ユノが、さっと腕を伸ばして、オレ右腕を掴み、
右手で背中を抱き抱えた。
「なに言ってんだ!
こんな状態のあんたを1人で帰せるか!」
さっきまでも、不機嫌な口調だったけど、
今度は、本気で怒った声だった。
ユノのいつも優しい目が、怒ってる。
きつい目でじっと睨まれて、…悲しくなった。
「そんな怖い顔しないでよ。
…嫌われたかと、思っちゃうだろ…」
オレが口をへの字にしながら、俯くと、
「嫌いになんかならないよ。 …なさけないだけだ。」
不機嫌な声のまま、ユノがぼそりと言った。
オレは、顔を上げると、上目づかいにユノの顔を見つめた。
「なさけないのは、ダメなの?
オレ、なさけないから嫌いになった?」
「…ならないよ。」
「じゃ、すき?」
「え? …なに言ってんだ?」
ユノは、びっくりしたように目を見開いた後、
酔っ払いの戯言に、思わず天を仰ぐ。
オレは、すっきりととがったユノの顎のラインを
せつなく見上げながら、つぶやく。
「オレは、…すき。
オレは、ユノのことが好き。
ユノは…?」
オレの言葉に驚いたユノが、
さっきよりびっくりした目をしてオレの顔を見下ろした。
そして、オレの顔をまじまじと見たあと、
視線だけオレの顔からそらしながら、
「……好きだよ、もちろん。」と、言った。
視線を逸らしたユノの横顔をじーっと睨みながら、
オレは、頬をぷ~っと膨らませ、下唇を突き出して、
ユノへ不満を訴えた。
「…嘘くさい…、
…それに、心もこもってない!」
大声を出したオレを、ユノが呆れた表情で見つめる。
なんだよ。その呆れ顔は~。
オレの不満が一気に爆発した!
「なんだよー! ほんとに好きなら、キスしろー!」
オレは、ユノに向かって叫んでいた。
…で、キスをした。
というところで、目が覚めた。
ぐるりと視線だけ回らせて周りを見れば、
間違いようもなく自分のマンションのベッドの上だった。
なんだ、夢だったのか~。
……残念。
ふーっと1つため息をつくと、ちらりと、ベッドサイドの壁に
視線を向けた。
長い足を高く上げて蹴りのポーズをとった
カッコいいユノのポスター。
テコンドーの試合の日にユノから特別にもらったポスター。
その日の晩に、この壁に貼った。
そのポスターのユノの顔を見ながら考える。
う~ん、酔っぱらって帰ってきたことは、現実みたいだ。
昨日出かけた時に着ていたシャツとジーンズのままだし…。
上着は…、どっかに脱いだのかな?
酔っぱらって帰ってきて、そのまま寝てしまったんだな、きっと…。
唇が触れた感触とか、
ユノの顔の大アップとか、
けっこうリアルだったけどなぁ~。
はぁ~っと、大きなため息をつきながらベッドから起き上がり、
顔を洗うために洗面所に行った。
寝室のすぐ前の洗面所で、顔を洗い、歯を磨くと、
リビングへ向かった。
清々しい風がリビングに流れ込んでいる。
…ん? なんで?!
どこか開いてる窓があるのか…?
心配になって、リビングを横切り、
風を感じるベランダ側のガラス戸の方へと歩き始めた。
その時、ふっと、“何か”が俺の意識を刺激した。
左の視界の隅に何かが…。
その気になる方向を見回す…、
すると、リビングのソファーセットのテーブルの上に、
見慣れない白い携帯。
テーブルに近づき、その携帯を手に取った。
くるりと周囲を見回すと、
ソファーに置かれた黒いバックが目に入った。
このバック、どこかで見た…?
でも…、思い出せない…。
つづく
(画像はお借りしています)
