チート級の能力を持った人が、中世ファンタジー世界を想定した異世界に召喚・転生されたらどうなるのかの続きです。

 

3 モンスターの跋扈する異世界で生き残っていけるのか

 基本的に召喚された勇者はモンスターを倒すことが求められます。チート級の能力があれば、モンスター退治は容易かと思いますが、それはゲームの戦闘システムで戦闘した場合の話です。たとえば、寝込みを襲われた場合(特に野営中など)、たとえチート級の能力があったとしても、一瞬で倒されることもあり得ます。

 ドラクエの「ラリホー」や、FFの「スリプル」など、睡眠系の魔法があり、ゲームではこれらの魔法にかかると単に自分のターンがこないというだけです。しかし、現実世界では完全無防備となり、寝ている間に急所に一撃食らえば即死必至ですので(特に、パーティー全員睡眠状態になった場合)、おちおち寝てもいられません。 

 

  勇者の飲食物に即効性の毒物を混入することも考えられます。行く先の湧き水等でもいいですし、こっそりと勇者の食糧に毒物を混入してもよいでしょう。

 

 ドラクエやFFでは、原則街中でモンスターは襲ってきませんが、現実世界はフィールドは街中の区別はありません。街の宿泊施設で熟睡中に、魔法の暗殺部隊によって暗殺されることもあり得ます。魔法討伐のため勇者が召喚されたのであれば、当然魔王は危機感を抱くでしょうから、配下のモンスターで暗殺のプロに勇者抹殺を命じることもできるでしょう。変身能力のあるモンスターが、街中の人に化けて、無防備の勇者に接近することもあります。

 

 何より恐ろしいのは、勇者が常にそうした命の危険にさらされることです。現実世界でも、ネット上で殺害予告を受けると、その瞬間恐怖に苛まれ、精神疾患に陥り、日常生活すらまともに営めなくなることもあります。自分の見ていないところで、自分の知らない誰かから、見られ命を狙われていると考えると、そうした恐怖のある意味当然です。

 

 また、実戦は単に、攻撃力・素早さ・防御力という一言で決着がつくわけではありません。力があっても、それを活かす技術がなければ戦闘に勝てません。素早さといっても、戦闘方法等によってベクトルも異なります。防御力といっても、首筋など急所をやられれば一瞬で死に至ります。

 その昔、「パーマン」というマンガで、6600倍の力を持つパーマンが、プロの柔道家に挑んだけれども、まったく手も足も出なかったというシーンがあります(もっとも、パーやんの戦術により、最終的に柔道家に勝つことができた)。単に力があったところで、それをきちんと活かすスキルや経験がなければ、力ではるかに劣る人に勝つことは難しいです。チート級の能力があるといっても、専門的な戦闘訓練を積んだわけではないので、戦闘経験豊富なモンスター等がいれば、苦戦は免れないでしょう。

 

 何より、魔王は組織力があります。チート級の勇者といえども、一人ないしは数人で、組織力のある魔王「軍」に勝つことは難しいです。一人で数千・数万のモンスターを一撃で駆逐できるとしても、前述した暗殺技術や実戦経験に優れたモンスターがいれば、勇者といえども魔王「軍」に勝つことは困難です。

 

 いずれにしても、チート級の勇者相手に、魔王やモンスターが正面から戦いに来ると考えるほうがおかしいのです。