私は、お言葉に甘えて? 顔を洗って着替えると、化粧もした。
いつもの、遅刻しそうな時なら15分もあればできる準備を、
30分もかけてやった。
化粧も、いつもより丁寧にやってみた。(私ができる範囲で、
手を抜かなかっただけだけど。)
服も、お兄ちゃんと2人だけなら、きっとスエットのまま着替えなかったと
思うけど、ジェジュンさんが一緒だからね。
明日、友達と会う時に着る予定だった服を着ることにした。
いいとこ見せるなら、友達より、ジェジュンさんだよね。やっぱり。
あのパウダールームのような洗面化粧室の鏡で、全身をチェックすると、
キッチンのジェジュンさんのところへ向かった。
ジェジュンさんは、昨日とは違うデザインのキティのエプロンを着けて、
薄切り肉に下味をつけるために、プラスチックのボールの中の肉を
素手でもみ込んでいた。
ジェジュンさんお気に入りの御影石のワークトップの上には、
ナムルがいくつも並んでいた。
早い! 昨日、下ごしらえしてたけど、すでに、ほうれん草と豆もやし、
ニンジン、ぜんまいのナムルが、別々の皿にこんもりと盛り上げられていた。
それにしても…、
「な、何人分作ってるんですか? ジェジュンさん?」
「え、もちろん、3人分だよ。」
私に言われて、ふっと、並んだナムルの皿を見るジェジュンさん。
「…あ、いつもの癖で、チャンミンとの3人分で、分量考えちゃってた~。
あはっ。チネちゃんとの3人じゃ、多いよね~。
でも、大丈夫。ユノもたくさん食べるし、残ったら、
チャンミン用にするから。」
あははって、可笑しそうに笑いながら、左手を口にあてて、
右手で箸を振りながら言った。
「ははは…。ま、みんな遠慮なく思いっきり食べられますよ。
…ところで、私も何か手伝いましょうか?」
「じゃぁ、ポッサム用のサンチュの葉とえごまの葉を洗ってくれる。」
今日も、洗い物と千切りもの担当ですか…。
イイですけどね…。家でも、そんなことしかしてないから。
お母さんの横で、フライパンに、材料が放り込まれたら炒めるっていう、
炒め係か、洗い物するのが私の当番だし…。
「下ごしらえだけしておいて、ユノが帰ってきてから、チャプチェは炒めるから。
チャプチェは冷えたらおいしくなくなるからね~。
…そうだ、チネちゃん。
チャプチェの味付けなんだけど~、ユノは、おいしいって言ってくれるけど、
お母さんの作ったものとは違うって言うんだよね。何が違うのかなぁ?
ユノに教えてもらったとおりに作ってるんだけど…。」
ジェジュンさんが、下唇を右手の指で、くにくにいじりながら、
下ごしらえの済んだ、ゆでた春雨や、切った野菜、タレに付け込んだ肉、
卵の薄焼きを、じっと眺めながら悩んでいる。
「どんなふうに、作ってるんですか?」
私は、ジェジュンさんから、チャプチェの作り方を聞いた。
「私も、横で手伝うくらいだから、はっきりこうだ!って自信はないけど…。
きのこ類、しいたけとか、きくらげは、肉と同じくらい濃いめに味付けして、
野菜類は、面倒でも、1種類ずつ炒めて味付してるみたいですよ、うちでは。
急ぐときには、野菜類全部炒めてから一気に味付けしちゃう時もあるけど、
やっぱり手をかけた時の方がおいしくなるみたい。
それから…、この春雨が、違うみたい。
うちの近所のマートには、これは売ってないし。
春雨違うと、食感も味も違ってくるじゃないですか。
そんなとこが原因なんじゃないかな~。」
「ふ~ん…。 全部、別々に炒めるんだね…。なるほど~。」
「あ、あの、ジェジュンさん。そんなに感心しないでください。
間違ってたら、恥ずかしいし、はっきり言って自信ないですから…。」
ジェジュンさん、鼻の頭をちょっと指でこすると、首を横に振りながら、
「ううん。きっとそうだよ。 だって、ユノが、なんか味が薄いって
言ってたから。
きっと、別々に炒めて、それぞれに味付けしていったら、
しっかり味が付くからね。きっとそうだよ。」
確信持ったみたいに、目をきらりと光らせて右手のこぶしを握った。
ジェジュンさん、料理の下ごしらえが済むと、リビングやお兄ちゃんの
部屋の掃除を始めた。
私は、お風呂掃除と、廊下のモップがけをした。
なんと、お風呂も全自動掃除機能が付いていた。
前回来た時は、そんなこと知らずに、しっかりスポンジで浴槽やタイルを
擦ったけど、スイッチひとつでシャワーみたいなのが出て来て洗えるように
なってるんだって!
お兄ちゃん、教えておいてよー!そういう大事なことは!
それから、床暖房のスイッチの場所も、ジェジュンさんから教えてもらった。
ジェジュンさん、お兄ちゃんより、このマンションのこと
把握してるんじゃないですか?
つづく