「颯太のおごりなんだよね?」
莉緒は意外にちゃっかりしているが、そこが憎めないところでもある。
「じゃあ、八時に校門でな」
「了解です。頑張ってね、颯」
「ああ、マネージャーさんもな」
「任せといてよ」
莉緒はそう言うと、足早に教室を出て行った。
「颯」
「何だ?」
「ここまで遅くなるのは、作品展のためだけじゃないだろ?」
「まあね」
「若葉はもうすぐ誕生日だし、絵でもプレゼントするんだろ?」
「さすが岳斗、お前には隠せねぇか。あいつには内緒にしといてくれよ?」
「わかってるって、じゃあな」
「おう、また後でな」
時計はもう五時を回っている。
俺は美術室に向かう途中、普段剣道部が部活で使っている第二体育館に寄り、携帯で一枚写真を撮った。
美術室には、既に二人の部員がいる。
「すみません。遅くなりました」
「構わないさ、五十嵐はもう出展用の作品は完成させてるんだから」
部長の前原肇はそう言って笑った。
いつも隣に座っているお調子者が声を潜めて聞く。
「颯太さんは今日も彼女さんの絵、描くんすか?」
「まあね」
「いいなぁ、俺も彼女ほしいなぁ」
「篠崎、お前はいいから早く作業続けろ!」
「はいっ、部長!」
こいつは俺と同じ油絵を専攻している、後輩の篠崎雄也。
かなりのお調子者だが、根はとても真面目なヤツだ。