美しいものが好きだ。

より詳しくいうならば、
詩的で、エロティックで、ファンタジックなもの。
その面影を常に追っている。

そこまでハッキリしているにもかかわらず、
ファインダーに収めた画像を見直すと、
実に多様な写真が残る。
硬い内容の本ばかりが入った本棚に、
モノクロで収めた雑踏や、
美味しそうなパスタ、
風呂にたちこもる湯気とキャンドルの光、
犬があくびしながらごろ寝する姿。

統一感は一切ないが、
私はそれらを全部、美しいと思う。
一つ言えるのは、
どおってことない風景にも、
思い出や愛着が乗ると、
また違った色が重なるということ。

別の人から見ればたんなる物質、
たんなる風景だとしても、
私から見ると美しいと思うのは、
そこに好きという思いが加わるからだろう。
人は単純にモノだけをみて、美を評価しているのではないと思う。
気持ちのありようで、美の評価は変わる。

記憶から想起する匂い。
脳裏に焼きついた景色。
それが現実世界と重なったときに、
例えようのない幸せが生まれる。

そう。
美とはすなわち、幸福感であり、
幸福の基準がみな違うからこそ、
多様性にもつながる。

そうなってくると、
全員に受け入れられるような
絶対的、普遍的な美とは何なのか、
疑わしくなるのだけれど、
画一的な基準を設けるより、
相手との感性の違いを楽しむくらいの方が、
よほど良い関係を築けるように思う。


美とは、すなわち、幸福なのだ。