この執行停止(行政事件訴訟法第25条)に対する内閣総理大臣の異議(同法第27条)、これが憲法違反ではないかという争いがあります。


○合憲説(東京地裁昭和44年9月26日判決参照)

(理由)

1 行政処分をするかしないかは、本来、固有の行政権の作用に属すると考えるべきであり、適法・違法を審査する司法権の作用に含まれない(田中二郎説)。

2 裁判所は行政事件が公益に関わる特殊性をもつことを考慮せず、執行停止を過度に認めるおそれがあるので、最終的判断権は公共の福祉に対して責任を負う、行政権の長として内閣総理大臣に留保しておかなければならない。


○違憲説(芝池など、有力説)

(理由)

1 行政権による司法権に対する過度な干渉であり、司法権の独立の精神に反する。

2 ある国の司法権の内容がいかなるものであるかは、理論上司法権の範囲と一致するものではない。

3 合憲説理由1に対して、行政訴訟自体は司法権に属する。仮の救済である執行停止の段階では行政作用だとするのは、論理一貫しない(最大判昭28.1.16真野裁判官補足意見参照)。


ただ、最近はもうひとつの問題があります。


地方自治体の固有の自治権に基づく処分の執行停止についても、内閣総理大臣は異議権を発動できるということです。


本来的に自治体の事務でありながら、仮の救済の段階で国がしゃしゃりでて来るというのはいささか奇妙な感じがします。


おおよそ法律上の争訟にあたる限り、すべて司法権の範囲に属するものであり、執行停止も憲法上の司法権の範囲内であるとすれば、裁判所がこれに関与するのは、憲法上の要請として当然のことである。

→だからこそ、これに行政権が関与するのは、司法権に対する干渉ということになり、違憲の疑いが強いということになる。


しかし、仮の救済は本来的に行政作用であり、憲法上の司法権の範囲に含まれないとすれば、制度として内閣総理大臣の異議を認めることは可能であるといえるが、地方自治の本旨にも反するような感じもします。


たかが仮の救済、本番は取消訴訟等にある。取消訴訟において内閣総理大臣の干渉する余地はないのだから、それほど問題視する必要はないのではないか、という声も聞こえてきそうです。


しかし、仮の救済の重要性は、行政事件を担当する実務家の多くが認識しているところ。

→違法であれなんであれ、それが重大明白でない限り、行政処分の効果は停止しない(同法第25条第1項)。それだと、訴訟が長引けば、被処分者の権利利益に重大な影響が生ずる。そのため、執行停止を認めていく必要がある。


決して軽視はできません。


これについて、文献が見当たらなかったため、お詳しい方いらっしゃいましたら、コメントおねがいします。


<<参照条文>>

行政事件訴訟法

(執行停止)
第二十五条  処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2  処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
3  裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
4  執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
5  第二項の決定は、疎明に基づいてする。
6  第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。
7  第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
8  第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。


(内閣総理大臣の異議)
第二十七条  第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があつた後においても、同様とする。
2  前項の異議には、理由を附さなければならない。
3  前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。
4  第一項の異議があつたときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。
5  第一項後段の異議は、執行停止の決定をした裁判所に対して述べなければならない。ただし、その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは、抗告裁判所に対して述べなければならない。
6  内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。