さ~て、一仕事済んで、現場に戻ってみると、
撮影は、まだ、終わってない…って感じね。
みんなで、じっと一方向を見てるしね。
チャンミンと2人、民家の垣根の門を入って行き、
撮影スタッフの集団からは少し離れて立っているユノに近づいていく。
腕を組んで、真面目な顔してじっと撮影の様子を見つめているユノに、
チャンミンがすぐ側まで近づいていくと、背中側からユノの肩を
右手の指先でトントンと軽く叩いた。
ユノが振り返り、チャンミンに笑いかける。
「このシーンの撮影で終わりだって。」
ユノは、照明が当てられた先で、ジェジュンとスンホン氏が向き合って
睨み合ってる場面を左手の親指で指さして言った。
そしてすぐに顔を戻すと、もう1度、
ジェジュンとスンホン氏が向かい合って演技を続ける様子を
真剣な目をして見つめる。
チャンミンも、ユノの横に並んで、ユノと同じ目をして
黙って撮影の様子を眺めはじめた。
ドラマの撮影は、俳優同志でのセリフの読み合わせの後、
監督と演じる役どころの感情や動き(位置)の再確認なんかして、
何度かリハーサルが繰り返された後に、やっとカメラが回される。
さらに、ミステイクがあったり、納得のいく演技ができなかったりで、
数回の撮り直しがある。
それから今度は、各俳優の顔の表情のアップなんかの撮りがあって…と、
限りなく何度も同じシーンを繰り返し演じることになるの。
わずか2分ほどのシーンでも、役者が何人も登場したり、
それぞれにセリフがあったりすると、少なくても30~40分、
長い時には何時間にも撮影が及ぶ時があるわ。
そんな作業を繰り返して、やっと1話分のドラマができ上げる。
気の遠くなる根気のいる仕事なのよ。役者も制作スタッフもね。
リハーサルが繰り返される間も、ユノとチャンミンは、
じっと撮影の様子を見ていた。
ジェジュンが、右腕を真っ直ぐ前に伸ばして銃を構えた場面になった時、
チャンミンが、口元を弛ませて面白そうに言った。
「フッ、ちゃんと様になってますね。ジェジュンでも。」
「あははは。だな。」
ユノも、目を細めて相槌をうつ。
「色、白いですね…、ジェジュン。
袖のせいで、少ししか見えてない手が、すごく白いですよ。」
銃を構えているせいか、ジェジュンの手の白さが、
確かに際立って見えた。
「…確かに、白いな~…」
同じ意見だというように、ユノはチャンミンの言葉を繰り返した。
少しの間をおいて、ユノが、チャンミンに顔を向けることなく、
演技をつづけるジェジュンを見つめながら話し始めた。
「チャンミン…。
さっき、ジェジュンの手を握った時に気付いたんだけど…、
ジェジュンの手のひら、硬くなって…、マメができてたよ。
手綱を握るから、擦れたところの皮も剥けちゃってて…。」
一瞬、言葉を止めたユノが、眉を寄せ、1度、2度と瞬きをした。
「あんなに努力して頑張っても…、赤くなって皮がむけた手は、
カメラに映されることはないんだよな…。」
「…そうですね…。
映された見える部分がすべてですよね…。」
「俺たちにとってはな…」
チャンミンが静かにうなづく。
2人が交わす言葉を聞いて、私は切なくなりながら、
ユノとチャンミンの横顔を見上げた。
2人とも静かな表情で、ジェジュンを見つめていた。
リハーサルが終わり、3回の撮り直しがあって、
監督からのOKが出た。
「はい!カット~!」
「お疲れさまです!!」
一斉に、「おつかれ様」の声が交わされる。
今夜の予定部分までの撮影が、やっと終了したみたいね。
一気に周辺がザワザワとうるさくなった。
ユノが、組んでいた腕を降ろすと、撮影スタッフの方へ歩き出した。
チャンミンが、それに気付いて、スッとその後に続いて歩き出し、
ユノのすぐ後ろまで大股で追いついて、半歩後ろを歩いていく。
私も、急いでその後に付いて行った。
2人の後ろを歩きながらね、
なんだか、急に2人から、今までと違うものを感じていたの。
急に、“東方神起”になっちゃったような、
そんな強いオーラを感じたのね。
特に、ユノからね。
チャンミンは、さっきまでの小生意気なかわいい弟って感じから、
口元をキュッと引き締めて、控えめな感じで伏し目がちに歩いてるから、
カリスマを感じるきれいな青年に雰囲気が変わっている。
ユノはね…、なんというのか、
身体のまわりから“強者!”“パワー!”ってオーラを放出させてる感じ。
ただ歩いてるだけなのに、なんか迫力がある。
後ろに大勢の従者を従えて、その先頭を風を切って歩いてるみたいな感じ。
こんな感じのユノを見ちゃったら、簡単には声かけにくいよね。
でもね、ユノのきりっとした横顔見ながら、ちょっと思ったのは、
こんな風に、カリスマ性を強く演出してみせるのは、
ジェジュンのためなのかなって。
ジェジュンの友人がいかに偉大か、一目置かれる存在か、
それが大きければ大きいと知らされるほど、
ジェジュンが周りから受ける扱いが変わってくる。
そう、ジェジュンの地位も同時に高い位置に上がって行く。
特にね、韓国ではそういうところ、強く影響があるように思うの。
扱いが良くなるってことより、スタッフの心理に
植え込まれるって言うのかな。
ジェジュンは、K-POP界のカリスマ的存在である東方神起の2人と
強い繋がりがあるという印象を植え付けることになる。
そういう先入観って、接し方とか扱いに影響するじゃない。
だから、ユノは、あえてフレンドリーな感じより、スターとしての
強い存在感を出しているんじゃないかと思ったの…。
確かに、今日は初めての顔出しだから、
いつも以上に、礼儀正しくきちんとしているのもあるけどね。
そんなカリスマ化したユノが、モニターで撮影画像をチェックしていた
監督のすぐ横まで近づいていくと、
「こんばんは。お疲れ様です!
