よろしく ダーリン。 118 | ねーさんの部屋

ねーさんの部屋

ユンジェの妄想部屋です(時々旅グルメ)



   よろしく ダーリン。
      ~Secret Romance in Palace~




「ハァーーーー。」



ジェジュンは、どんよりと胸を占める重たい空気を
長い息とともに吐き出した。




吐き出したところで、全然気持ちは軽くならなかった。



マイヤー先生の講義が済むと、体力だけでなく心もひどく消耗していた。



1人で部屋に居ても気分は沈むばかりだった。



それで、夕食の時間までに1時間以上もあったので、
気分転換に、王宮の奥にある温室『華柳楼』まで来ていた。



温室の中には、通路に沿って所々にベンチが置かれ、
花や木を眺めながら休憩できるようになっていた。



入り口のすぐ近くに置かれたベンチのひとつに腰をおろすと、
項垂れたまま大きなため息をついたのだ。



華柳楼は、白い窓枠がレースのように美しいガラス張りの建物で、
西洋の宮殿にように天井が非常に高い吹き抜けになっていた。
温室の中は、夕方と言っても、外に比べれば、まだ十分にほの温かく、
マフラーや帽子を取って、ホッとすることができた。



それに、植物によって清浄化された温室の空気は
王宮のどこよりも穏やかでやさしいような気がしたし、
なにより、ここにある花や木々たちは、ジェジュンによそよそしくない。



ベンチに両手をついて、また1つため息をつくと、
項垂れていた頭をゆっくりとあげた。



目の前には、春の花がピンク色の花を開かせていた。



八重の庭桜の花が美しく咲き始めていた。
その足元には小さな白い花をつけたスズランの群生。
見上げれば、高い花梨の木にも赤い花が咲いていた。



温室の中には、すでに春がきていた。



のどかな春の花を見ながら、ジェジュンはじわりと悲しくなってきた。



ジェジュンは、携帯を取り出すと、スズランの前に近づきしゃがみこむと、
幼子が頭を垂れたような佇まいのかわいらしいスズランの花のアップを
カメラで写した。



「誕生日の打ち合わせは進んでますか?
僕は、温室で、かわいいスズランを見ています。
温室の中は、すっかり『春』です。
ところで、今日も、遅くなるの?
僕の相手も・ 」



そこまで、メールの文字を打って、ジェジュンは手を止めた。



そして、“ところで”から後の文章を一文字一文字消していく。



じっと携帯の文字を見つめていたが、唇をきゅっと結ぶと吹っ切るように、
“すっかり『春』です。”までの3行にスズランの写真を付けて、
メールの送信ボタンを押した。



送信結果を表示する画面をしばらくの間見つめていたジェジュンは、
小さなため息とともに携帯を綴じてポケットにしまった。
膝に手を当て、よいしょと気だるげに立ち上がると、
ゆっくりと横を振り返り、白い窓枠のガラスごしに外を見つめた。




ここは、こんなに暖かいのに、
自分の身体の中は、外よりも冷たい
冬の風が吹きつけているようだと思った。




僕じゃ、だめなの…?
僕では、ユンホを幸せにできない…。



王宮に来てから、何度も繰り返した自分への問いを、
また問いかける。



ジェジュンの眉間と唇がキュッと寄せられていく。




「待立」の練習前の講義の時間―――



マイヤー先生から出される質問は、いつもジェジュンを戸惑わせた。



戸惑うだけでなく、答えるたびに、自分の浅はかさを思い知らされ
落ち込んだ。



今日も、マイヤー先生を満足させられるような答えを返せず、
呆れさせてしまった。



「…私も、キム・ジェジュン様が、ユンホ大君のお妃候補でなく、
ただのご友人ということでしたならば、このようなことは申しません。
今、お話しされたお答えでも、微笑ましくお聞きしたことでしょう。
…ですが、大君を支えお助けする責任を担うことになるお妃さまでございます。
小学生や中学生のようなお考えで務められるものではございません。
貴方様の浅はかな行動や言動が、逆にユンホ様を窮地に追い込むことに
なりかねないのです。
それゆえ、朝鮮王朝君主の御次男の妃という自覚を常にお持ちになり、
何事も深く考察し、慎重に行動しなければなりません。
…よろしいですか。」



「はい…。」



今日言われたことを思い出し、悲しくてじわりと涙が滲んできた。



泣くまいと噛みしめた唇が、それでも震えてくる。



今日のことだけでなく、昨日のこと、
そしてその前のことまでも思い出してしまい、
どんどん悲しくなっていく。




              つづく