IV期がんの患者さんの診療をしていると,時折,町医者症例
とは思えない病態の患者さんにお会いすることがある.
70歳台,女性.乳がん術後,がん性胸水貯留症例.
服用していた利尿剤は全く効果なし.
胸水貯留の勢いが強く,胸水が縦隔を強く圧排して心臓が
右側に押されている.
「おしくらまんじゅう」ではないが,心臓がギュウっと
押されているため,息は苦しいわ,心臓はバクバクするわ,
で結構ヤバい状況だ.
早急に,当院の連携病院への入院依頼を行い,胸水穿刺を
お願いした.(この状態の胸水を外来で抜くのはチト怖い・・)
入院胸水穿刺後.縦隔のシフトは軽減し,呼吸苦・頻脈は
改善した.
しかしながら,胸水穿刺はあくまで症状緩和のための
処置に過ぎない.このままでは ,また胸水が溜まって同じ
ことが起きてしまう.
コントロールできない胸水貯留に対しては,遅かれ早かれ
眠り薬で安静にさせられて終末医療となるであろう.
その道筋に騰(あが)らうためには,がんを抑えるための
「何らかの治療行為」が必要だ.
そこで,少量抗がん剤治療の出番となる.
世間様からどう言われようが,ウチはやる.
キードラッグはゲムシタビンだった.
しかも50mg/bodyという1回分の投与量は通常の1/20量だ.
(ゲムシタビンの1回投与量が100mg/bodyを超えることは
当院ではありません.)
効くときは,これで効く.
当院では,特に珍しい現象ではない.
少量ゲムシタビン投与から1ヶ月半・・・
胸水貯留は落ち着き,呼吸苦・頻脈は改善.
元気に外来通院中である.
「もうダメかも・・」が頭をよぎったのは事実だが(本人談),
今の状態が維持されれば元気な日常が続く.
治療の目標は「病態維持」&「元気に長生き」だ.