が高まっていたことです。当時韓国では、「民族の魂を売り渡すものだ」という批判さえあったといいます。
「民族の魂」などと、迷信臭い、どうかしてるわい、と日本の人は思うかもしれませんが、私は、根拠のある主張だと思っています。というのは、韓国が持っている、北朝鮮に関する軍事機密情報の最も価値ある部分は「人的情報」です。どんなにレーダーの精度を上げても捉えきれない情報が、北朝鮮から秘密裏に送られてくるのです。これは、北朝鮮の人が生命の危険を冒してリークしてきた情報にほかなりません。韓国は同じ民族の政権で、“統一”の暁には自分たちの政権になるかもしれない、と北の現政権に不満を持つ人たちは考えているからこそ、情報をリークしてくるのだと思います。その、命と引き換えに送った情報を、日本が好きなだけ、やすやすと手に入れてしまうと知ったら、自分と家族親戚すべての生命の危険を冒してまでリークするでしょうか? 「民族の魂」は、大げさでも迷信でもないのです。
ということは、グソミア締結後は、北からの情報収集に困難が生じているかもしれません。グソミアがなくなったことによって、復活する情報ルートがあるかもしれません。こうしたことは、絶対に表ざたにはできないことですから、推測を確かめることはできないのですが、私のこの推測は、それほど的外れではないと思っています。
この記事の修正更新は、これで終りにしたいと思いますが、最後に、《北朝鮮問題》について一言しておきたい。
この問題の当事者は、最初から最後まで朝・韓・米の3国であって、日本は、よくて“カヤの外のモニター”、悪ければ“ツンボ桟敷でトバッチリに怯える局外者”なのです。その立場は、問題の性質上変えようがありません。当事者のふりをしようとすれば、アメリカの飼い犬になって吠えるほかはない。
飼い犬が、飼い主の隣にいる人の手に咬みつこうだなんて、どだいが身の程知らずなのです。これを韓国語で「賊反荷杖」という。日本のメディアは「盗人猛々しい」と訳したが、ちょっとニュアンスが違う。(トランプの言った通り8月中に貿易交渉合意。「自動車はアメリカで給料払って組み立てろよ」 ポチはやっぱりぶたれたねw)
日本が努力すべきは、中国、ロシアと同様の“周辺国”として、側面から寄与すること。その場合、北朝鮮が要求する戦後補償問題(重要なのは、カネのバラ播きではなく“再発防止”、すなわち自国内の教育・宗教・政治・防衛の脱軍国主義化)に、正面から取り組むことだけが突破口です。それ以外には、北朝鮮に「向き合う」方法などありません。
アメリカの主唱する“北朝鮮制裁”を受け入れて―――それは、北朝鮮経済と一体化していた東三省の産業構造改編という大きな苦痛が伴なったはず―――、和平と非核化への参与を果たした中国に、日本とロシアはそれぞれの立場で見習わなければならない。
これが理解できなければ、両民主党政権も安倍の轍を踏むことになる。(8・26 19時)//
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