翌日、朝早くに起きてしまったから、響子を起こした。今日はスキャンが終わるまで、怒らせたらあかんと思ったが、昼まで寝てもらっていては敵わんので、朝だよーと可愛く起こしてみた。もちろん朝ごはんなど作らせてはいかんと思い、どっか朝ごはん食べにいくか?と誘ってみた。響子は行く行くと言いながらも、やっぱり女だねー。出かける準備に時間がかかった。内心、早く起こしてよかったーと思いながらも、そんなことはお首にも出さず、早く出かけて、早く朝ごはん食べスキャンに行こうと誘ってみた。彼女なりに、頑張って準備していたのかな、声をかけても、何か、『あなたのために早起きして行くんでしょー』と言われているような返事の仕方だった。ま、怒らせてはいけない。穏便に穏便に。

   久しぶりに喫茶店で、朝食をとった。大体、日曜に休みがあると、やっぱりゆっくり寝れると思い、あまり早起きはしないから。響子にいつも文句を言われながら起きる癖がついていた。

「ほんと久しぶりよねー。日曜にこんなに早く起きて、朝食を食べるなんて。」「本当は、こう言うふうに朝早く起きたほうがいいのにねー。誰かさんが起きないから。私まで起きなくなってきちゃったじゃない。よし、これからは日曜でもちゃんと起きよう。」

えーマジかーとはとてもいえそうになかったので、そこはスルーした。窓の外は、稲が実り全体に黄色い草原だった田んぼも今や、稲刈りが終わって根っこだけが残っているだけで、大阪とはいえ実家あたりの田舎のように、周りは田畑が多いよな。その分、夜の喧騒もなく静かである。ああ、このあたりはいいな、静かだし、少し走れば日本2番めの大都市だし。このあたりは子育てにはいいのかな、将来。ま、僕としてはまだ田舎にこもってと言う気持ちはないしな、かと言って、大阪のど真ん中だと窮屈な感じがするしな。

「響子、このあたりはどう?子育てに。」

「また子供の話?実は欲しいんでしょ。赤ちゃん。場所的にはいいんじゃない。大都市より、少し小さな方が。」

「いや、ふと思っただけで、今すぐなんて思ってないよ。前も話したけれど、今すぐは、いらないよ。まあ、あえて言うなら赤ん坊通り過ぎて、大きな子がいいな、めんどくなくて。」

「ほんとー?今すぐ欲しいんじゃないのー?」

「いや、なくてもいいとも思うんだけど、まあ、次の世代がいないのも寂しいから、一人くらいは考えるけど、響ちゃんの考えもあるだろうから、前言ったように、今すぐでなくて、いづれね。もう少し、偉らなってからにしよか。」「でも、一人っ子は寂しいから、やっぱり二人かなあ。どう思う?」 

