当院の非常勤医師の丸山隆志先生(東京女子医大・脳外科)
の産経新聞月イチ連載・最新コラムです.(2023.6.26)
私は首と腰に椎間板ヘルニアを持っています。学生時代に
やっていたラグビーが影響しているはず。この椎間板ヘルニア
では感覚障害に苦しめられます。
人間は二足歩行になり、丸く重たい頭をS字に曲がった背骨
で支えるようになりました。背骨の首部分では前に、胸では
後ろに、腰で再び前に、3つのカーブをクッションとして頭を
背骨の上でバランスよく支えています。姿勢が悪くなると、
どこかのカーブに負担がかかります。背骨の角が変形したり、
骨の間のクッション(椎間板)が飛び出して神経を刺激して
しまうのです。
頻度が高いのは腰の椎間板ヘルニアです。お尻から太ももの
裏のムズムズ感からはじまり、骨の芯がジンジンするような
痛さが広がります。虫歯の治療での麻酔の注射や、正座した
後に足の感覚がなくなった時を思い出してください。「表在
知覚」すなわち皮膚の浅いところの感覚が鈍くなり、ときに
ピリピリと感じます。正座で足がしびれた時に急に立ち上がると、膝カックンになってしまいます。「深部知覚」すなわち
膝や足首がどう曲がっているのかが脳に伝わっていないため
です。
感覚をつかさどる脳のダメージで問題になるのは「深部知覚
障害」です。体が滑らかな動きができるのは、「動け」の指令と「どう動いたか」の返戻(へんれい)があることで成り立って
います。指令の結果が返ってこないと、どう動いているのかが
わからず、動かせなくなってしまうのです。
リハビリのコツは、動かしたい体の場所を目で見ながら、
動いていることを想像することです。体が伝えきれない感覚を
視覚で補うのです。返戻が伝わり始めると一気に改善が始まり、1カ月程度で歩けるほどに治ります。脳の活動はいろいろな
指令で足りないことを補いながら目的を達成していることの
一例です。
姿勢が悪いと将来腰痛や神経の痛みに悩まされます。悪く
なる前に治すためには、背筋を伸ばし、良い姿勢を心がける
ことです。普段から姿勢が悪い方は、ぜひ歩く時の姿勢に気を
つけてみてください。(脳神経外科医 丸山隆志)
【丸山隆志:公式ホームページ】