これまで4回にわたって連載(?)して来た、
「英語の集中講義」
も最終回である。これまでの記事は、
(1).<単語(の重要性)>:「5日間英語集中講義第1回~安倍演説のたった1つの単語が「イスラム国」を刺激し世界に誤解を与えた~
(2).<語法・構文(を敬語を例として)>:「5日間英語集中講義第2回~英語に敬語はあるし、スラング(四文字言葉)もある。だって人間だもの…~
(3).<会話文(を男女交際を例に)>:「5日間英語集中講義第3回~死が二人を分かつまで(Until Death Do Us Part)~
(4).<読解(を対訳本を使って)>:「5日間英語集中講義第4回~バイリンガル版「のだめカンタービレ」のなりきり声優で究極の長文読解を~
であった。単語、語法・構文、会話文、読解と来れば残りは英作文である。そんなわけでこの記事では、
「大人な英作文」
を説明する。

「大人」の定義はいろいろある。これまで、トム・ハン●●とリタ・ウィル●●の会話、ブラピと深キョンの会話を取り上げたから、ここではきっと「アダルトのムフフな英作文」が展開されるだろうと期待している読者さんも多いと思う。申し訳ないが違う。ここでの「大人」は「幼稚でない("not childish")」「洗練された("sophisticated")」という意味である。文法的には正しいが読むに耐えない稚拙な英作文を脱して、「読ませる英文」「どこに出しても恥ずかしくない英文」の書き方を説明したい。ナニは中に出しても顔に出しても恥ずかしいものである、って、こらこらこら。とにかく、日本語を英語に直訳しないと点数が取れない学校のテストとは一線を画す英作文のテクニックを紹介したい。とは言っても、学校の英作文に活かせないわけではないから習得する価値がある。そうして身に付けた英作文にバツをつける教師は、この際、コンクリで足を固めて東京湾に沈めてしまおう。


コンクリート詰め



この記事では6つの「大人なテクニック」を紹介する。


1.まず、
「生き生きとした動詞を使う」
ことから説明しよう。

先に「男と女の英会話」で示した、
「トムとリタはカラオケの後、xxに行った。」
という文を思い出して頂きたい。そこで使った動詞は"go"や"walk"でなく、"stride"(大股で足早に歩く)だった。
"After Karaoke, Tom and Rita strode to xxx."
文法的には"go"や"walk"でも良いのだが、これらの単語はいかにも幼稚である。そこで"stride"を使う。そうすると2人の「そそくさ感」が上手く表現される。「全速力感」なら"gallop"だろうし、「こっそり感」なら"steal"が良いだろう。難しい単語を使えというのではない。"go"や"walk"ではカバーする範囲があまりに広いため、表現がボケてしまう("dull")のである。つまり、"dull"な動詞の代わりに"vivid"な動詞を使うことが「大人な英作文」である。

例を挙げ、"dull"な表現を"vivid"な表現に変えてみる。
「シャーロットのクラスメート達は急いで教室に入る時に彼女を見なかった。」
"Charlotte's classmates didn't look at her when they walked quickly to their class."
⇒ "Charlotte's classmates ignored her when they rushed to their class."
どうだろうか。インパクトの強い動詞"ignore"と"rush"を使うことで文が生き生きとして来る。



2.文の勢いを強くする意図では、
「受動態を避ける」
ことも考えられる。いつまでも受け身ばかりでは「マグロ女」と疎まれる。いやその、「(主語)が~された」よりも「(主語)が~した」の方が読み手に与える印象が強いのである。

たとえば、
「ノアは熱心に研究したのでほうびを与えられ、学校から科学祭で研究を発表するよう選ばれた。」
"Noah was rewarded for his hard work and selected by his school to represent it at the Science Fair."
⇒ "Noah was rewarded for his hard work, and his school selected him to represent it at the Science Fair."
ノアを選んだのが学校であることは明らかだから("by his school"で示されているから)後半は能動態にする。これに対して前半ではほうびを与えたのが不明であるから受動態のままで良い。このような書き換えによって文は強くなる。

細かいことを言うと、"and"の前のコンマ "," は前半と後半で主語が同じなら不要、異なっているならつけるのが原則である(が、省略することも多い)。「AとBとC」も原則は"A, B, and C"のようにコンマをつける。

