「ロースクールでまず最初に教わるのが『正義など何処にもない』ということだ。・・・それでも闘うことを諦めてはならないんだ

黒人弁護士ロニーのつぶやきが、映画が終わったのちも、砕かれたこころに残される。

トム・ハンクスがアカデミー主演男優賞に輝いたジョナサン・デミ監督の「フィラデルフィア」は、1990年代のアメリカを舞台にゲイに対する偏見と差別とを真正面から描いた、恐らく最初の映画だろう。

同作品が公開されたとき、日本社会のみならずアメリカ社会も、根強い差別意識の深い闇に覆われていた。

トラヴィス・ファイン監督が描いた「チョコレート・ドーナツ(Any Day Now)」の舞台は、1970年代のカリフォルニアである。
この時代背景が示す、ゲイに対する差別・偏見の闇の濃さは計り知れない。

主人公は、地方検事局で働く検察官ポールと、ショーパブダンサーのルディ、そしてダウン症の少年マルコ。

ドラッグ中毒の母親が逮捕され、行き場を失ったマルコ。
好物はチョコレート・ドーナツ。
眠る前にせがむのは、ハッピーエンドのおとぎ話。



隣人のルディは、マルコを施設に放り出すだけの家庭局の措置に我慢ならず、何とかマルコを自分の手元で育てようと奔走する。
ルディと恋に落ちたばかりのポールは、当初躊躇っていたが、やがて自分の胸の内にマルコに対する愛情の芽生えを確信する。
ふたりは両親としてマルコを養育するための正当な権利を得るため、差別に向き合い、闘い始める。

遠くから眺めていられるうちは、「救済」「希望」「正義」の象徴として煌めいている司法。

しかし、我々市民が現実に司法の救済を必要とする場面に追い込まれるとき、我々は初めて司法の限界に直面する。

ルディの痛切な叫びが耳を離れない。

これが正義なのか? 1人の人生の話だぞ! あんたらが気にも留めない人生だ

マルコが大好きなハッピーエンディング・ストーリーが実現される社会を構築し続ける義務を、私たちひとりひとりが負っているのだということを、改めて痛感させられる極めて貴重な物語である。