母は私が幼いころ、夜に語った。
布団に入って手を繋いでまだ寝ていた頃。
たまに母は、あなたは一人で生きていくのよ。
お父さんとお母さんはいずれいなくなってしまうから。
ひとりで生きていく力をつけなさい。
遅くに産んだ子だから、みんなのお父さんとお母さんより、
先にいなくなってしまうから。
ひとりで生きていく力をつけなさい。
しとしとと語った。
やわらかい暗い雨だった。
そしてその話をする時、決まって母は泣いた。
ああ、またこの話か。と私は幼心に、うんうんと頷いた。
ひとりで生きていかなきゃならない。
自分の足で立たなきゃいけない。
頼り方が分からない。
最後に信じられるのは自分だけ。
最後の最後に泣きついたことはまだない。
その時の手は熱でしっとりと濡れていた。
>夜の教育
P.121
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