60歳台,女性.
乳がんの患者さん.
術後胸膜,胸壁転移,がん性胸水貯留の状態.
がん専門病院にて,ナベルビン+トラスツズマブで
治療開始したところ.
全身浮腫,心嚢水貯留出現.
更に,肺炎を起こして,長期治療離脱.
在宅酸素療法の導入となる.
病状がやや落ち着いたところでベージニオの内服を
開始したが,今度は下肢の浮腫や呼吸苦が出現し,
継続不可.
こうも立て続けに抗がん剤の副作用にやられてしまうと,
標準治療の継続意欲は消失してしまう.
その後,縁あり当院へ.
在宅医師の治療への理解もあり,当院での少量抗がん剤治療
の導入となる.
さて,当院での治療は,
トラスツズマブ 30mg/body/回の少量投与.
投与開始直後から,胸水の減少,全身状態の著明な
改善を認めた.
腫瘍マーカーも,
測定: 1回目 2回目 3回目 4回目
CA125 200 154 109 81
CEA 9.0 7.3 6.1 4.3
と減少傾向.
ということで,最初のナベルビン+トラスツズマブの
治療レジメンで,患者さんを副作用で散々苦しめた犯人は
ナベルビンであったろうとなる.
この患者さんの場合,
トラスツズマブが「合っている」薬剤で,
ナベルビンが「合っていない」薬剤と言うことだ.
この患者さんには,少量といえどナベルビンを
使用しては行けない.
当院の,抗がん剤
「合っている・合っていない8か条」はこういった
当たり前のような臨床学的観察から導き出したものである.
① 合っている抗がん剤は,薬になる.
→トラスツズマブ ![]()
② 合っていない抗がん剤は,ただの毒.
→ナベルビン ![]()
③ 合っている抗がん剤は,副作用は殆ど出ない.
→トラスツズマブ ![]()
④ 合っていない抗がん剤は,少量でも副作用が出る.
→ナベルビン ![]()
⑤ 合っている抗がん剤は,少量で疾患制御が得られる.
→トラスツズマブ ![]()
⑥ 合っていない抗がん剤は,投与量を増やしても効かない.
→ナベルビン ![]()
⑦ 合っている抗がん剤は,がん増殖のブレーキになる.
→トラスツズマブ ![]()
⑧ 合っていない抗がん剤は,がん増殖のアクセルになる.
→ナベルビン ![]()
最初のナベルビン+トラスツズマブは,
「毒」と「薬」が同時に投与されていたようなものだった.
「毒」のせいで患者さんは副作用で大変なことに・・・
治療に「毒」はいらない.
「薬」に「毒」が混ざると全体の治療効果に悪影響が出る.
だから「毒」を外して,「薬」のトラスツズマブ単剤使用が
この患者さんへの適切な薬剤使用となる.
もちろん,ナベルビンが「薬」として機能する患者さんも
いるわけで,そういう患者さんにはナベルビンを適切に
使用すればいいだけだ.
それが個人差であり,がんの個性だ.
さて,現在トラスツズマブ単剤での治療が継続している
のだが,もちろん,がん細胞の多様性を考えると,
単剤で疾患制御がずっと維持できるとは考えていない.
どこかのタイミングで,がん細胞の多様性に対応するために,
次の「薬」として機能する薬剤を拾い上げていき,少量多剤
併用療法にシフトしていくことになる.
その際も,全ての抗がん剤に共通した単純な話を
遂行するだけだ.
「毒」を盛るな・混ぜるな.「毒」と判断したら取り除け.
「薬」となる薬剤の組み合わせで治療せよ.
それが,個々の患者さんのがん細胞の多様性に対応した
抗がん剤の組み合わせになる.
あと,気が付く人は気付いたと思うが,
当院の少量抗がん剤治療って,抗がん剤を生薬のように
見立てた漢方医学みたいでしょ?