個人的にずっと気になっていることだが、"reward"(報酬)や"award"(賞)の発音は「リウォード」「アウォード」であって、「リワード」「アワード」ではない。なのに、日本のテレビではスペル"-war"に引きずられて「アワード」をくり返し使っている。君ねぇ、"Star Wars"を「スター・ワーズ」と読むの? "heartwarming"を「ハートワーミング」と読むの? テレビ局に火ぃつけるぞっ。



3.もうひとつ、文を強くするためには、
「名詞化した単語を減らす」
ことも重要である。「名詞化」とは、動詞"decide"から名詞"decision"、形容詞"difficult"から名詞"difficulty"を作るといったことであり、これらの名詞をなるべく減らす。たとえば「決定する」を表すのに"make decision"よりも"decide"の方が直接的で強いからである。夜が強いとヨロコばれるが、文も強いとヨロコばれる。

たとえば、
「将軍によって隊の撤退が検討されている。」
"The withdrawal of the troops is under consideration by the general."
⇒ "The general considers whether to withdraw the troops."
名詞化された名詞"withdrawal"を元の動詞"withdraw"に、"consideration"を"consider"に書き換えることで簡潔で力強い表現になる。受動態を能動態に変えたことも文を強い方向に導いている。

同様に、
「社会の傾向は廃棄物を減らす方向にある。」
The tendency of the society is toward reduction of wastes.
⇒ "The society tends to reduce wastes."
動詞を名詞化した名詞"tendency"を"tend"で、"reduction"を"reduce"で置き換えることで随分とスッキリする。ああ、気持ち良かった。



4.文を簡潔にすることは文を読みやすくするための重要な要素であり、その意味では、
「むだな前置詞や前置詞句をなくす」
ことは効果的である。前置詞句とは、"in"や"by"などの前置詞で始まる文の一部のことで、"in the sky"や"by the way"のようなものである。必要な場合はさておき、無駄に使うことは避けるべきである。

前置詞を多用しすぎると読みにくくなる。前置詞を減らすことによって読みやすくした例は次のようなものである。
「科学者による以前の月の研究と同じように、探査機がNASAによって送られることが計画されている。」
"In a manner similar to the earlier study of the Moon by scientists, a probe is planned to be sent by NASA."
⇒ "NASA plans to send a probe similarly to scientists' earlier study of the Moon."
同じ意味なら短い方が読みやすい。受動態を能動態にすることを併用して前置詞を減らしている。

また、前置詞でつなげた冗長な表現を改める。たとえば、
「美を称賛することは世界人類の性(さが)である。」
"It is the nature of humans in the world to admire beauty."
⇒ "It is the world's human nature to admire beauty."
のように、"nature"、"human"、"world"は前置詞"of"、"in"を使わずただ続けるだけで意味が通じる。これで文は簡潔になる。

無駄に長い前置詞句を簡潔にする例としては、
「オリバーはエマを救おうとして殺された。」
"In the attempt to save Emma, Oliver was killed."
⇒ "Attempting to save Emma, Oliver was killed."
のようなもの。"Attempting to save Emma"は分詞構文と呼ばれるものであり、"Oliver attempted to save Emma"と同じ意味である。



5.文を簡潔にする他の方法として、
「主語をひとつにする」
ことが挙げられる。複数の文をつないだ文(複文や重文と呼ばれるもの)を、分詞構文などを使って主語を省略する形にすると洗練されて見える。

たとえば、
「アリシアは人生に退屈していたので、世界旅行をしたいと思った。」
"Alicia was bored with life, and so she wished to travel the world."
⇒ "Bored with life, Alicia wished to travel the world."
いかにもかっこいい。大阪弁で言うところのシュッとしている。

もうひとつ例を挙げると、
「空には月が輝いており、シェリルは夜の静寂を楽しんだ。」
"The moon glowed in the sky, and Cheryl enjoyed the stillness of the night."
⇒ "With the moon glowing in the sky, Cheryl enjoyed the stillness of the night."
これもシュッとしている。"and"でつないだ文が幼稚に見えて来る。うーん、大人だ。これも一種の分詞構文で付帯状況を表す"with"が使われている。なお、元の2つの文で主語が"the moon"と"Cheryl"のように違うので"the moon"は省略できない。



