この町には、昔から変わった習慣がある。おじいちゃんの、そのおじいちゃんの代より、もっと前からあるらしい。
この町では、週に1度どこかのおうちで、夕飯を「およばれ」するのだ。当然、「およばれ」するくらいだから、週に1度、どこかの家族を「おもてなし」するときだってある。
この町の家々には、それぞれ「お家料理」というものがあって、この「お家料理」は、おじいちゃんの、そのおじいちゃんの代より、もっと前から受け継がれてきたものらしい。どこの家も、このお家料理を表札と一緒に掲げている。電話帳にだって載せてある。
だから町を歩けば、トンカツからすき焼き、スシにカレーやお浸しまで、例えるなら、この町が、ひとつの大きなレストランで、個々の家々は、その中のひとつのメニューになっているのだ。
ちなみに、僕の家の「お家料理」は、たまごがけごはんだ。
僕の家では、おじいちゃんの、そのおじいちゃんの代より、もっと前から、この、たまごがけごはんを受け継いできている。時代の流れの中で、お家料理をハンバーガーなんかに変えてしまった家もあるけど、とりあえず僕んちの家族の戸籍謄本に×の印はない。
昔は、たまごがけごはんを求めて、たくさん人が来たらしい。けれども最近は、そんなハンバーガーとか、洋食に押されて、僕の家で「おもてなし」をすることは少なくなった。
だからというわけではないのだけど、僕たち家族が「およばれ」するときも、どこか質素なお家料理を選ぶようになってきている。お父さんは「長生きの秘訣だ!」なんて言ってるけど、湯豆腐が5回も続いたときは、本当にうんざりした。
ある日、学校から家に帰ってくると、家族全員が目を皿にして、電話帳を眺めていた。そして母さんは電話をかけはじめた。
「もしもし、エビフライの山田さんでらっしゃいますか?あ、お世話になります、たまごがけごはんの田中です。あ、はい、来週の3日に、山田さんのエビフライを、およばれしたいのですが?あ、よろしいですか!ではお伺いしますので、よろしくお願いします。」
おかあさんは、にっこり笑って受話器を置いた。エビフライは僕の大好物だ!そして、来週の3日は、僕の誕生日だ。
