人間、自然、技術のバランス


未来ビジネスを読む (ペーパーバックス)/浜田 和幸
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人間生活にゆとりをもたらすと考えられた技術の進歩advance in technologyが、かえって時間に追いまくられる生活を生み出した。


この30年間、アメリカの経営者が常に不満complaintと不足Iack を感じているのが、以下の3つである。


(1)自分の自由になる時間
(2)効果的な判断の材料となる情報
(3)友人や家族との親密な関係


これらが思うように手に入らないため、フラストレーションから健康を害する人がいかに多いことか。


通信、情報、輸送手段がますます発達し続けるほど、従来の会社の組織や形態、さらに人間関係humanrelationshipも根本から変わらざるを得なくなっている。


ITによるコミュニケーション技術の発展で、現代は、平均的人間が一生の間に考え、話し、書く内容のすべてが、たった20秒間で世界中に発信できる時代となった。

しかも、先端企業の現場では、人間に代わるロボットが活躍し、書類やデータはすべてコンピュータで管理されている。


こうなると、中間管理職middle managementや専門職specialistは減るばかりで、日本の企業社会も大きく変わった。


最近は、「勝ち組」winnersと「負け組」 losersの差がはっきりし、 2極化の流れは止まらないハところが、個人の意識、企業の形態、政府の役割を変える時代になっているのに、実際には、単純にリストラ(人員削減) personnel downsizingや組織の名称変更など、極めて短絡的な処置しかとられていない。


これでは、失業者joblessや企業内不満分子internal unsatisfactory elementを増やすだけでしかなく、将来の社会不安のま種を蒔いているだけなのである。


しかもそこには、政治は言うに及ばず教育、宗教活動さえもが、今や非常に安易な手段、例えばテレビに向いているかどうかなどで価値が決められてしまう「イメージ優先の社会」が生まれている。


この「見せかけの文化」 fakecultureから「本物」を選び取るためには、有権者、消費者としての国民の政治や経済に対する「意識変革」 mindchangeを促すことが、何としても必要である。


すなわち、草の根のレベルから得られる「直接体験」 directexperienceという社会活動のダイナミズムを呼び戻さなければ、アメリカも日本も再生rebornはもはや難しいのではないか。


そのとき、最も効果を発揮するのが、前記した「人間、自然、技術のトライアングル」のバランス感覚senseofbalanceであろう。


また企業の長期戦略を立てる際には、影響を及ぼす要素を「政治、経済、社会、環境、技術」のアングルから検討し、個人や企業の力で望む方向へ動かしうるものと、そうでないものとを区別discriminationする必要がある。

これこそが、現代の「未来学」が取り組まなければならない課題である。


CIAに勝ったロイヤル・ダッチ・シェルの「未来シナリオ」現代につながる「未来学」で、日本人が教訓Iessonとすべき例として、 「ロイヤル・ダッチ・シェル」 RoyalDutchShellの例を紹介してみよう。


国際的な石油メジャーoilmajor 「ロイヤル・ダッチ・シェル」は、ソ連の経済悪化が政治の変革を余儀なくさせるとの判断を、すでに1983年に下し、いちはやく旧ソ連の天然ガスnaturalgasや石油petroleumに目をつけて開発権獲得に着手したOその結果、他社に先んじて、ロシアでの有利な利権concessionを手に入れたのである。


当時、シェルの未来予測チームはソ連崩壊と冷戦終結のレポートをCIA (Central IntelligenceAgency)にも送ったのだが、 cIAのソ連分析の専門家たちは、 「こんな分析は気違い沙汰だ。


ソ連のことがなにもわかっていない。


現状認識がまったく誤っている」と、コテンパンのコメントを付けて送り返してきたという。

実は、これには後日談があり、シェルは独自に開発した未来分析手法を願使し、ソ連の将来に関して複数のシナリオを作成していたのである。


1つは、 CIAと同様のシナリオで、ソ連がますます官僚化を深め軍事的行動ですべてを押し通そうとする見方。


もう1つが、それに反し、国民のニーズに押され開放政策open policyに方向転換せざるを得ないとの見方だった。

シェルの経営陣は複数のシナリオを常に用意し、臨機応変な決断が下せる態勢を整えていたのである。

そして結果は、「悪の帝国ソ連」というシナリオに固執したcIAの完敗になった。

シェルでその複数のシナリオ作りの陣頭指揮をとったピーター・シュオルツPeter Schwartzが独立して設立したのが、未来予測の専門会社「グローバル・ビジネス・ネットワーク」 (GBN)である。