★ 透明な月の出る場所で
 大きな樹のなかを昇ってゆく: 
 管と管とのすきまに潜り
 繊維と繊維のあいだをすすむ;
 そのコルク質の表皮は古び
 ぼろぼろに砕けた太い幹。
 糸杉のように伸びた髪から
 脚の先までぐっしょりとぬれて
 樹の甘汁が降り注ぐ
 湖水に落ちる月光よりも明るく―――
 いま はりがねのようにほそい月が現れる
 音もなく昇り
 透きとおり
 そして夜明けのほしぞらになる
 下をのぞくと、水底のようにまっくらだった。透きとおってなにも見えなかった。草が生えているようだった。とおくの岸辺が星あかりに照らされていた。
 くらやみには毛氈苔の小さな舌が揺れ、捕えられた蝿や半ば溶けかかった虫の屍がいっしょに揺れる。いつかはみな透明な水の闇になってしまうのだろう。見えない沼の底が、風のようにゆらいでいた。 
 
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