お兄ちゃんからの連絡を受けて、私と両親は、
小さな産院に行った。
個室に入ると、お兄ちゃんは、ジェジュンさんが寝ているベッドに
腰掛けていた。
ジェジュンさんは、お兄ちゃんの方を向いて、丸まるように横になっていた。
お兄ちゃんはというと、右手をベッドについて
自分の身体を支えるようにしながら、
反対の左手をジェジュンさん背中側にまわして、
ゆっくり、腰をさすっていた。
「陣痛は強くなってきたけど、まだまだみたいなんだ。」
ジェジュさんの腰を、ぐっ、ぐっと、力を入れて押し上げるみたいに
さすりながらお兄ちゃんが言った。
「初めてだから、時間がかかるのよね。」
お母さんは、そう言いながら、お兄ちゃんと向かい合うような感じで、
ベッドの反対側の端に腰を下ろすと、ジェジュンさんの背中を
優しくなで始めた。
額にうっすらと汗をかいて、顔を赤くしたジェジュンさんが、
苦しげに閉じていた目蓋を開けると、お母さんの顔を見て、
かすかに微笑んだ。
痛みがくるたび、ジェジュンさんは、
そのきれいな眉を寄せ、唇を噛みしめる。
お兄ちゃんがベッドについている右手の手首を、
右手でギュッと握りしめ、背中を丸めて頬を寄せる。
「う~…っ、」と、声を噛み殺しながら、
痛みをこらえ、苦しげに小さな呼吸を繰り返した。
とても、辛そうなんだけど…、
すっぴんで、ピンクのゾウ柄のネグリジェ姿なんだけど…、
ジェジュンさんが、すごくきれいに見えた。
目が、好きなことをしていて楽しくてしょうがないって人みたいに、
キラキラ輝いてて、透き通るような白い肌と、噛みしめて少し赤くなった唇、
なんにも装ってないのに、誰も太刀打できないような美しさを感じた。
そう…、内側から輝いてる、って感じ…。
お兄ちゃんが、仕事のために戻ることになった時、
ジェジュンさんが、とても不安そうな顔をした。
そしたら、お兄ちゃん、握ってたジェジュンさんの手を
放せなくなっちゃって…。
そこへ、バンッ!って、すごい音いわせてドアが開け放たれて…、
“WHY”の黒いステージ衣装を身にまとったチャンミンさんが、
両手を広げたポーズで、クールに現れた。
そして、ジェジュンさんに、こぶしをグッと突き出して
「ジェジュン、ファイティン!」と、一言言うと、
「ユノ、…行きますよ。」と冷静に言い放って、
渋るお兄ちゃんの後襟を掴んで、廊下をズルズルと
引っ張りながら連れて行ってしまった。
・・・、夢だから、よね。
いきなり次は、お兄ちゃんが帰ってきて、
ジェジュンさんに駆け寄るシーンだった。
ジェジュンさんが、あきらかにホッとした表情を見せると、
お兄ちゃんの顔を見つめて、嬉しそうに笑った。
お兄ちゃんも、ジェジュンさんを見つめて、微笑み返すと、
ジェジュンさんの右手を握りしめながら、
ベッドにかがみこむようにして、ジェジュンさんの額に
そっとキスをした。
その光景を見ながら…、ジェジュンさんもお兄ちゃんも、
本当にお互いのこと必要と思ってるんだな…って思った。
「ジェジュン、ゴメンな~。
こんなつらいことさせちゃって。
代わってやれないから、つらいよ。」
お兄ちゃんが、ジェジュンさんの腰をさすりながら、
泣きそうに顔をゆがめて言った。
陣痛の痛みが和らいだ合間に、ジェジュンさんは、
やさしく笑いながら、
「オレのお母さん、こんな痛いこと、8回もやったのかって思ったら、
やっぱり、お母さんって、すごいなって思った。
この痛みに耐えた女の人って、強いはずだよ。
ふふっ…。
だから、オレも、グンッと強くなるよ、これから。
…それに、オレも頑張れる。
だって、ユノの子供だもん。
早く会いたいから。」
お兄ちゃんを見つめながら笑うジェジュンさんの目じりに
優しい笑いジワができていて、幸せそうなその表情を見た時、
私は、感動していた。
うちの、あの遠慮のなくなったお母さんも、こんな気持ちで、
私たちを産んでくれたのかなって、考えてしまった。
お母さんへの感謝の気持ちが膨らんで…、ちょっとだけ涙が出てきた。
なかなか陣痛の間隔が定まらなくて、お産は長引いていた。
ジェジュンさんは、疲れてウトウトしだした。
私は、お兄ちゃんと自分の分のご飯を買いに、
産院の外のコンビニに行った。
戻ってきたら、頭の方を高くしたベッドに、
お兄ちゃんが横たわっていて、
その腕の中に包まれるようにして、ジェジュンさんが眠っていた。
くったりと力の抜けた身体をお兄ちゃんの胸にもたれさせて。
お兄ちゃんも、胸にジェジュンさんを抱いて、
その身体に腕をまわしたまま目を閉じていた。
私は、コンビニの袋を、イスの上に置くと、
そっと部屋を出た。
つづく
(画像はお借りしています)
