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un tableau d'Aivasovski

 




       インスピレーション

 夜、雲は飛び梢は踊る……
 ひるのあいだ禁圧されていたものが立ち昇る:
 お伽のような夢の色彩に
 かがやくふるさとの奇蹟の国。
 青い少年の時そのままの
 夢幻の世界、若き日のはじめの光
 その愉快なすべてが夕日のように
 ひろびろとわたしの胸を照らしだす。
 夜よ、月よ、庭園の静けさと
 風の唄よ、攫
(さら)え、攫って行け!
 ひるのわたしの気まぐれな欲望はすべて
 疲れきって、おまえの深みに逃れ去ろうとする。
 わたしに一日中まとわりついていた
 なんと虚しいお戯
(ふざ)けが剥がれ落ちてゆくことか、
 色褪せたがらくたが粉々に崩れ去る:
 わたしはいまもういちど夢みる子供に、
 英雄に、詩人になる!――詩
(うた)のかずかずよ、いにしえの
 栄誉そのままにわたしに燃えあがれ、
 まだ唄い出されぬうちからわたしのなかで
 何十重にも響きわたっていたあのころのように。
 沸きあがれ、野生の血潮!
 どうにでも好きなように鳴り響け
 それでも忙
(せわ)しない時によって伴奏される
 生気のない昼の輪舞よりも良く、
 黄色く干からびて意味深長な
 使い古された言葉の踊りにまさる、きょうもまた
 わたしの唇から聖なるひびきを奪ったその言葉たち。
 野生の血よ、せいいっぱい騒々しく、古き
 詩人
(うたびと)の悲嘆と喜びとを語れ、
 まるで見知らぬ者の声のようにわたしが耳を傾けるのを許せ。

 夜よ、銀色に蒼ざめた
 忘我の夢想者よ、
 おまえの異郷の国に
 弟を攫って行け!
 必要の昼間に難破した

 その激した逃避行からいっときの憩(やすら)ぎを求めて
 おまえの弟はおまえのなつかしい入江に
 頼りきって小舟を横たえようとする。



 


 霊感(インスピレーション)―――個人的な好みでいうと、ヴィヴァルディの協奏曲集『調和の霊感(L'Estro Armonico)』になるんですね。

 イタリア語の「エストロ」は、アブを意味するギリシャ語「オイストロス(οἶστρος)」からきているそうで、「刺す虫」、転じて「気まぐれ」「芸術的なインスピレーション」を言うとのこと。ヘッセの詩の題名「Inspiration」と同じですね。

 つまり、インスピレーションって、気まぐれとほぼイコールなんです。いつ刺されるかわからない。アブや蜂のような迷惑至極なもの。でも、その気まぐれの災難を人間の世界からなくしてしまったら、‥‥そんな予定どおり、規則どおりに管理されたコンピューターのような社会なんて、あなたは生きていけますか?

 そうそう‥、今週は『詩文集』のアップが遅れてしまいましたね。これは、インスピレーションではなくて、単に管理人が忙しかっただけですw


 

ヴィヴァルディ:協奏曲集『調和の霊感』から
第10曲 RV580
第1楽章 アレグロ
第2楽章 ラルゴ
第3楽章 ラルゲット‐アダージオ‐ラルゴ‐アレグロ
ジョヴァンニ・アントニーニ/指揮
イル・ジャルディーノ・アルモニコ

 


 ヴァイオリン4台ですが、これが錚々たる面々。第1ヴァイオリンがオノフリ――いつものスキンヘッドのおじさんは当然として、いつもはリュートを弾いているピアンカが、オノフリと並んでヴァイオリンを弾いている!ヴァイオリンも弾けたんですね。

 と、そのトイメンの下手側で弾いているのは、なんとダヴィット・ギャレットの客演ではないか!

 『調和の霊感』から、即興風の曲を、もうひとつ聴いてみましょう。こんどは、マンドリンとリュートの入った演奏。マンドリンを弾いているアヴィ・アヴィタル(1978-)は、イスラエルのマンドリン・ソリストで、ふつうは陽の目を見ないこの楽器で、グラミー賞器楽部門にノミネートされたとのこと。現在世界最高峰のマンドリン奏者のひとりでしょう。


 

ヴィヴァルディ:協奏曲集『調和の霊感』から
第6曲 RV356
第1楽章 アレグロ
第2楽章 ラルゴ
第3楽章 プレスト
アヴィ・アヴィタル/マンドリン
ヴェニス・バロック・オーケストラ(精鋭)

 

 



 



 霊感といえば、即興演奏が、その最たるもの。ヨーロッパの名だたる駅には、誰でも霊感を受けた人は、どうぞ演奏してくださいとばかり、待合室にピアノが置いてあるらしい。

 ユーチューブにアップされた歴代動画の中でも、これはスゴもののストリート・ピアノ、しかもまったく通りがかりの人が、その場の即興で弾いてるらしい。もう、ほとんど神がかり。。。。。


 

とある乗客(ヤヴィノダン)/ピアノ即興
ブリュッセルのとある駅にて

 


 グレン・グールドを意識してるんでしょうかね? ウ~ア~の口ずさみがだんだん大きくなって、さいごはピアノ弾いてるというより、なにやら唸ってる‥‥いや、歌っています。リアリー オーサム!

 インスピレーションあふれるピアノといえば、ショパンなんか、どうでせう? たとえば、↓こんなのは?


 

ショパン『エチュード』から
ハ短調 作品10の12“革命風”
エウゲニー・キッシン/ピアノ

 


 やっぱりキッシンは、こういう曲で本領を発揮しますよね。

 ↓つぎのエチュード8番は、あるところで音楽大学のピアノ科の院生にとったアンケートでは、ショパンの中で一番難しいのは、この曲だったそうです。これを練習した翌日は、筋肉痛で右手が動かなくなるとのこと。

 しかし、メロディーは左手なんですよね。鍵盤の上を走り回る右手に気を取られないで、メロディーを聴き取ってください。


 

ショパン『エチュード』から
ヘ長調 作品10の8
ダニイル・トリフォノフ/ピアノ

 

 



      落日後の空

 澄みきったみごとな眺めよ、
 紫紅色と黄金から
 しだいに鎮まり真摯に優美に
 ひかる暮れの空の蒼
(あお)

 想い起こすのは、いつかの青い海、
 そこでは幸福が錨をおろし
 しあわせにやすらいでいる。船の櫂
(かい)からは
 地上の嘆きの最後の一滴がしたたりおちる。



 

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Max Gubler: Badende (1940)