個にして全,全にして個 ① | 「あとは緩和」といわれたら

「あとは緩和」といわれたら

少量抗がん剤治療(がん休眠療法)で
元気に長生きを目指す ー

少量抗がん剤治療を手掛け始めてから今年で19年目になる.
コツコツ1例1例積み重ねて今に至る.
 
始めてから10年以上に渡っては,個々のがん細胞特徴と
投与薬剤とをいかに合わせるかを中心に取り組んできた
のだが,一方でがん細胞同士の相性というか,組み合わせ
のルールの追求も必要だよなぁ・・・と感じてはいた.

というのは,「和を以て尊しとなす」は人間社会だけの
話ではなく,がん細胞たちの“社会”でもそうではないか,
と思っていたから.
 

そもそもがん細胞は,宿主(患者さん)の迷惑そっちのけで
細胞分裂を繰り返し増殖する・・・という「自己中心的
(以降:自己中)な存在なわけだが,がんの塊そのものは,
様々な「自己中」連中(がん細胞の多様性の意)の
「共同生活の場」と捉えることができる.

そうすると,ここで疑問が湧いてくる.
この自己中な連中は,ナゼ互いにいがみ合わずに,
1つの「塊(がん)」として存在できているのだろう?

この問いに対して,
「自己中連中といえども,どこまでもやりたい放題ではなく,
自己中な連中は連中で,お互いのしがらみやバランスの中で
存在している」と考えるとなんとなく腑に落ちる.
 
がんはがんで「有機的関係」のもとに存在している.
 
「個」にして「全」,「全」にして「個」という
解釈でもいい.
 
そうすると,こういった「がん」を治療相手にした場合,
「個」からのみのアプローチでは不十分で,
「個」と「全」両サイドを考慮した治療戦略が求められる.
 
以前は,治療効果を得るのに苦慮していた膵臓がんの
少量抗がん剤治療.「個」だけではなく「全」を意識した
マニュアル作製を進めていったところ,少しずつ「イケる」
症例が増えてきたように感じている.
 
以下は,某大学内科教授と膵臓がんのAさんの外来での会話.
Aさんがショートメールで送ってくださったものだ.
(一部改変)
 
治療は,
ゲムシタビン,シスプラチン,アムルビシン,
シクロフォスファミド,その他・・
を漢方の生薬のように少量使用で組み合わせた
一見すると謎レジメン.(笑)
 
謎レジメンに見えるだろうが、一つ一つこの患者さん用に
キチンと選ばれた薬剤。安易に5FU系の薬剤‥たとえば
TS1を追加しようものなら、あっという間に疾患制御を
失うことになる。
信じられないだろうが、マジだ。
 
医師:AさんはⅣ期膵臓癌で「銀座並木通りクリニック」
   で治療中でしたね。
 
Aさん:はい、仕事の引継ぎの為に動ける時間を確保する
   為の選択をしました。

医師:患者さんの人生ですからその方のお考えを最優先
   します。それで良いと思いますよ。

Aさん:(良さそうな手応え…)ありがとうございます、
   東京の先生のお薦めで在宅診療も契約しました。

医師:どちらの?

Aさん:「〇〇診療所」さんです、お薬もそちらで
    頂いております。

医師:そうですか、〇〇先生には当院もたいへんお世話に
   なっております。それで現在はゲムシタビンと…。

Aさん:こちらに昨日の治療指示書(予約詳細)が
   ございますのでご覧下さい。

医師:…なるほど、私は専門外ですがこの組み合わせは
   なかなか効きそうな気がしますね、未承認薬も…
   自費ですか。

Aさん:はい、少量の抗がん剤を患者の反応を見ながら
   複数駆使される漢方薬(生薬)処方的な
   オーダーメイド治療で、副作用もほぼございません。

医師:それは良いですね。

Aさん:それで本日の血液検査の結果はいかがでしたで
   しょうか。

医師:CEAは前回の52.4から17.8、CA19-9は45.4が32.2
   これは正常範囲です、うーん、良いですね。

Aさん:画像の方も造影剤CTで撮影して頂きまして、
   前回のこちらでの画像データと比較して目立った
   変化はなさそうでしたが、、

医師:それは私たちが *****(よく聞き取れませんでした)と
   いう均衡が保たれた状態で目標とする所でもあります。

Aさん:ありがとうございます、こちらではこれからも
   ステントとか救搬とかでお世話になりたいと思って
   おりますので宜しくお願い致します。

医師:そのための〇〇医療センターですから大丈夫です、
   次は1ヶ月先に血液検査と診察入れておきますね。

Aさん:ありがとうございます、これからもどうぞよろしく
   お願い致します。
 
 
今までもそうだ.
『少量の抗がん剤なんぞ効くはずないだろう』という
医療者の思い込みも,百聞は一見に如かず.
効果症例1例を眼の前に,その印象はガラリと変わる
ことがあった.
 
担当医師が,1ヶ月後に採血目的の外来を入れたのは,
ナゾ治療の効果の持続性を確認しておこうとでも
思われたのだろう.
 
まぁ,大学病院の偉い先生に「おっ??」という感じで
目に止まり,一瞬とはいえ興味を持って頂けるのは
いいことだ.ニコニコ
 
奇跡の確率で,ナニかが変わるやもしれない.
町医者1人でやっていても限界あるんだよね.