体育館の正面玄関の階段を数段上りながら、
左手にしていた白のウインドブレーカーに目をやった。
あのきれいな彼がほんのさっきまで着ていた服。
肌が白いので、この白い色が似合っていたっけ。
袖が長かったのか、手の甲まで袖で隠れていたよな。
袖口から指先だけ出して、その手で驚いた口元を隠したり、
胸の前で祈るように握りしめていた姿が思い出された。
ユノの顔に、自然と微笑みが浮かんだ。
ユノが、右手にウインドブレーカーを持ち替えた時、
何かが下に落ちた。
さっきまでジェジュンに貸していた物なので、
ジェジュンの忘れものかと、一瞬ユノは思った。
何かと思って、拾い上げてみると、それは、
4つに折りたたまれた大会パンフレットだった。
ジェジュンが、握りしめてクシャクシャにしてしまっていたやつだ。
また、びっくりしたジェジュンが目を大きく見開きながら、
このパンフレットを両手で握りしめている姿を思い出す。
何気なく、しわくちゃのパンフレットを開いてみると、
白い余白の部分には、彼の特徴的な丸めの文字で、
書き込みがされていた。
「クモ(蜘蛛)」とか、「片足!」「速い!!」とか。
思い浮かんだことを書くのが癖なのか…?
「クモ」が何を指すのか分らなかったが、「片足」や
「速い!」というのは、テコンドーを見たイメージだなと
想像できた。
「チョン・ユンホ」や 「K Tigers」の文字は、
クルクルと何度も線で囲んである。
ユンホが、K Tigersに所属していたことを
説明した文章には、ボールペンで下線が引かれていた。
クールそうに見える彼が、思っていた以上に、
自分に興味を抱いてくれていることが分かって、
じわりとユノの胸が熱くなった。
ユノは、大会プログラムの「8 表彰式」の横に、
「優勝 チョン・ユンホ! カッコイイ~(モシッタ~!)」と
ジェジュンの字で大きく書かれているのを見ながら、
人差し指でおでこを掻くと、照れたように笑った。
体育館の中に引き返したユノに、
写真を撮ってくれた男子高校生が駆け寄ってくると、
「ユノ先輩~。
もう、俺達、ドキドキしなから見てましたよ~。
こんなところで、口説かないでくださいよ~。」
視線を上げ、高校生を振り向いたユノが驚いて返事をする。
「口説く?
え、あれは、写真のモデル、頼んでただけだぞ?」
「何、言ってんですか~!
そう言うのを、口説くって言うんじゃないですか~!
みんな、耳でっかくして、聞いてたんですよ。
見てるこっちが、恥ずかしくなるくらい
2人の世界作っちゃって~。
いい男は、何やっても決まるんですよね~。
く~っ!うらやましいっ!」
口説いてるように見えたのか…。
見えたってことは、実際そうだったのかもな。
俺も、正直に言うと、ちょっとそんな気分になってた。
そうさせたのは、あの、男のくせに、
妙にかわいいやつのせいだ、とユノは思った。
「でも…、あの人…、
男の人じゃなかったですか?
そりゃ、男でも妙にきれいな人でしたけど、
ユノ先輩って…、
そっちもOKな人だったんですか…。」
「そっち? ない、ない。」
ユノが、慌てて手を降りながら否定する。
「え~?!
とても、そんな風には見えませんでしたよ~。
なんか、ぐいぐい迫ってたじゃないですか~。」
「ない。ないって!」
まずいな。
俺、無意識にそんな態度とってたのか…。
ユノは、顔をちょっとしかめると、チィッと舌打ちをした。
その瞬間、男子高校生が黙った。
ユノが、機嫌を損ねたと思ったらしい。
急に身を固くして、気をつけの姿勢をとると、
サッと頭を下げた。
「す、すみません!
調子に乗ってしゃべりすぎました!」
ユノは、自分の無意識な行動に舌打ちしたのだったが、
彼が誤解してくれたおかげで、
ドツボに入りそうな話題が終わってくれた。
ちょっとホッとしながら、高校生の背中をパンパンと叩いて
「気にするな。
じゃあな、写真ありがとな。」
右手をあげてあいさつすると、
ユノは高校生に背中を向けて歩き出した。
「ひゃ~あ!
ユノ先輩怒らせたかと思った~!
でも、カッコよかったなぁ~。
あ、おい!
ジニン!
喜べ、ユノ先輩、男も大丈夫みたいだぞ~。」
はるか先の玄関ホールで騒いでる高校生の声が、
体育館の長い廊下の端まで響いて聞こえてくる…
おいおい、そんなこと、大声で話すなよ…。
ユノは、歩きながら、急に痛くなった額を押さえた。
END
(画像はお借りしています)