9月11日のブログでお知らせしたように

http://ameblo.jp/ginnami2/entry-11611779842.html


現在、私が体験したさまざまな形の「ホスピス緩和ケア」を連載中です


そんなのとんでもない・・知りたくない・・非常識だ・・     と思う方は

以下は読まないでください・・


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7回目は 前立腺がん Kさんの紹介です


Kさんは、70代の男性患者さん

現役時代は都心でバリバリ働き

現役引退後、妻と伊豆で過ごしている


私がKさんと出会ったのは今から9年前

当院の前身の「がん相談所」に何度も相談にみえていた


がん専門病院で標準治療から開始したものの

標準治療が効かなくなっていた


国内外の臨床試験の情報や、開発中の薬の情報

国内外の学会からの情報・・あらゆる情報を収集し

「これが使えないか?」「これ以外の情報はないか?」

いつも真剣勝負であった・・


自由診療での陽子線治療や

関西の病院での温熱療法と抗がん剤の併用療法を行い


その後は、九州での免疫療法が出来ないかの相談

広島の専門医の相談


全国中を飛び回った・・


当院が銀座に出来ると、当院で治療を開始することになった

治療の帰りには、妻から買い物を頼まれた・・と言って

デパートに立ち寄り、伊豆まで帰っていった


小康状態が続いた後

骨の転移が進行し、痛みと筋力低下で自力歩行が難しくなった


伊豆からタクシーで通院するようになった


出来ることがどんどん少なくなり

「これじゃ車運転して、海に飛び込み自殺することもできない・・」と嘆く


「仕方ないからもう少し生きますか?」と返す私



次回来院の予約を確認すると

「生きてたら来るから!」と 捨て台詞


私も負けじと 「きっと生きてるから来てね」 と言い返す


口をへの字に結びながらも、右手を挙げて「じゃあ・・」と帰っていく



自宅では、骨粗しょう症で腰が曲がり、自分のことで精一杯のはずの妻が

自力歩行が難しくなった気難しい夫の介護を行う

共倒れ寸前である


何度「介護保険を利用して・・」と話をしても

  ・他人の世話になるのは嫌だ

  ・年寄りくさいシステムなんて   と拒絶する


三好医師も

  「だったら東京に引っ越ししてきてください

  そうしたら往診でみます」 と まるで息子のよう・・


返答は

  「嫌だ・・伊豆は温暖で、自宅には温泉も引いている

   いまさら東京には住めない!」  


ううう~~へそ曲がり~~~という言葉を飲み込み

「じゃあ、東京に通えなくても痛みどめなどもらえるように

在宅の先生を確保してください」となり

地元の在宅医が入ることになった


転倒して入院・・褥瘡が出来た・・など連絡が入る

それでも自宅が一番と、すぐに自宅に戻る

介護保険フル活用し、看護師も入る・・


来院は出来なくなったけれども、数週間ごとに近況報告の電話が入る


声の様子で元気度がわかる


しっかりしていたKさんが電話口で私に話す

  「もう全然ダメ、認知症になって・・・いろいろわからなくなる」


私 「ちゃんと電話の会話成立してるよ・・大丈夫だよ」


Kさん「そ~お? 電話ちゃんとできてる? 大丈夫?」


私 「大丈夫! また電話下さいね!」


そのあと妻と電話を代わると

  「このところ認知症が進んでるんです

  今も、東京に電話するっていって、でもかけられなくて

  私が電話をかけてあげたんです・・

  食も細くなり・・足が動かないんでずっと家に居ますんで・・」と


電話の話からは、在宅の先生がきちんと診てくれ

看護師さんも頻回に来てくれる

入院はしたくない・・というぶれない意思が伝わって来る


癌は痛みさえコントロール出来ればまだまだ・・

ただし、認知症がどこまで進むんだろう・・

ずっと家に居るからね・・

私たちの心配はそんな感じだった



それから数週間後、私に電話があった

 「Kの家内です。大変お世話になりました。」


     >>お世話になりました??過去形??


 「Kが○日に亡くなりまして・・・バナナをのどに詰まらせまして・・」


     >>バナナ? ばなな?? えっ~~


 「結局そのまま意識が戻らず亡くなりました

  長いことお世話になりました。皆様によろしくお伝えください」と


電話を切った私は、「ええっ~~」と大声を出したらしく

スタッフが「どうしたんですか?」と集まってきた


「Kさんがバナナ詰まらせて亡くなったって・・」と言うと


「ええっ~~~もったいない」と口をそろえて言う



その後三好医師も交え、改めて皆で話をした

  ・一番びっくりしてるのは本人だね

    国内外のあらゆる文献を読み、足を運び、海外から未承認薬も輸入し

    自費診療もたくさん行い、どれだけ戦ったか・・


  ・これが高齢者の特徴・・「がん」では死なない 

    確かに他の患者さんでも、朝突然脳梗塞で倒れたり

    ノロウィルスに罹ったり・・


  ・高齢者は他の病気のリスクも大きく

    共存してるうちに、寿命が来るんだよね・・



Kさんとの9年間、発見が遅れたことの不信感

標準治療の限界の怒り、ドラックラグに対する怒り

混合診解禁にならない怒り、地域格差の怒り

思い通りにいかない憤り、悔しさ、諦め・・


Kさんは色々なことに怒っていた


天国では穏やかに暮らしてるのかしら


忘れられない患者さんの1人である