以前、弁護士以外の法律職について簡単に述べました。


今回は、具体的にその業務範囲を検証していきたいと思います。


その中で問題となっているのは行政書士。


いわゆる、非弁行為(弁護士法第72条、第77条第3号)や無資格登記受託(司法書士法第73条第1項、第78条第1項)などで告発されることが多いと聞きます。


もっとも、行政書士の業務範囲はかなり広範囲で、書ける書類の数だけいえば、おそらく法律職の中でトップ(弁護士は除く)ではないでしょうか。

→一説には、10000以上あるといわれる。


さて、行政書士の職域逸脱がこれほど問題となっているのはなぜか。


個々の行政書士に職域問題意識に欠けているというところがあるのはもちろんのこと。


しかしそれだけではなく、行政書士法の文言自体が非常に漠然としているからです。


行政書士法第1条の2をみると、「官公署に提出する書類」と「その他権利義務又は事実証明に関する書類」を業務として作成することができるとされています。

→これを独占業務といます。


まず、「官公署に提出する書類」の「官公署」って何ですか?


行政書士法のどこをみても、定義規定はありません。


普通、官公署というと、お役所っていうイメージなんでしょうから。いわゆる、公的機関全般をさすものと考えます。

→少なくとも、同法第1条の2第1項には制限規定はどこにもないことから、これを制限的に解釈することは許されない。


理屈からすると、法務局や社会保険事務所、果ては裁判所も官公署に含まれるものといえます。

→実は裁判所については微妙。


しかし、同条第2項は「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」とあるので、たとえば司法書士の独占業務については、行政書士がこれを行なうことはできません。


このことは、同条第1項の「その他権利義務又は事実証明に関する書類」についてもいえることです。


つまり、行政書士法は司法書士法と異なり、列挙主義(同法第3条第1項)ではなく、包括的な業務権(書類作成及び付随事務に限る。以下同じ)を認めて、例外的に他業種の独占業務について排斥していくという条文構造をとっています。


この条文構造のせいで、行政書士の業務範囲を複雑にしています。


先に述べた、登記業務については、司法書士法(同項第1号)で明確にされているため、これを違法とすることについては問題は少ないでしょう。


ただ、司法書士法が列挙主義を採用しているとしても、個々の文言の抽象性は完全に払拭されていないわけで、これが職域問題を非常にややこしくしています。

→同じく列挙主義を採用している社労士との競合についても問題となり得る。


実務では、通達や各省庁の部局課長クラスの回答などにしたがって運用されています。


しかし、行政法の初歩的な知識として、通達や回答などは、裁判所や一般市民に対する法的拘束力はないとされています。


具体的事件について裁判所で争いになったときに、通達や回答と異なる司法判断が下されることは、割とあることです。


先に述べたように、行政書士の職域自体は条文上非常に多岐にわたるため、判例等の集積が追いつかないということもあります。


職域問題は、各士業会の利害関係に密接なものであるため、士業会ごとの解釈が異なる場合もあります。


また、職域から外れた士業が提出した書類について、果たして法的な申請としての効果があるのかという問題もあります。

→行政庁が返戻した場合に、取消訴訟や不作為違法確認訴訟、国賠訴訟などの違法事由となるのか。


これについて「あえて」具体的解決を求めるならば、申請等の根拠法について個別に「当該申請にかかる作成、提出の代理業は行政書士の専権とする」などの文言を入れるべきでしょう。

→そうなると、相当量の立法改正作業が必要になり、重要法案の審議ができないという不都合もある。


小生は、こうした実務状況の詳細はわかりませんので、現場の実務家の方からのコメント等をお待ちしております。


<<参照条文>>

弁護士法

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(非弁護士との提携等の罪)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

3 第七十二条の規定に違反した者

・・・(他の各号 略)・・・


司法書士法

(業務)

第3条第1項 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
1.登記又は供託に関する手続について代理すること。
2.法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第4号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
3.法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
4.裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成16年法律第123号)第6章第2節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第8号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
5.前各号の事務について相談に応ずること。
6.簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和22年法律第59号)第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ロ 民事訴訟法第275条の規定による和解の手続又は同法第7編の規定による支払督促の手続であつて、請求の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ハ 民事訴訟法第2編第4章第7節の規定による訴えの提起前における証拠保全手続又は民事保全法(平成元年法律第91号)の規定による手続であつて、本案の訴訟の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ニ 民事調停法(昭和26年法律第222号)の規定による手続であつて、調停を求める事項の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ホ 民事執行法(昭和54年法律第4号)第2章第2節第4款第2目の規定による少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
7.民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。
8.筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第123条第3号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の2分の1に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること


(非司法書士等の取締り)

第73条第1項 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


第78条第1項

第73条第1項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。


行政書士法

(業務)

第1条の2 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。


第1条の3 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
1.前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第3号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
2.前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
3.前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。