先日,たまたまある基礎医学系研究者と
高騰する薬剤費の話をしていた所,
薬の研究開発費の話になる.
1つの新薬が,
臨床試験を完遂し,世界の国家承認取得まで,
研究開発費が5,000億円かかる時代になった・・とか.
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/16/09/21/00115/
えっ??5,000億円??・・・
ゼロの桁が1つ多いのではないか?と思ったが,
研究開発費100億円単位の話は,既に過去のものらしい.
(例えば,2003年に承認されたゼローダ®の
研究開発費は200億円超くらい)
ボーとしている間に
時代の変化に置いて行かれてしまっていた.
最近の免疫チェックポイント阻害剤をはじめ,
薬剤費の高騰に,心中複雑な思いはあったが,
研究開発費の桁が1つ上がったのであれば,
年間百万円単位だった薬剤費が,
年間千万円単位と一桁増えることもやむ無しか・・・と
数字に関しては,妙に納得させられそうになる.
ここで,5,000億円と一口に言うが,
私のようなパンピー(一般人)には,
その5,000億円という数字が,
具体的にどういったお金としての“量”なのかを
容易に推し量ることはできない.
しかしながら,最近,
2020年の東京オリンピックの開催予算が
6,000億円から3兆円になったと,
世間が騒然となっていた時期があったかと思う.
そうすると,単純計算ではあるが,
仮に,一薬剤の研究開発費5,000億円としたら,
東京オリンピックの開催予算と同じ3兆円で,
6つの新薬が燦々たるエビデンスを掲げて
国家承認取得に至る・・ということか.
東京オリンピックの開催予算の3兆円かけて
6つの新薬登場・・・
この数字のバランスをどう捉えるか,ということなのだが,
個人的には,とても健全な経済感覚とは思えない.
ここで,
冒頭の研究者の言葉を借りると,
『ある治療法が,国の承認を得るためには,
正規の第III相試験を(できれば2回以上)実施し、
対照に対する統計学的有意差を出してみせなければ
なりません.すなわち、メタアナリシスでも有意差が
あることを示さないといけないのです.
これが、日本臨床腫瘍学会(米国FDAも同じ)の
基本的スタンスで、最近の抗がん剤開発には
5,000億円もかかる,といわれる原因の一つです.』
さらに,
『安全性,有効性のエビデンス提出と,保険収載に向けた
実施計画を提出し,長期の治験に耐えられる企業体力が
必須であることが否めず,これは,投資家を少々集めた
くらいではどうにもならないのが現状です』
とのこと.
要約すると,
“生半可なお金では,エビデンスの証明過程で
一文無しのスッテンテンになって路頭に迷ってしまう.
可能性のある治療法も,日の目を見るには金次第.”
ということだ.
ここには,患者さんの為に,なんらかの新しい治療,
有効な治療を生み出そうとしている
真面目な医療関係者の悲痛な叫びが聞こえる.
では,ここまでお金をかけながらの
厳しい基準で造り上げるエビデンスによる医療は
医療現場の患者ニーズを十分に満たしているのか?
というと,個人的には疑問を感じるとことが多い.
というのは,
どんなにエビデンス・バリバリの新薬が出たとしても,
その恩恵からこぼれ落ちる患者さんは必ず存在するわけで,
そうすると,いつの時代においても
新薬の継続した提供が,治療の行き場をなくした
がん難民を完全に無くすとはとても考えにくい.
がん診療の現場での重要項目の1つに,
“その時,その時での標準治療(エビデンス)から
こぼれ落ちた患者さんをどう掬(すく)い上げるか?”
というのがある.
エビデンス至上の方法論とは別に,
何らか他の方法論を患者さんの受け皿として確保しないと,
患者さんの多様性に,がん診療の現場が対応していくことが
非常に難しくなってきている.
となると,
解決法は,単純に患者に提供する治療の審査基準を
“規制緩和”するしかないんじゃね? と思うのだが・・
②に続く.