★ うつわになりたい
うつわになりたいと思う
四月の青いうつわになりたい
春の最初のひかりを享ける
花びらのうつわになりたい
真夏の輝線がそそぎこんでいる
硬い葉むらのうつわになりたい
せわしなくこぼれる融銀のアマルガム
北国の重いそらの下で妖精の魂たちを
ふくみこんでいる忘られた
枯木のうつわになりたい。
音になりたいと思う
海と陸地とそらの呻(うめ)きを木霊(こだま)のように返す
禁制の森の奥からひびく盗伐者の遠い斧
夜明けのしじまを破るその声を
countertenor の あかるい唄にして返す
躊躇(ためら)いのどんな僅かな顫(ふる)えをも見のがさない
音のことばになりたい。
ぼくのうつわから音はこぼれる
太陽のざわめき、風の悲しみ、雲の熱と怒り
どんなに確かに受けとめようとしても
ぼくのうつわは笊の目のように荒い
蜘蛛の網のように疎い
赤い舌の郭公(かっこう)が通りぬけてゆく
音はこぼれる
ぼくのうつわは声を紡ぎださない。
四月の雲の下で鳴りつづける厳(おごそ)かなオルゴール
たむしばの白い花は散ることがない
誰もがひとつのほうへ向かってゆく暗い流れとうたかたに
何度もぶつかりそうになりながら摺りきれながら
それでも天道(てんとう)はだれにでも射すと
信じきっている山男のように
赤い舌を出す郭公のように
大きなバックパックをしょってぼくの前を通りすぎる
赤茶けた髪のわかもの
だれもがほほえむ William Morris の市場(いちば)へ行くといったふうに
いま隣りの青い森に入ってゆく。
※ 今週の《詩文集》は、週末になります。いましばらくお待ちを。
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