「お兄ちゃん、居るの?
起きてる?
寝てないよね、お兄ちゃん?」
大きめの声で、ドアを叩きながら声をかける。
「…おお。チネ。
帰ったのか、おかえりー。」
普段とかわらないお兄ちゃんの声が、
ドアの向こうから返事をしてきた。
ジェジュンさんを振り返ると、悔しそうに、
いや…、悲しそうかな、
顔を歪めると下唇を噛んで俯いた。
「お兄ちゃん、
いい加減、出てきなさいよ。」
「…ん~、
あと少しだけだから…」
さっきの返事と違って、少しくぐもった声。
俯いて本読みながら返事してるな、お兄ちゃん。
「あのさ…、お兄ちゃん…。
ジェジュンさん、……泣いてるよ。」
大きな声でもなく、大げさに感情も込めずに、
淡々とした口調で言ってみた。
1秒間の静寂の後、
ガツッと何かがドアにぶつかる音がして、
ほぼ同時にカチャっと鍵の開く音。
その直後に、勢いよく目の前のドアが開いて、
お兄ちゃんが飛び出してきた。
ドアの前に立つ私と目を合わせたお兄ちゃんが、
すぐに首を左右に動かしてジェジュンさんを探した。
私の後ろ、向かい側の壁際にたたづんでいたジェジュンさんを見つけると
ジェジュンさんに駆け寄った。
「ジェジュン、どうした?!」
本を片手に持ったまま、両手でジェジュンさんの肩を掴んだ。
ジェジュンさんは、いきなり飛び出してきたお兄ちゃんを
驚いて目を見開いて見ていたけど、お兄ちゃんが目の前に立つと、
お兄ちゃんの顔を、恨めしそうに睨んで、
沸々と湧き起ってきた怒りの言葉をぶちまけた。
「ユノのバカー!
なんだよー!オレが何度呼んでも、電話しても、
料理も作ってやんないとか、Hもしないって言っても
出てこなかったくせしてー!
チネちゃんが呼んだら、1発で出てきやがってーー!
ど、どうせ、オレなんか~、
オレなんか、本よりもつまらないしー、
オレなんか、チネちゃんよりも思われてないよー!」
恨み言を叫び終えると、
ジェジュンさんは、お兄ちゃんの手を振り払って、
リビングに向かって走って行った。
リビングの扉をぶつかるようにして開けて、
リビングもダイニングも突っ切って走って行く…。
お兄ちゃんと私は、そのジェジュンさんの後姿を
呆気にとられて見送った。
ジェジュンさんは、そのまま、
その奥に続くお兄ちゃんの部屋に入ると、
バタン!っと、大きな音を立ててドアを閉めた。
リビングから先は、この位置からは見えないんだけど、
バタン、バタンとドアのぶつかる音が響くので、
ジェジュンさんの行動が手に取るようにわかる。
並んで立っているお兄ちゃんの顔を見上げると、
“まいったなぁ~”って、開いた口を歪めて眉を下げていた。
私は、これからどうなるのか、どうすればいいのかと、
戸惑いながら、お兄ちゃんに訊ねた。
「どうするの、お兄ちゃん?」
「…え?
ああ、ひたすら謝る。」
「へ?
…お兄ちゃん、
それって…情けなさ過ぎ…。
なら、最初からしなきゃいいのに…、も~う!
・・・それで、機嫌直るの?」
「あ?
いや~~。厳しいな。
でも、交換条件が出されるから、
それをクリアすれば、許してもらえるかな。」
「交換条件? …例えば?」
「え?
…ああ~~、そうだな~~~」
頭を掻きながら、つーっと私から視線を外すと、
言いよどむお兄ちゃん。
つづく
(画像はお借りしています)
