実録 お寺の怪談/高田 寅彦
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人間そっくりの無気味な人形



その日も私たちは'仲間数人とNの寺で酒盛りをしていた。


私は中座し、トイレに立った。


Nの家のトイレは廊下を渡った家の端にある。


トイレに向かうときは気づかなかったのだが'帰りには廊下に人影が見えた。


体の大きさから見て子供のようだ。


家人に子供がいないことを知っていた私は不審に思い、そのままみんなの待つ部屋に戻ると'「こんな時間に廊下に子供が立ってたけど、親戚の子供でも遊びにきているのことNに尋ねてみた。 Nは'普段と変わらぬ温厚な表情で、


「人形だよ。俺も今日帰ってから気づいたんで'親父だんかに聞いたんだけど'檀家さんが持ってきたらしいよ」


と答えた。


「いる」


と不思議そうな表情でつぶやいた。


よく観察すると'デパ-トの子供服売場などで見かけるマネキン人形とは作りが格段に違っていた。


顔立ちも表情も生きている子供のそれであるo腕を触ってみると、ゴムとは適う人間の肌のような感覚であった。


「よくできてるね~。こりゃ暗いと人間の子供と見間違えるよ」


私が言うとNは'


「関節も動くらしいよ」


と教えてくれた。


私たちは何やら薄気味悪くなり部屋に引き上げた。


部屋に戻ると'しばらくこの人形の話題になった。


だが'詳しい経緯は不明である。


Nの親父さんはこの寺の住職であるから、明日の朝へ聞いてみようということになった。


夜も更け、誰かれともなくもう寝ようよということになるとKがトイレに行くと言いだしたので私も一緒についていった。


ひとりで行くのはどうも気が進まない。


脳裏にあの人形の表情がちらついたからであるD 用を足して部屋に戻る途中、人形の前を通りかかるが'私は人形を見ないようにして'足早に通り過ぎた。


初夏のころだったのでみなでザコ寝した。


横になると瀧が言った。


「お前気づいたか?さっきと人形の置いてあった場所が少しズレていただろ」


「もうよせよ'大人を怖がらせるな。寝ろ'寝ろ」


その夜は酒の酔いもあって'みなすぐに寝入ったらしい。


翌日、朝飯をご馳走になりながらNの親父さんに聞いてみた。


Nの父親は六十歳前の'見るからに温厚なお寺の和尚さんであった。


Nの寺は檀家の数が多く'親父さんは区議会議員も兼任しており、裕福な家庭であった。


庭に面したロッキングチェアに腰掛けて新聞を読んでいた親父さんは'その経緯を話してくれた。


昨日の昼下がりのこと、ごめんくださいという声が聞こえたので玄関に出てみると'見覚えのある檀家の夫婦が立っている。


人形を玄関に置くと'


「この人形をこちらでご供養してください。お願いします」


とだけ言って'逃げるように帰っていったという。


人形の足元には白い封筒が置いてあり、現金が入っていたのだが'どんな事情で供養してくれと言ったのかまるでわからないとのことであった。


親父さんの話では'確かその夫婦には小学生の息子がいたが'一年ぐちい前に交通事故で亡くしておりへお葬式に呼ばれたことがあった。


しかし'あまり熱心な檀家さんでもなくへその後の納骨や法事は記憶にないという。