6.書き言葉のテクニックとして、
「ブツ切りの文をやめる」
ことがある。ブツ切り("choppy")にして良いのは豚肉で、私はポークチョップが好きだったりする。

たとえば、
「ここでコーヒーを飲んでいた女性は行ってしまったから座れますよ。」
を英語にすると、会話(口語)では、
"A lady was drinking coffee here. But she's gone away. So, you can take a seat."
となる。しかし書き言葉としてこれは頂けない。ブツ切りになっているため、「~でね。~でね。~でね。」という稚拙な感じがする。そこで、
"You can take a seat because a lady who was drinking coffee here has gone away."
とすると「大人な表現」になる。「座れますよ」から始めるのも会話としては自然である。書き言葉としては、
"A lady who was drinking coffee here has gone away so that you can take a seat."
でも良い。会話と違って読み手は最後まで結論、「座れますよ」を待ってくれるからである。「ワタシ、もう待てないっ!」と言うのは欲求不満の女性くらいのものである。

もうひとつ例を挙げよう。
「リアムは仕事を辞め、そのことをいろいろ考えたが、正しい決断だったと分かった。」
"Liam quit a job. He thought about it a lot. He knew he made the right decision."
⇒ "Liam quit a job; he thought about it a lot and knew he made the right decision."
セミコロン ";" は事実を追加するときなどに使い、「読点」扱いである。この結果、次の"he thought ..."とひとつながりの文になる。だから"He"でなくて"he"である。上の3で、名詞化した単語を使った"make decision"よりも"decide"を使った方が良いと述べたが、ここではあえて"make the right decision"を使っている。「正しく決断する」を表すのに"decide"を使うと難しくなる、通りが悪くなるからである。

ちなみにセミコロンに似たコロン ":" は「読点」と「句点」の中間的な扱いで、サブタイトルをつけるときや前の文に対してその理由や詳細などのサブの説明をするときに使う。その形から分かるように、":" は "="(イコール)であり、コロンの前後で同じ内容を指している(セミコロンは並列する事実の追加だが)。例を挙げよう。
「小鳥遊六花・改 ~劇場版 中二病でも恋がしたい!~」
"Rikka Takanashi Revised: Wish Love Even in Second-year Illness of Junior High School! (Theater ver.)"
へぇ~、「小鳥遊 六花」って、「たかなし りっか」って読むんだ。知らなかった。「中二病」は知ってるけどね。大文字・小文字について言えば、コロンのあとはたいてい大文字、セミコロンのあとは必ず小文字から始める。なお、上のようにタイトルの場合は前置詞を除いてすべて大文字で始める。



Painless Writingさて、いかがだっただろうか。「大人なテクニック」に貴女はメロメロになっただろうか。生娘のように、
「そんなすごいテクニックを使うんだったら、ワタシ、子供のままでいたい…。」
と「アダルトテクニック」を恐がっていたら、いつまでもオボコい(未通女い)ままである。オトメからオトナになれない。えーっと、何の話をしているんだっけ。

ともかく、直訳を越えて洗練された英文を書くにはいろいろなテクニックがある。ここで紹介したテクニックはすべて成書「Painless Writing」に書かれているものである。この本は名著であるが、いかんせん、英語で書かれている。この本もこの記事も、英語を普通に読み書きできる人が英語をブラッシュアップするのに役立つが、それほど英語に習熟していない人にとっても参考になると思う。学校の先生が「直訳しか許さん!」と言うのであれば、かみそり入りのファンレターを送ってあげよう。

5回にわたってお届けした集中講義は楽しんで頂けただろうか。「勉強の話なんか読まないもんねー」というあなたは人生の半分を損している。って決めつけるなよ。「横文字の部分は飛ばして笑えるところを探したよん♪」というあなた、正解です。「記事をノートに書き写して勉強してます」というあなた、変わり者と呼ばれてないかい?


人生いろいろ、英語もいろいろ。
好きなように英語に接してほしい。


人生いろいろ


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