東方神起のチョン・ユンホとシム・チャンミンです。
撮影見学とジェジュンの応援にお邪魔させてもらってます。」
きっちりと頭を下げてユノがあいさつする。
その横で、チャンミンも静かに頭を下げる。
「お~~!東方神起の2人か~!
すごいな~、本物は、迫力あるなぁ~!」
監督が、イスから立ち上がって、興奮したように、ユノの腕を叩き、
ユノを見上げながら握手のために右手を差し出した。
ユノは、頭を下げながら、その手をしっかり握り返す。
姿勢を戻したユノが、
「ジェジュンが、お世話になってます。」
そう言って、もう一度頭を下げた時、撮影を終え、戦傘を脱いだジェジュンが、
小走りでユノの横に走ってきた。
ユノの横に並ぶときに、ジェジュンは一瞬、ユノの左ひじを
右手で握ったんだけど、すぐに離して、
代わりに自分の左手を握ってお腹の前に置いた。
ふふふっ。
危うく、いつもの癖が出そうになったわね、ジェジュン。
ユノが、左横に並んだジェジュンをちらりと見て微笑む。
ジェジュンも、ユノの顔を嬉しそうに見つめて笑い返す。
ユノは、ジェジュンの背中に左手を当てると、監督の方に向き直って、
「ジェジュン、体力はあまりないですけど、真面目に
努力して頑張りますから、どうぞこれからもよろしくお願します。
馬に乗るのだって、本人怖がってますけど、かなり頑張ってますから…」
熱心にジェジュンを頼みますとお願いしている。
「ハハハハ。
なんだか、ユンホ君は、ジェジュンのマネージャーみたいなこと言ってるね~。」
「あはっ。ユノは、オレたちのリーダーだったから、
いつもこんな口調なんです~。」
ジェジュンが、照れたように笑いながら、ユノを見上げる。
「いや~、チャンミン君、かわいい顔してるのに、
背が…でかいね~!」
ユノ達の横では、助監督が、チャンミンを見上げながら声をかけている。
「君のドラマ「パラダイス牧場」を見たことあるけど、
君って、コメディー物もできるんだね~。
表情が、すごく良かったよ。
澄ました二枚目な顔しか知らなかったから、
シーンごとに、いろんな君の表情が見れて面白かったよ。
君に合う作品を見つけたら、ぜひ、出てほしいよ。」
照れてはにかみ笑いしながら、口元に軽く手をあてるチャンミン。
チャンミンも握手に答えながら、「ありがとうございます。」って、
頭を下げてる。
「日本の映画に出るんだって。」
今度は、監督、助監督でチャンミンが出演した映画の撮影話で
盛り上がり始めた。
そこへ、今度は、ドラマの主役、ソン・スンホン氏が近づいてきた。
それに気づいたジェジュンが、ユノの腕を引っ張り
「ユノ。スンホン兄さんだよ。
スンホン兄さんは、面白い人なんだよ~。
顔はハンサムなのに、冗談ばっかり言ってて、
それも、誰1人受けなくてもずっと同じ冗談言い続けるんだから。
で、しまいにはみんな、根負けして笑っちゃうの。
ユノとは、ちょっと違うけど、マイペースだよ~。
超~自由人? あはは。」
ジェジュンが左手で口を覆って大口を開けて笑いながら、
ユノの耳元に顔を寄せて、スンホン氏について紹介する。
ユノは、ジェジュンの方に耳だけ傾けながら、微かな微笑みを浮かべ
真っ直ぐスンホン氏を見つめていた。
つづく
(画像はお借りしています)
このために、スンホン氏のこと情報取集しましたよ。
で、私的には、こうなった。
果たして…、ユノはどうでるのか?!
そして、スンホン氏は… なんて煽っておきながら…
たぶん、みんなの期待を裏切るだろう…。
スンホン氏のファンの人~、私は、こんな人だと思ったけど、
違ってたらごめんなさい!(先に謝っておきます。)
By 安寿子
