スライド作製等,発表の準備は大体終わった.
やっぱり,
たまには過去のカルテをひっくり返して見るもんだ.
興味深い症例が身近にあることを再認識する.
現在,長期間肺癌の経過を見ている患者さんがいる.
約5年前,肺がん根治術後に
『抗がん剤治療はイヤ,放射線治療もイヤ』
という患者さんに,
術後補助療法として自家がんワクチンを導入した.
病理組織学的には低分化型肺腺癌.
ところが,ワクチン投与から2ヶ月後,
縦隔リンパ節,右鎖骨上リンパ節に転移を認めた.
鎖骨上のリンパ節は,触診でゴリゴリと触れる.
喫煙者の肺がんはタチが悪いことが多い.
“これは,予後が悪い.厳しいぞ・・・”と内心思う.
さて,こうなると,
放射線治療はイヤだなんて言っていられない.
説得の上,縦隔と鎖骨上領域に放射線照射をおこなった.
放射線照射は著効し,転移リンパ節は著明に縮小した.
ここまでの経過を見ると,本症例は,
放射線治療が著効した症例であり,
自家がんワクチンは治療効果になんら
関与していないように思える.
ところが,この患者さんはその後
長期にわたり“無再発生存”で,最終的に根治に至る.(↓)
最近は,インフルエンザの予防注射(顔見せ)に
年1回,遠方より来院する.
高かった腫瘍マーカーも正常値に落ち着いている.(下図)
鎖骨上のリンパ節が,しかもゴリゴリと触れるような
肺がん症例は,一時的に放射線治療で転移巣が縮小しても,
その後,必ずと言ってよいほど遠隔転移が出現し,
長期予後はまず望めない.
ここで,放射線治療と免疫療法を併用すると,
抗がん効果の増強に繋がるという興味深い報告がある.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5378826/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/18777956
放射線でがんを崩すことにより
ハッキリと抗原(シグナル蛋白)提示がされるため,
免疫療法の治療効果が高まる,というのが
現象説明の考察になっている.
臨床経過から,
本症例いおいても同様のメカニズムが働き,
放射線治療の併用が自家がんワクチンの治療効果を
効果的に引き出したのではないかと推察した.
でないと,
この病態の肺がんが根治に至った,臨床的に説明がつかない.
もちろん,
全ての症例で同様の良好な結果が望めるわけではないが,
このような患者さんが存在するのは事実であり,
情報提示のひとつとしたい.