「そうだねー。一人より二人かなあ。だけど、産むのはあたしだからね。その辺りは考えてね。時期もね。」

「それから、虹ちゃん 耐えられる? 子供ができたら私、そっちにかかり切りになるからね。虹ちゃんのことは二の次、三の次だよ。耐えられるの? 大丈夫?」

「えっ?そうかー、そうだよなー 響子の取り合いかーうーん無理かも。子作りやめるか?とりあえず今はやめておこう。耐えられるか不安なんで。」

「ほらー 虹ちゃん 無理でしょ今は。」

「だけどなー、こう言う仕事してるとさー、あまり先延ばしするのもなー。歳を重ねるだけ体力も落ちてくるしね。響子が大変だよ。子供も大変だろうし。」

「じゃあ、今晩作る?」

「子供は今だって昔と変わりなく授かり物なんだから。簡単に今晩作るって言うなよ。思わず吹き出したわ。何言うねん。朝から。」

「あれ、虹ちゃんが欲しいようなこと言うからじゃない。だから言ったのに。じゃあ今晩なしね。」

「はあ?何をおっしゃっているのやら。あのなー、いつでも作れるように練習は必要だよ。」

「なに?虹ちゃんこそ。朝からそんな話して。お母さんに怒られるわ。」

「はいはい、僕が悪いことにしとくわ。今日は。なんせ今から手伝ってもらわなあかんからな。」「なんと言っても、響子様ですから。」

「その言い方、なんとかならんの?もう 虹ちゃんやから怒らんだけやからねー。全く。」

もう朝からそんな話をするだけのどかなのか、なんなのか。だけど、今後の話、またしっかりせんとあかんなー。まだまだ先の話やから、慌てることは全くないんだけれど、一応耳に入れといた方がええやろうしな。でも、そう言う自分がどうなりたいのかがはっきりとわからんもんな。トップにはなりたい気持ちは確かにある。でも、弟子を取るほど賢く振る舞えるのか?弟子のやったことは全て自分に跳ね返ってくることは耐えられるのか。もちろん、自分の下につくものが、しっかりとしていればいいのかもしれないが、では自分の下に、信じて任せられそうな奴はいるのか?例えば、トップに立とうと思えば研究もしっかりしないとダメだしな。自分だけしっかりしていればなんとかなると言うものではない。研究もちゃんと後輩を指導できる者が要る。また、臨床は、患者さんを切り刻んで結果を出さないといけない。自分の下に今、そのようなものがいるのか?また、自分は、オペレーターとして下のものに対して指導できるだけのものがあるのか?

柳井先生のように僕はマルチプレイヤーにはなれそうにない。というか、これからの時代、マルチプレイヤーは要らないのかもしれないが、人に自慢できるようなカテゴリーがあるかどうかだよな。俺だったら、再建にかけては右に出る者がいないと言われるようにならなければならない。それもできずにNo. 1なんて、ちゃんちゃらおかしいと言う話になってしまう。あと15年、No. 1になるための準備の時間ならあるだろうけれど、どうなんだろう。本当に自分の目標はNo. 1になることなのだろうか。そのような立場にはなりたい気もするが、色々とやらなければならないこともあるし、これからこの医局がどうなって行くのか? そもそも、そのチャンスはやってくるのか? チャンスはあるようには思う。あと15年後にやってくるたった一度のチャンス。それを逃したら、もう後はない。 それに対して、森の言っていた話。一緒にクリニックを運営して行く話。本当にうまく行くのかいかないのか?今は全くわからない。森だけをみて言うなら、クリニックをうまくやっていけるだろう。それが二人となるとこれまたややこしい話になるかもしれない。収益を二分して、ニ家族がそこにぶら下がっていけるのか? 教授はそう言う心配はいらない。大学という大きな傘の下にいるから心配は無さそう。開業に比べたら非常に安定していそうだ。なんせ、多分潰れることはない。全くないかと言われれば、多少はあるがまあ、問題はないだろう。だけど、開業はその点辛い。圧倒的にリスクが大きい。大学という看板を背負うより開業という看板の方が小さくて、ネームバリューがない。ちょっとしたことで大きな影響を受けそうだ。そこにかけるのか?No. 1か、No.2で、寄らば大樹の陰的な大きな看板の庇護を受けるか? あー考えても考えても答えが出ない。どうすればいいのか?全く見当がつかない。ただ現時点で言えることは、開業するなら、もう少し開業医に必要なスキルを身につけないといかんなと思う。結局、一本には絞れない。両方を追っかけて、結果どうなるかという話だ。二兎を追うものは一兎をも得ずで、最悪なのはどちらも取れないということだ。その場合、どこかの病院に行くしか手がなくなるな。あー難しい。こういう時、優柔不断の性格が嫌になる。でもこれが僕だから仕方がない。というわけで、もうしばらくは、二兎を追うもので行くしかない。まあ、ウェイトで行くと、大学7開業3くらいの割合だな。

「虹ちゃん。こうちゃーん。起きてる?もう食べ終わったからいけるよ。」

「ああ、ごめんごめん、考え事してた。じゃ大学に行きますか?」

「虹ちゃん、大丈夫、なに考えてたん?」

「え、いやー今日の計測終わったらどうやってまとめようかなーと思って。」

「へーそうなんだ、それならええけど、なんか真剣に考えてそうやったから。」いやーよく見とるわ、さすがは響子、響子に嘘をつくのは非常に大変。すぐ見破られるから。だから嘘はつきたくないのだが、今この話をするのはね。まだ先の話だし、これから計測手伝ってもらう時にいらん話をしたくないし。そもそも、でどうしたいんと言われても答えがない。そんな状況で話せるわけもない。この話はまた今度ゆっくりと。ね、響子ちゃん。

「では、そろそろ大学に行きますか?」

「はーい、では参りましょうか。ところで、どういうふうに、骨、置いてあるの?」

「ん、ああ一体ずつと言うか、一つずつ箱に入っているから、頭だけ。それが、30個、研究室に置いてあるから、それを3次元計測するだけだよ。それと、骨は解剖学の教室から秘書さんにお願いして借りてきたんだ。だから、みんな待っているんだ。早く計測しておくれーって。骨がね。」