5月の展示会用の図案すべてのステッチを終えた。昨年の3月から刺し始めたのだから、ほぼ11ヶ月ステッチに明け暮れたことになる。仕上げたのは九つの図案だが、パオラたちが持参する作品が加わるのだから、納得のいかないものまで無理する必要はなく、ふたつをリストから外した。

 といっても他も検分すれば、そこかしこの難点に気づく。落ち着いて見れば見るほどそれが気になる。でももうしかたがない。指導を仰ぐ存在が傍らにいない時間が圧倒的に多いまま、試行錯誤ステッチした結果なのだから。

 

 

 

 最期に取り組んだのはパオラの手になるデザインではない。彼女は自然界をそのままレースに映そうと腐心するが、意匠としてデフォルメされた葉っぱも刺してみたいと挑んだ。しかしいざ刺し始めたら単純そうでいやなかなか手強く、太い糸で刺す難しを痛感させられた。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 普段から身の回りは比較的整え暮らしている方と思うが、レースに集中する間の帳尻合わせの片付けが破綻する寸前のごとく目に映り、どうにも落ち着かない。

 それでも片付けはすべてが終わってからと、図案からレースを剥ぎ取った翌朝、何をさておきレースへの布付けの下準備をこなす。いつもならばここですぐに糸で最後のかがりに取りかかるのだけれど、いやいやもう急いて作業する必要はない、と自分を戒めた。devo、devo、ねばならぬ、こうしなければならぬと自分を追い詰めるのはもう止めようと、考えたばかりではないか。

 

 

 

 糸くず入れにふた月分の糸端がたまっている。今までは毎週のように捨てていた糸端を、年明けから捨てずにためてきた。糸として同じようにあったものが、一方はきれいなものに生まれ変わり、一方は切り取られゴミとして捨てられていく。どれだけの糸端が「捨てられる」のだろう、妙なことが引っかかり折り紙のくず入れを替えないままに来た。廃棄されるものに同化しがちな性癖は、育歴が関わるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 春いちばんが吹いたのに、いっこうに暖かくならず、居室以外を整理する気にはならない。ではと仕事机の引き出しのあちらこちらに散らばっていた多種多様な針たちを並べ見た。日本に定着していないこともあり、このAemilia.Arsで使う用具は、レース糸を除くとなかなか揃えにくい。図案への穴あけ、しつけ、ステッチと針についても3種類が必要で、なんとかそれらをここで揃えようと様々なメーカのものを試みたが、帯に短し襷に長し満足できなかった。まぁどれだけの針持ちなのか。それらを初めて種分けし片付けた。

 

 ひとりではとうてい刺しきれないだろうレースの図案も、製作メモの有無でファイルし直した。

 展示会以後もステッチが生活の主軸であることは変らないだろうが、健康がいつ転けてもよいようにAemilia.Arsの資料だけは誰が見ても判別がつくようにしておきたい。簡単な図案整理は終えたが、入念とはいえず、それはこれからの大切な課題だ。

 

 

 


 

 片付けしていると、パオラと同じ84歳になる線路向こうの友人が、電動車椅子に乗ってたくさんの蕗の薹を届けてくれた。広大な土地を持つ室町期からのお家で、昨日庭を巡ったら結構な量が採れたそうだ。10時過ぎに収穫物を届けたいと、朝早くに連絡があったが、風も強いし危ないから来ないでと言ったのに、郵便局にも用事があるからと、ケロリとした顔で玄関に入ってきた。

 

 

 

 

 昼には少し早かったけれど、形のよい薹は天ぷらに、残りは味噌仕立てにおからパウダーを加えたものを作った。油揚げをフライパンでこんがりとさせ、この蕗味噌おからを乗せたのが好物だ。冷凍すれば結構な期間蕗の香りを楽しめる。こうした作り置きがレース三昧だった生活に、色を添えてくれた。

 

 

 

 


 

 

 蕗味噌を作りながら朝食用のパンを焼く。一昨日にギリシアヨーグルトを作ったから、明日からはヨーグルトをパンに盛り、あり合わせのドライフルーツを散らせば、なかなか立派な朝ご飯になる。

 Far East Bazaarには、ホオズキやジャックフルーツ、ドランゴンフルーツ、アンダルシアピーチといった珍しいドライフルーツが揃っている。刻んですべてを混ぜておくと、複雑な味わいが楽しめる。元日からひどい風邪をひき、ひと月それを引きずり食事を用意するにも難儀したが、災害時のために保管するアルファー米の梅粥とこうしたドライフルーツで凌いだ。

 

 

 

 

 週末はアキさんの秦琴の音を聴きに行く。寒いから何か温かいものを差し入れて、と主催者が無理を言ってきた。一方的なもの言いにちょっとムッとしたが、お酒を止められたアキさんを想い、コンニャクの味噌仕立てと里芋の柚子風味、塩漬けローゼルのおにぎりを用意すると翌日に返事をした。

 ジャンベの甲斐さんや鼓の望月さんも見えるそうだ。四谷のライヴハウス時代が懐かしい。