続きです.
さらにこの試験では、論文発表後に、予後のフォローアップ
調査が行われています。
特に、一般的治験では、治験に参加した症例群の元気さを
表すKPS値が70%以上であることが多いことから、
それに合わせた再解析を行いました。
その結果が、以下の数値です。
その前に、先ずは、
KPSでいう70%と60%はどんなものでしょうか?
70%では、自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働する
ことは不可能」
60%では、
「自分に必要なことはできるが、ときどき介助が必要」
と定義されています。
自分自身に必要なことができていても、“ときどき介助が必要か否か”
という、元気さの差しかありません。
しかし、この差でわけた場合、標準療法に自家がんワクチン療法を
上乗せして受けた膠芽腫の患者さんの3年生存率を改めて
見直してみましたところ、
(( 既に発表してありますように、手術前のKPS
で分けていない全体の患者さん(24例)では、
3年生存率 = 38%
でしたが、これをKPS値で2つの群にわけたときは、))
手術前のKPS 70%以上の患者さん群(18例)では、
3年生存率 = 54% になりました。一方で、
手術前のKPS 60%の患者さん群(6例)では、
3年生存率 = 0% だったのです
(最長の生存期間は35ヶ月でした)。
今回の見直し臨床データで、KPSで分けた場合を示す
生存曲線(カプランマイヤーカーブといいます)は、
のページの最下段の「図6」として、この度新たに
公開しました。
「図6」に示した自家がんワクチン群の試験
(UMIN1426)では、術前KPS 60%以上の方が試験に参加
できるという条件でしたから、より具合の悪いKPS 50%
以下の患者さんは、もともと参加対象から除外されてい
ます。
また、海外で実施されている臨床試験では、術前KPS
が60%でも除外するのが普通で、参加者のKPSは70%以上
にセットされます。
本邦で、膠芽腫の治療用に承認されている保険適応
の機器を使用した、国の承認の根拠となった国際的な
検証的試験(治験)でも、治験参加条件がKPS 70%以上
に指定されています。
そこで、「図4、5」と「図6」の、36ヶ月時点に
ご注目下さい。
・術前KPS 60%以上の方では、3年生存率は、
38%「図4、5」でしたが、
・術前KPS 70%以上に絞り込むと、3年生存率は、
54%「図6」となりました。
国際的な治験について発表されている論文から拾い
出した3年生存率は、「図6」の中の星印(☆、★)
で示されています。良くても25%程度しかありません。
これらの結果は、膠芽腫では、腫瘍の塊の端から正常の
脳内に深く浸み込むように、腫瘍細胞が広がっていきますが、
・術前に「ときどき介助が必要」なKPS 60%レベルまで
脳が腫瘍細胞に侵されますと、標準治療に自家がんワクチン
療法を上乗せしても、救命が非常に難しくなってしまうこと、
・「ときどき介助が必要」なレベルになる前に、遅くとも
KPS 70%レベルのうちに、極力早く腫瘍細胞を手術で
取り除いてしまわないといけないこと、
・そのため、MRI画像診断などで、膠芽腫らしいとわかったら、
直ちに手術が必要になること、を示唆しています。
そして、仮に術前KPS 60%の患者さんだけを対象にした場合、
もし、新たな膠芽腫治療法が有効だと治験で証明できるならば、
その新治療法は非常に価値が高いものとなることを示しています。
弊社としては、脳腫瘍治療に際して、標準治療に上乗せして
自家がんワクチン療法を採用していただければたいへん
有難く存じます。
また、読者の皆様の近辺に、もし膠芽腫かもしれないという
患者さん(候補)が出現されましたら、直ちに脳神経外科が
ある病院(できれば、最新の設備が整っている大学病院)
に駆け込めるように手配されることをお勧めします。
Reference
1. Ishikawa E, et al. Phase I/IIa trial of fractionated radiotherapy,
temozolomide, and autologous formalin-fixed tumor vaccine for newly
diagnosed glioblastoma.J Neurosurgery 2014 Sep;121(3):543-53. Epub 2014 Jul 4.