- 未来ビジネスを読む (ペーパーバックス)/浜田 和幸
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空前のブームとなった未来予測本
一方、 1888年には、イギリス人エドワード・ベラミーEdward Bellamy (1850-1898)が、 「ユートピア」の概念をさらに進めた著作『西暦2000年を振り返って』を著した。
この本は、アメリ
また、ヨーロッパのほとんどの国でも翻訳され、彼の唱える未来像を実践しようと人々が集い、 「ベラミー・クラブ」が各地にできたほどである。
この小説の設定は、 1887年に深い眠りに陥った主人公が、 2000年にアメリカのボストンBostonで目覚めるというものだが、そこで主人公が見た未来の人々の生活は、次のようなものだった。
人々は、毎日、文明の恩恵benefitを受けながら暮らしているo
ラジオ、電気、空気清浄器といった文明の利器は人々に快適な生活comfortable lifeを提供し、完全雇用full employmentが保障され、 45歳で引退した後は、みな悠々自適の恵まれた環境で暮らしている.
さらに、 "コミュニティー・センター''に出かけると、全天候型のド-ムやサイド・ウオークが備えられ、雨でも雪でも人々は楽しく余暇を過ごすことができる。
ベラミーは、 2000年には人間の欲求desireがすべて満たされる豊かな社会になっているため、争いの必要はなく、平和で安定した理想郷になっていると考えていた。
まさに、バラ色の未来である。
当時はマルクスKarl Marx (1818-1883)が『資本論』 (Das Kapital)を書いた時期でもあり、共産主義communismの理想社会という概念も提示されていたが、ベラミーの理想社会の方が世間でははるかに熱狂的に受け入れられたのである。
次々と登場する未来予測書の影響は、計り知れなく大きかった。
そこに描き出された未来の技術がどこまで実現可能なものか、さまざまな実験や研究が始められた。
例えば、ドイツの科学者マックス・プレズナ-は、 1892年にテレビの理論を発表している。
イギリス議会では、石炭に代わる新たなエネルギー資源開発の研究がスタートした。
そして、極めつけは、フランス人チャールズ・リケットCharles Richetが書いた学術書『100年後』 Danscentans (1892年発表)であろう。
リケットは、世界人口の増加に関する統計的予測を行い、「来たるべき100年の間に、ヨーロッパの出生率は順次低下し、 1992年には人口の増加したアメリカとロシアが世界最強の国家になっている」との結論conclusionを引き出した。
しかも、アメリカとロシアの人口は合わせて6億人となり、ヨーロッパ全体の人口を大きく上回ると予測している100年後の今、これらの予測の半分以上が的中している。
リケットの予測は、エネルギーの供給見通しについても卓見に満ちており、 「石炭coalから石油petroleumの時代を経て、太陽エネルギーsolar energyや地熱geothermal energyの利用の時代が来る」とさえ述べている。
ただし、植民地政策colonialismに関しては、フランス人特有の愛国心patriotismのあまり、アフリカ諸国の独立に関して、他のヨーロッパ列強が支配した国々の独立は正しく言い当てたものの、 「フランスの植民地だけはそのまま残る」と、誤った分析を行っている。
しかし、総合的に見ると、予測に使った統計的手段も結論も極めて正確度の高いものだった。
ここで、この章の冒頭に記した「シカゴ世界博覧会」時の未来予測を思い起こせば、当時全米から集められた未来予測が、どこから来たものかがわかるであろうo
ラジオ、テレビといった文明の利裾は、すでに未来予測本のなかには頻繁に登場し、そうした本を人々は、当時、実用化されたばかりの電気の下で読み耽っていたのである。
20世紀の到来を自前に控え、ヨーロッパもアメリカも空前の技術革新ラッシュを享受する体制に変わりつつあったo
まさに世紀の変わり目でもあり、多くの論者や研究者が未来予測に加わり、さまざまな未来小説や未来分析の専門書が飛び交う時代になっていた。